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2-24 サルホス失踪

 翌朝。今日は領主との会見の日だ。

 いつものようにみんなで朝食をとっていると、ゴメスが現れた。

 憔悴した顔で、動きもだるそうだ。

「すまん。逃げられた。」

 ベネの横に立つと、いきなり頭を深く下げて謝る。

 周りの目が一斉に集まる。

 とりあえずロビーに追い出して、慌てて朝食を済ませ、一緒にベネの部屋に行く。


 昨晩というか今朝未明の出来事を淡々と話すゴメス。

 聞いているベネは表情は変えないものの、申し訳なく思っているのか、落ち着きがない。

「まあ、けが人が出なくて何よりだ。俺たちにとっちゃあ、あの男は捨て場所に困っていた生ゴミみたいなもんだ。向こうさんが回収してくれたんだから特に気にはしないよ。

 復讐にくるかもって・・・大した奴じゃないよ。殺気を隠せない隠形なんか役に立たんだろう。拘束だって10m程まで近づかなきゃかけられないみたいだしな。」

 ベネの過剰なまでの自信に圧倒されたのか、不審な顔はしたものの、何度も『すまんな』と繰り返しながら帰って行った。


「危なかったな。もう少し早かったら、鉢合わせしたかもしれんぞ。」

「鉢合わせをしたら、やっつけるだけだろう。」

「あんな住宅街で乱闘してみろ、マルチナに怒られるぞ。」

 ベネとリサの会話だが、会話の意味はこうだ。

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 昨晩10時ごろ、リサたちは敵のアジトに侵入した。

 10人余りで警備しているはずだったのだが、実際にいたのは2人だけ。今考えれば、襲撃のため集められていたのだろう。あっさり気絶させて、建物に入った。

 面倒を見ているという女性は、2人が起きていたが、気絶させられたこともわからないだろう。寝ていた3人はもちろん熟睡してもらった。

 3人の女の子は、シャルに助けられたと思い、喜んで指示に従ってくれた。

 2人はすぐに家に連れて行って、家族に説明したが、とても喜んでくれた。復讐が怖いので、何も知らないことにすることで納得してもらった。

 ただ一人だけ。

「私、孤児院には帰りたくない。みんな気味悪がって遊んでくれないの。」

 まだ8才だという。

 鑑定してみたら、鑑定と治癒のギフトを持っている。両方持っているのは教会の中でも珍しい。もちろんまだ使えない、というか自分がギフトを持っていることも知らない。

 教会で働けると知って喜んでくれたので、サルバレスに頼むことにしたが、まだ早朝と呼ぶのも早い時間だ。こんな時間に教会に行くわけにいかない。

 昼過ぎまで預かってもらおうとマルチナの家に向かったが、家の近くで異変を感じた。バグの感覚が、大勢の悪意を持った集団を感知したのだ。ただ、用心しながら近づくと、その集団はすでに解散した後だった


 上の会話は、その時のことを言っている。


 早朝の訪問にもかかわらずマルチナは快く女の子を預かってくれた。悪意の集団には気付かなかったようだ。

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 時間通りに領主館に着いたのだが、何かあわただしい。

 門番に案内を頼んだが、慌てて館に駆け込み、中年の執事を連れてきた。

「本日、急な取り込みがございましたので、会見は中止いたします。」という。

 建物裏の倉庫に案内された。そこでリュウイを出し、受取書をもらう。

 あっさりと納品が完了してしまった。


 外へ出るとリサが涼のネットワークを要求した。

『サルホスとファングが失踪したようだ。かなりの大金を持ち出したようで、その際3人ほど殺している。』

『お前の地獄耳は本当にすごいな。建物の中の声まで聞こえるのか。』

『探査と結界と風魔法の応用さ。この間思いついたので使ってみたんだ。いい感じだぞ。』

『女の子たちを取り返したのがばれたのかな。それにしても、思い切ったな。』

【サルホスはリサさんを怖がってたし、あんなことができるのはリサさんだけだと思って慌てて逃げたんじゃないの。】

『昨日もそういうことを言っていたが、私には何の心当たりもないぞ。』

【ちょっと待ってね。サルホス、リサを恐れる理由・・・と。

 リサさん。サルホスの師と仰ぐ人を素手で殴り殺したことない?武装した10人で取り囲んだのに体当たりひとつで吹っ飛ばしたって。10年前トリュンで。】

『冒険者ギルドの件でマルチナたちに絡んでいた奴らかなぁ。そういえば、ボスを殺した後凄んでやったら、ビビッて一歩も動けなかったな。あの中にいたのか。顔を合わせたらすぐわかったかもな。』

