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靴喪神~とんでも一家とのにぎやかな日々~  作者: 清十亀
第3章 スツラムへの旅
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3-1 スツラムの成り立ち

涼、シャルルン、リサたん。3精神体によるスツラムの国情分析回です。

精神体の会話は、【 】が涼、≪ ≫がシャルルン、〔 〕がリサたん、です。



 昨晩、皆ほとんど寝ていないので、夕食後は早めに休むこととした。

 カーラも興奮してはいたが、疲れが出たのだろう、早々に眠りに落ちた。


 今晩は、シャルはリサと一緒に寝ている。

 甘えているのではない。

涼、シャルルン、リサたんによる『精神体会議』を行うためだ。涼のネットワークがあるものの、鑑定同士のやり取りは、その持ち主が体を接触している方が早い。2人には手をつないでもらっている。

 テーマはスツラムの現状把握だ。涼が持っているファングの知識と世界の知識にある情報をすり合わせて、現状をできるだけ詳細に把握し、明日予定している今後の行動方針を決める打ち合わせに役立てるためである。

「日本では大きな会議の前に担当者が夜を徹して資料作りを行っている。」

 そんな話を涼がしたものだから、シャルルンとリサたんが張り切ってしまった。

 涼は「しまった」と思ったが、後の祭りである。



 約1000年前、大魔法使いオズ・ワールドが皇帝の前に現れ、その魔力でもって、6つに分裂していた帝国を再統一した。その後。帝国は2度目の遷都を行い、現在のフローネに移った。ラピュタは“古都”としてその城と共に名前を呼ぶことが禁じられた。

 リサたんが涼に対して行った落ち人への問いかけは、その後定められたものである。

 その問いかけに反応しなかったものの、落ち人と判断された2人。

 この2人はオズ・ワールドが帝国宰相を務めている時期に同時に落ちてきた。名前はニック・ボールズとキャサリン・クーパー、名前からして欧米人と思われる。苗字は異なるが夫婦である。

 この2人は当初オズの下で行政に携わっていたが、この世界の宗教観になじめず、専制君主制や鑑定による国民の管理制度に反発して、与えられた領地で独自の社会制度を構築するようになった。

この世界に落ちて来てから20数年、オズが引退すると、この2人は皇帝と対立し、あわや内乱にまで発展しそうになった。

 この2人を重用し、その才能を高く評価していたオズは、彼の最後の仕事と言われる長距離転移装置を使って、彼らとその賛同者2000人を新天地に移住させた。

 その新天地がスツラムである。


 その新天地の開発にかかる財源は、キャサリンが開発した医薬品、というか抗生物質だ。

 彼女はギフトとして転移と分析能力を持ち、さらに風魔法による飛行技術では師のオズをも凌いだといわれている。

元の世界で医療関係に従事していた彼女は、オズの開発した長距離転移装置と転移、飛行による短距離移動を組み合わせて、帝国全土ばかりでなく、東大陸の各地をも巡った。

主な目的は住民の生活環境の改善や基礎医療技術の普及であったが、同時に各地の‟奇跡の水・祝福の地”を巡り、抗生物質を生産する細菌や植物を探す旅でもあった。

 彼女が大量生産に成功した錠剤‟キャスラ“は、保存性に難があり、薬効が限定的であるにもかかわらず、安価で誰でも手軽に扱えることから瞬く間に帝国全土に普及した。

 この薬の製造技術をキャサリンは公開しないままスツラムに移住した。

 帝国はこの薬を得るために、開発資材や食糧を供給せざるを得なかった。


 この薬は200年前に大医師ジャック・コトーが落ちて来るまで、治癒、薬草と共に広く使われていたが、コトー医師の医療技術や薬剤の開発によってその必要性を大幅に低下させた。ただ、コトー医師も一部の薬の材料としてこの薬を使用しているので、規模は縮小したものの、帝国とスツラムの関係は細々と続いている。



〔というのが、世界の知識にあるスツラム建国の背景ね。〕

【はい、ちょっと質問。前の家族会議の時、リサたん、この2人はその後の記録がないって言ってなかった?】

〔そうなの! 1週間前調べた時には何もなかったのに、今日調べたらこれだけ出てきたの。それも、この2人とスツラムに関する内容が、スツラム移転後機密事項に指定されたこともわかるようになったわ。

