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靴喪神~とんでも一家とのにぎやかな日々~  作者: 清十亀
第3章 スツラムへの旅
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3-2 来訪者

 翌日、まずシャルルンがカーラの鑑定と話してみた。だが、

≪カーラの鑑定ちゃんは、まだ普通の知識も引き出すのに苦労してるわ。岸に生えている木の名前もまだまだね。どの特徴を伝えたら、木の種類がわかるのかというあたりから始めないとね。名前付けの効果を見るのだったら、‟普通の鑑定”がスムーズにできるようにならないと意味ないわよ。≫

 という評価なので、しばらくは目に入るもの、耳に聞こえる音や動物の声などを常に鑑定する癖をつけさせることにした。


 その後他の5人に、カーラには涼くんのことを秘密にしておくことを念話で伝えた。


 そんな準備を経て、カーラを含めた6人で会話による会議を開く。

 まずはシャルから、昨晩の“鑑定会議”の結果として、スツラムの成り立ちや現状について整理した結果を話す。

 続いてリサがファングから尋問した(ということにして)結果を整理して話す。

 その後、今後の行動を決めてゆくのだが、

「ベギンタールかトピコムで帝国の密偵と会う必要があるな。自力でスツラムの情報を得ようとするのは難しそうだ。とりあえず3日ほどベギンタールに滞在して、トピコムまでの旅の準備をしよう。冒険者ギルドに顔を出したら、買い物をしつつ町をうろつこう。」

 ベネが簡単にまとめたので、あっという間に終わってしまった。


 残り1日半、カーラはヨナやシャルから旅のお話を聞き、旅に向けての心構えを作っている。他のみんなは体を休めるか雑談をしながら心をほぐしながら過ごした。


 昼間、ベネの収納に入っていたシャルの小さくなった服をカーラにあげるというイベントがあった。客室についている小部屋でシャルとシャルルンがカーラを着せ替えて遊んでいる間、涼はおとなしく靴の中にいて、川面を流れる外の風景を楽しんでいた。

 そこに近づいてきたリサがネットワークを要求した。

 接続すると、リサたんが

〔今晩、リサから秘密の話があるわ。シャルルンには内緒で、皆が寝静まったら、リサにネットワークを接続して。〕

 これだけ言って、離れていった。




 その晩、涼はリサにネットワークをつないだ。涼は今、左靴の中にいて、シャルのリュックの中にいる。このためシャルやシャルルンとは離れた状態にある。


 現れたのは3人、実体化している。リサとリサたんと、和装の見知らぬ人?、ん!シャルルン?

 3人目は先日の家族会議で実体化したシャルルンにそっくりだが、落ち着きのあるたたずまいの女性だ。

〘涼さんですね。“しずか”と申します。この度はご迷惑をおかけしました。今回はあなたの中にいる者と話をしたいと思って参上しました。この状態を維持するのは、大変なので、いきなりですが精神構造を拝見します。〙

 軽くお辞儀をしながら、口早に挨拶する。

 涼は何を言われたのかわからず。視線をきょろきょろさせて、他の2人に説明を求める。“しずか”って、始祖の鑑定だった『しずか様』のことか?