『お前が本気で凄んだら動ける奴なんていないだろう。ところでそいつらどこへ逃げたのかな。涼、昨日ファングが故郷に帰るとか言ってなかったか。』

【言ったよ。ファングの故郷ね…スツラムだって。どこに…】

『『『スツラムだって!』』』

【ワァ!びっくりした。】

≪私たちがこれから行こうとしているところよ。昨日陛下から調査依頼があったの。≫


【ヘェ~、奇遇だねぇ。】

『奇遇じゃなさそうだな。涼が私たちに加わったことも、トリュンに来ざるを得なくなったことも、チュリオからスツラム行きを依頼されたのも、みんな単なる偶然じゃないぞ。何かの意思が私たちを動かしてる。』

『リサはトリュンに来た時から、そんなことを言っていたな。』

『おぅ、最初は気味悪かったが、開き直ったらうずうずしてきた。

 神か運命か知らんがお目にかかれるかもしれんのだ。こんなチャンスを逃せるものか。』

 ああ、これがリサだ。涼も含めてみんな感慨を込めてリサを見る。

『さっさとケリをつけて、スツラムに向かうぞ。』

『オゥ』と気勢を上げ、まずはマルチナの家に向かったのだが。


「私を連れてってください。何でもします。体は丈夫ですから、どこにでもついていきます。」

 攫われていた孤児院の女の子が、こう言いだしたのだ。


 涼は、変な気配を感じて、シャルルンを探す。居た。いつもの強気な感じではない。まさに「やってしまった!」と天を仰ぐような念を発している。

【シャルルン、何かやったの?】

 と問うと、

≪さっき、あの子、シャルと手を繫いでたでしょ。その時、あの子の鑑定を見てみたのよ。そしたら気が付かれちゃって。あの子、鑑定の方ね、目覚めて呼びかけてるのに何の返事ももらえなくて、寂しがってたみたい。≫

【寂しがって、って、高度な鑑定なの?】

≪まだどの程度なのかはわからないけどね。それで、本体への呼びかけ方法を教えてあげたんだけど…≫

【本体はシャルちゃんを信頼し、その鑑定はシャルルンに懐いた。って、ことだね。】


 仕方ないなと思いながら、ネットワークをつないでみんなに説明すると、

『おい、ヨナ。‟治癒”が揃ったぞ。』

 と冗談っぽくリサが言う。

『本当に何かいますね。まさか本気で天空往来みたいなことさせる気なんでしょうか。』

 とヨナが応じる。

『お前ら、受け入れる気満々じゃないか。こんな小さな子連れて、何があるかわからんところへ行く気か。』

『パパ、私だって4才の時から一緒に旅してたでしょ。私賛成。さっきお話ししていたけど賢い子よ。どこかに飛び出したくって、うずうずしてたんですって。絶対教会でおとなしくなんかできないわ。』

『父さん、僕も賛成だ。僕たちが独立する日も近いだろう。その時シャルのことが心配だったんだけど。年の近い友達がいるなら、その方が良い。』

『わかった。シャル、お前の妹として扱え。生き方を教えろ。シャルルン、鑑定の方の教育頼んだぞ。』


 何も言わず、目線だけで話している一家を見て、マルチナも女の子も不思議そうな顔をしていたが。

「よし、ついて来いよ。もしダメだったら、近くの教会に預けるぞ。」

 というリサの声で、満面の笑みを浮かべる女の子。マルチナは眉をひそめる。


「ありがとうございます!絶対についてゆきます。」

「わかった。で、名前は?」

「今までの名前は嫌だったんです。新しく付けてください。」


‟それは、頼む人を間違えているぞ!”

 他の4人と3精神体はあせったが、

「よし、お前はカロライナだ。呼び名はカーラでいいだろう。」

 おっ、普通だ。

 と、みんな安堵した時、

『カロライナ・バリュー。天空往来の癒し手ですね。』

 ヨナの解説が流れた。


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