 明らかに、鑑定の検索深度が深まったのがわかる。

 シャルルンはどう?〕

≪同感! 私もこの2人がいたことしか知らなかったのに、今日はその方面を探しに行ったらいっぱい出てくるわ。

 なんだろう。この一週間、今まで知らないと思っていたことが、次々‟知ってる”ことになってるんだけど。怖いぐらい。≫

【やっぱり、あれかな。2人ともご主人様に名前つけてもらったからじゃあないの?】

≪私は前からシャルルンよ。それに名前つけたら鑑定能力が上がるって、どういう理屈よ。≫

【シャルルンも、シャルちゃんにその名前が良いって言われたじゃないか。それまでは別の人がそう呼んでたってだけでしょ。

 名前つけたら、能力が上がるっていうのは・・・本で読んだことがある。小説だけど。】

〔その検証は、明日カーラの鑑定でしてみましょ。カーラに名前をつけてもらって、その前後で知っていることの変化を見ればいいわ。〕


【で、現状はどうなの?】

≪スツラムは、指導者を選挙で選ぶ。‟大統領”と呼んでるわ。

 別の30人がこれも選挙で選ばれて‟議員”になる。

 大統領は任期5年、2期まで勤めたら、もう終わり。

 議員は任期5年で、大統領選挙の次の年に開かれる。こちらは何期でも続けられる。

 両方を同時に兼ねることはできないけど、どちらかを辞めればもう一方に立候補できる。

 議員は法律を定め、大統領を監視して、辞めさせることができる。

 この2つが国のトップね。

 大統領が国を運営するけど、運営の仕方は議会が決める。そんな感じかな。≫

【僕の世界では、共和国って呼んでるね。】

〔大統領は5人の執行官を選んで、総務、民生、産業、教育、軍の分野の長とする。

 この執行官も議員と兼務は出来ない。それぞれの役所の長として、実務に当たる。

 役人は試験で採用される。政治的にはこんなところね。〕

【僕たちが入国するのに問題はないの?】

≪今ある知識だと、旅行者や亡命者の制限はないわ。交易も関税はとられるけど自由だし。入国の時、鑑定を受けて登録されるだけ。犯罪者は入国拒否か逮捕されるけど。

 昨年以降は情報がないのよ。

 スツラムには教会がない。代わりに学校でギフトや魔法を教えるのだけど、鑑定の教育の中に世界の知識への知識伝達方法が無いのよ。教会だと普通の鑑定は、ほぼ自動的に得た知識を世界の知識に送るよう教育されるのにね。≫

【シャルルンは教育っていうの受けたの?】

≪私は最初から、やり方を知ってたわ。隠し方もね。

 リサたんはどうだったの?≫

〔私も最初から知ってたわ。だから、教会で教育を受けた時、なんで世界の知識に全部教えなきゃならないんだって思ったわ。リサの行動を全部知らせたら、リサが大目玉食らうでしょ〕

【フ~ン。こちらの情報を渡さなくても、知りたいことは教えてくれるんだ。】

〔でもね、『何を知りたいか』っていうのも情報なのよ。普通の鑑定は‟世界の知識“があることを知らないの。『尋ねたら答えてくれる便利な能力』ぐらいの認識しかないのね。

世界の知識は誰の質問か判別できるらしいから、スツラムの人からこんな質問が多い、って情報が残るでしょ、それを教会の情報分析室-ベーネンドがいる部署ね-で解析するとスツラムの状況が推測できるのよ。