 突然風景が変わった。涼の精神構造だ。シャルルンの施した塗り絵が視野全体に広がる。

 “しずか”と名乗った女性は、紫色に塗られた塊の前に歩み寄る。

 涼は昨晩の話を思い出した。

『たしか、リサたんが魔力塊と呼んでいた精神体だな。』

 しずか様は、魔力塊の表面に軽く手を置くと、「ドン!」と音がするような念を送り込む。


〖キャー! いきなり何するのよ!〗

 涼の体中を震撼させるような波動が通り抜け、涼と同じぐらいの年代の少女が出現した。

 細面の美少女で見事なプロポーションをしている。つまり、裸だ。

 涼は目が釘付けになった。視線を外そうとするが、言うことを聞かない。

 リサたんが眉をひそめて、念を込めると、少女が服をまとう。涼とお揃いの服を。


 少女はしずか様を見ると、びっくりしたような顔をして声を上げた。

〖マザー?〗

〘あなたのマザーではありませんよ。この世界のマザーです。ややこしいのでセイと呼びなさい。ここに来たのはマザーから何か伝言があったのではありませんか。〙

〖失礼しました。セイ様、マザーからの伝言です。『あなたの世界に侵入したのはチャウカイラだ』とのことです。〗

〘あれが、チャウカイラですか。チャウカイラであれば、対応できるでしょう。ご苦労様でした。

 間違って攻撃してしまったので、困ったでしょう。許してください。でも、この世界の最強戦力を集めましたから、この者たちと共に立ち向かってください。〙

 サラッと流すように話して立ち去ろうとするしずか様だったが。


≪どうしたの!何があったの!≫ シャルとシャルルンが飛び込んできた。

 2人はリサやリサたんの他に見知らぬ女性が2人いるのに驚き、動きを止める。

≪この人たちは?≫

 シャルルンが涼を見ながら、咎めるように問いかける。

 その問いかけを無視して、しずか様はリサの方を向くと、

 〘この子が娘さんの鑑定ですか。少し線が細いけど、付く人が違えば変わるでしょう。早いうちに息子さんに渡してね。

 あなたも疲れているのでしょうが、お願いしますね。〙

 最後の言葉は、魔力塊の少女に向かってしゃべりかけると、姿を消した。



 残った者たち、リサ、リサたん、シャル、シャルルン、涼と魔力塊の少女はお互いをうかがうように黙って見つめ合っていたのだが

「さて、何から話したらいいかな。」と、リサが口火を切る。

「まずは君だ。しずか様が・・・君からしたらセイ様かな・・・君を魔力塊の精神体として扱っていたが、名前はあるのか。」

 〖個体識別するための呼び名のことなら、マギーと呼んで。〗

「私はこのあいだ異次元の狭間はざまに行ったのだが、魔力塊が浮かび上がってくる世界があるのを見た。マギーはそこから来たのか?」

〖私のような者が居る世界って、たくさんあるのよ。〗

「私の見た世界からこの世界の間に来る途中に涼のいた世界がある。マギーは涼にぶつかって一緒に来たのだろ?」

〖それなら、そこかもしれないわね。〗

「マギーは私たちを識別できるのか?」

〖涼くんを通してこの世界に来てからの行動は見てるわよ。リサママさん。〗

「マギーは涼とどういう関係なんだ?」

〖あなたとリサたん、シャルとシャルルンと同じよ。ここでは“鑑定”って呼ばれてるんでしょ。さっきのセイ様はこの世界のマザーだとおっしゃったわ。リサたん、シャルルン、あなたたちはセイ様の子供よ。〗

「子供? どういう意味だ? 子孫ということなのか?」

〖私の得た知識の範囲で言葉にするなら、私たちは精神的な寄生体なの。

 新しい世界に到達し、その世界で新しい宿主と継続的な関係が持てるようになったものがマザーになるの。

 マザーは宿主の増殖に伴って、自分の分身をその子に残して行く。

 その先はそれぞれから分かれた分身だから、正確にはマザーの子じゃないけど、みんなマザーと精神的につながっている。あなたたちが言っている世界の知識っていうのはマザーのことよ。〗

【そうか!それで、始祖は世界中に2000人もの子を作ったのか。寄生体の数を増やすために。

 アレ?でも、始祖が死んだのに、なんで寄生体のしずか様だけが生きてるの?】

 突然、涼が口をはさむ。マギーは少し微笑んだように見えた。

 〖繁殖のためには寄生体が必要だけど、生存するだけならそんなものは要らない。そうでなきゃ、異世界を飛び越えられないでしょ。セイ様もどこかに巣を作っているんじゃない?〗

「古都か!」とリサ。

〔お城の地下でしょうね。〕と、これはリサたん。


「次の質問だが、しずか様はチャウカイラというやつが、この世界に侵入してきたと言ってたな。そして、『この者たちと共に立ち向かえ』といったように聞こえたのだが。最強戦士を集めたともな。どういう意味だ。」

〖チャウカイラというのは、私たちのような精神的寄生体よ。似たような生命体はいくつものあるけど、こいつは破滅性が高いの。つまり、宿主のことなど関係なく自分たちが増殖したらそれでいいのよ。だから増殖速度は私たちの10倍以上あるわ。でもそのために宿主は絶滅してしまう。せっかく私たちが宿主と共存する社会を作っても、後から来て、ぶち壊して去ってゆく。だから、見つけ次第せん滅するの。〗

「詳しいな。涼の中に閉じこもっていたようなやつとは思えん。」

〖異世界へ行ってマザーになるものは、意図的に生み出されるのよ。高い能力を持っているの。

 マザー同士は異世界間でも遠話が可能だし、予知に近い予測力も持っている。今回もセイ様から要請を受けて、マザー間で話し合った結果、チャウカイラだという結論になった。だけど、その結果を伝えようとしても、セイ様と遠話が通じなくなったの。

 さっきの様子を見て分かったけど、セイ様、死期が近いわね。

 だから私を涼に付けてここに送り込んだんでしょうね。〗


【ちょっと待った!僕は意図的に送り込まれたの?

 なんで!何の説明もなしに。】

 涼が感じたのは、理不尽に対する怒りだった。

 だが、次の言葉で思考が停止した。

 〖だって、あなた始祖の子でしょ。〗

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