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1-5 「鑑定」の答え

「「「ヤッター」」」

 リュウイが倒れ、パパが手を突き上げた時、私たちはいっせいに歓声を上げた。

「バディ様素敵♡」とヨナ姉。

 ヨナ姉、パパも褒めてあげて。なお、バディとはバグ兄のことだ。

 本名バグラディシュなので、家族はバグと呼んでいるが、自分だけの呼び名が欲しいと言って、2人の時はバディと呼んでいる。

 もう一度言うけど、バカップルである。


 見事な連携での瞬殺に興奮していたが、はっと気が付く。

 「ママ、ママ。あそこ。あそこ。何かいる。」

 布を投げ捨て、ママの頭をペシペシ叩きながら、右手で指さす。

 「彼の左足の上。形は見えないけど何かいる。」

 途端にママからとんでもない力があふれだした。

 探査と鑑定の流れが組み合わさった、???。

 ・・・名前は知らないけど。とにかくすごいのだ。

 負けずに私も探査範囲を限界まで絞り込んで“なにか”を見る。見る。もっと見る。

 ヨナ姉は「私には見えませんわ。お二人の力が眩しすぎます。こんなの受けたらその“なにか”大丈夫ですか?」と呟いた


 「「消えた!」」

 その“なにか”は私たちの力が届いた瞬間、掻き消えた。

 「“消した”じゃないですね。」ボソッと言うヨナ姉。

 そんなことありませんよ!

 消える瞬間、その“なにか”から感じた怯えは無視することにした。


 ママが走り出す。

 肩車されている私はその加速に負けないように必死にしがみつく。

 振り落とされたら絶対に死ぬ!

 瞬く間についた。

 ママは必死の形相で彼の左足をつかみ、穴が開くほど、本当に穴が開きそうなほど見つめる。

 私は肩車の状態で、ママの頭にしがみついている。

 まだ震えが止まらない。


 「僕のことは無視かい。」寂しそうな声がした。

 パパが何とも言えない顔でこちらを見ている。

 知ってますよ、パパ。

 手を広げて愛する妻を抱きしめようと待っている姿を。

 通り過ぎたママを唖然として見送り、恥ずかしそうに下した手を。


 「駄目だよ父さん。ああなったら何も見えてない。シャナ、何があったの。」

 浮遊魔法でゆっくりと飛んできたヨナ姉に微笑みかけながら、バグ兄が訊ねる。

 お察しの通り、シャナとはヨナ姉のバグ兄専用の愛称だ。

 最後にもう一回。バカップルだ!


 「さっきの彼、お母さんが鑑定できなかったそうです。」

 ヨナ姉の言葉に、パパもバグ兄も真剣な顔になる。

 「あいつもだが、これも含めて、ちょっと大変なことかも知れんな。」

 パパが、片手を回して広場全体を指しながら、苦々しく吐き捨てた。


 ママはまだ彼の左足を見つめたまま両膝立ちの状態だ。

 私は肩車状態で、動くわけにもいかず、目だけをあちこちと彷徨わせていた。

 左足の切り裂かれた膝。きめ細やかな布でできたズボン。足首の上まで覆う靴。

 ウン?靴?。

 泥と血でドロドロになっているが、所々に見える鮮やかで透き通るような青と赤と黄色。


「うわぁ、きれい!」思わず挙げた声に、私の土台が揺れる。

 アッ、ママが帰ってきた。

 急いで肩から降りると、前に回り込んでママの顔を覗く。

 遠くを見ていた目の焦点が定まり、私を見る。

 ゆっくりと顔を上げると、周りを見回し、パパのところで止まる。

 「ベネ、選択収納にまだあきはあるか。」

  ・・・みんなズッコケたと思うよホントに。


 みんなの微妙な顔に首をかしげながら、はっとした顔になって、

 「2人ともごくろうさま。見事な連携だった。」

 と照れ臭そうに言う。


 やっと緊張がほぐれて、お互いの業をたたえあう時間が生まれた。

 みんなでリュウイの周りを一回りしながら、10秒ほどに集約された、各瞬間の思いや自分の技術を解説する。


 「ところで、リサ。選択収容なんかなんでいるんだ。」

 一区切りついたと判断したのだろう、パパがママに尋ねる。

 「こいつだ。」

 持ったままだった左足をみんなに見せ、淡々と言う。

 「鑑定は世界の知識だ。私が示した人、物の解説だけじゃなく、状況を思い浮かべればそうなった理由やそのいたる先を示唆してくれる。

  <<???:そんなことできるのママだけです>>

 だが逆に言えば、世界が経験したことが無いことには答えてくれない。

 未来を予想することはできても、予知することはできない。

 まして、この世界のものでないものは答えようがない。」

 みんなが唾を飲み込む音が聞こえる。

 鑑定の真実。みんなも聞くのは初めてだろう。


 「先ほど私は自分が潜れる一番深いところまで鑑定を問い詰めた。

 そこで、過去に鑑定できないものがあったことを知った。

 彼は、この足の持ち主は、落人(おちびと)だ。」

 オオ~、という小さな声がみんなから上がる。


 “落ち人”。それは異世界からの訪問者。

 人外の能力を持ち、見たこともない魔道具を駆使する超人。

 私が知るのは5人。いずれも建国の祖や賢人、聖女。


 そんな彼が、この世界に来た瞬間、リュウイに殺された。

 私たちはその瞬間に出会ったのだ。


 だが、

 「彼はまだ此処にいる。」 ママが宣言する。

 「エッ!」「まさか!」「あれが!」言葉は違っても驚きは一緒だ。

 「先ほどまではこの“足”にいたのだろうが、今はいない。

 いや、今は感知できないだけかもしれない。

 彼を見つける手立てはこれから探すしかないが、居場所として可能性が高いのは、彼の肉体か持ち物だ。

 とりあえず、周りに散らばったものをすべて回収して保存する。」


「わかった。確かに選択収納すれば、確実にこの辺にある肉片や関連する物体は保存できる。

 だけどリサ。ジャンガに食われたものはどうする。

 生体内の物質を取り込むのは無理だぞ。」とパパ。


「仕方ない。殺すか。」

 ママがつぶやいたとたん。すべてのジャンガの視線がママに集まった。

 エッ、こいつら人の心を読むの?

 ママもびっくりしたのだろう。慌てて振り返り、今まさに彼の肉体を齧っているジャンガ達を睨みつけた。

 その途端、すべてのジャンガが全力でその場から走り去り、食い散らかされた肉片と骨だけが残った。


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