 それと通常ルートで得られた情報と合わせれば、実態がほぼつかめる訳。

 今回はその質問そのものが激減してるので、何が起こったか知りたいのでしょうね。〕

【じゃあ、現在の情報はどうやって集めたらいいんだろう?】

≪これから行くベギンタールやトピコムの冒険者ギルドか酒場で聞き込みするぐらいかな?≫

〔そんなの、帝国の諜報員がとっくにやってると思うわ。それで分からないって言ってるんだから、時間の無駄じゃない?〕

【その、帝国諜報員と接触する方法はないの? そう言う情報は調べられないの?】

 リサたんとシャルルンがしばらく黙る。そういった情報を検索しているようだ。

〔驚いた。帝国と教会には、情報を共有するグループを作成する部署があるんだ。そのグループ内だけで共有できる知識ってことは、他の人には知られないってことでしょ。〕

≪しかも、皇帝と教皇にはそのすべてのグループ内情報を知る権利が与えられてる。≫

【じゃあ、リサさんから皇帝陛下に頼んで、その諜報グループにアクセスできるようにしてもらったら?】

〔それには遠話って能力が必要よ。まさか、世界の知識がこんな伝言届けてくれるはずもないし。〕

≪できるかもしれない。

 皇帝陛下って、リサさんの情報を欲しがっているでしょ。

 リサたんが『皇帝陛下と連絡する手段はないか』って問い合わせてみたら?

 皇帝の鑑定が自動検索かけてたら気付くんじゃないかな。

 そうしたら、皇帝の方でグループに加えるとか、なんとかしてくれるんじゃない?≫

〔そうね。とりあえず問い合わせたわ。後は返事待ちか。明日まで待ちね。〕


≪それじゃあ。次はファングの記憶の解析ね。

 涼、調べたんでしょ。整理して言ってね。≫


【うん。細かいところは省くね。

 ファングはスツラムの商人の息子だね。首都のナデシコで生まれて育ったって。

 ギフトで隠形と拘束を手に入れたんで、調子に乗って女の子にいたずらばかりしていたらしいよ。それがバレたんで、捕まる前に逃げ出したそうだよ。16の時だって。

 親父さんの交易に同行して、何回か行ったことがあるトピコムに逃げ込んだんだ。

 そこでもギフトを生かして(?)3年ほど強姦や窃盗を繰り返していたみたいだけど、世話になった人の娘に手を出して、そこも逃げ出さざるを得なくなって、8年前にこのタラノスコ王国の国都ベギンタールにやってきた。

 そこでサルホスと知り合って、トリュンに来たけど、砦の崩壊でベギンタールに舞い戻ったんだ。

 ベギンタールでサルホスとトリュンの領主が組んで、貴族相手に誘拐ビジネスを始めるんだ。実行したのが闇鑑定持ちのサザーメンと言う男とファングだ。】

≪それ聞いたら、ファングがスツラムやトピコムに戻れないような気がするんだけど。≫

【そうだね。でも、5年ほど前にスツラム出身のテッドっていう鑑定持ちに出会うんだ。そいつから、スツラムの政情が不安定になっているので、今帰ったら出世するチャンスだって聞いて、金を貯めたらスツラムに帰ろうって言ってたよ。

 サルホスもテッドを子分にした後、彼の紹介でスツラム出身のギフト持ちを何人か雇ったって聞いている。教会に一緒にいたのもそいつらだって。】

 〔政情が不安定って、もう少し具体的にわからない?〕

【ファングはそういうのにあまり興味が無いらしくって、何も出てこなかった。】

≪ファングの知識からは期待できないか。何か使えそうなものあった?≫

【スツラムの首都ナデシコの地理かな。結構細かな路地まで知ってるよ。後はうまい飯屋とか昔の悪さ仲間とか。

 トリュンやベギンタール、トピコムの悪所や窃盗グループのアジトならいっぱい知ってるけど、こんなの役に立たないでしょ。】

〔そうね。目端の利く冒険者ギルドなら、そういうのは大概把握してるしね。

 それにしても、始祖が短期間で西大陸全土を征服した理由が、良くわかったわ。尋問も必要とせずに相手の秘密情報が得られるし、その信頼性も高いしね。〕

≪本当に、涼の存在は絶対知られちゃだめね。欲しがる人は山ほどいるでしょうしね。皇帝とか、皇帝とか、皇帝とか・・・≫

〔あの人ならやりかねないわね。リサは機転が利いて、おとなしい弟のように思っているけど、実際は謀略家よ。油断してたらシャルちゃんごと取り込まれるわよ。〕

≪じゃあ、もうしばらくはカーラには涼くんのこと内緒ね。念話ネットワークは私が構築してることにするわ。≫


 明日、スツラムについてはシャルが、ファングからの情報についてはリサから説明することにして、精神体会議を終了した。


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