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2-21 今後の方針

ちょっと時間が戻ります。時系列では19話の続きです。

 冒険者ギルドを出たウォルター一家は、屋台で昼食を済ませて宿に帰り、ベネの部屋に集まった。

「シャルルン。涼はまだ目覚める気配はないのか?」とリサが訊ねる。

≪まだ‟吸収”から吐き出しているわ。シャルちゃんの時より遅いみたい。ただ、ノッドの動きや思考空間の再構築速度は早くなってるような気がする。≫

 シャルを通じて、シャルルンが答える。


 リサは一同を見回すと、改まった口調で話し始める。

「チュリオと話をした結果だが、」

「「「チュリオ?」」」

 ベネを除く3人が思わず聞き返す。

「皇帝陛下の幼少期の御名だ。リサ、せめて陛下と呼んでくれ。」

 ベネがこめかみに右手を押し当てながら、ため息交じりに注意する。

「あいつがそう呼べといったんだぞ。」

「2人きりの時ならいいが・・・良くないか。

 俺たちを巻き込むな。サルバレス卿じゃあないが、心臓に悪いからやめてくれ。」


「かつて鈍感王と呼ばれた奴が何を言う。ま、話を進めるぞ。

 陛下の要望は3つ。1つ目は、バグ、シャル。お前たちが皇帝になる素養を持っているかどうか知りたいので、フローネにきてほしいそうだ。」


「「「「ハア~!」」」」

 今度はベネも加わって大合唱である。

「ジブラトス帝国の皇帝は、始祖パズドーラの定めで、その世代の子供たちの中で最も高度な鑑定力を持つものが継承することになっている。

 私の世代では、私のリサたんが群を抜いていたので、親父は私に継がせたかったようだが、周りは『とんでもございません!』の大合唱で、チュリオを担ぎ出してきたんだ。

 親父はそれを封じるためチュリオを暗殺しようとした。私はベネからそれを聞いた時、親父を殺そうとしたんだが、ベネに止められた。それで、死んだことにして、皇位がチュリオに行くようにしたわけだ。

 今あいつには、36人の子供がいるが、まだ誰も鑑定を付与されていないそうだ。

『鑑定無き者は皇帝に非ず。』

 1200年前、始祖から5代目の皇帝に鑑定持ちが生まれなかった。ちょうど始祖が姿を消した直後だったこともあって、次期皇帝をどうするのか、ルールもなければ裁定者もいない。国を挙げての大騒動になった。

 その時は皇族の一人を皇帝として乗り切ったのだが、なにせ始祖には2000人と言われる子がいる。ほとんどの貴族には始祖の血が入った鑑定持ちがいるし、平民にも高度な鑑定を持つ者がいて、教会で高位についている。揉めない筈がない。

 その後200年余り、皇帝の継承争いは激しくなってきて、一時期、国が6つに分かれるような事態になった。

 バルス王朝の終末だと思われたとき、皆も知っての通り、大魔法使いオズ・ワールドが落ちてきて、膨大な魔力を駆使して帝国を再統一した。そして継承のルールを細かく定めて、皇位の継承がスムーズに行われるようにした。

 それ以降、皇帝の子には必ず複数の鑑定持ちがいたから、問題にはならなかったのだが。

 チュリオ・・・陛下の懸念は、1000年前に作られたルールを知らぬものが多くなっているため、1000年前の混乱が再び起こるのではないか、ということだ。」


「だったら、シャルはともかく、バグまで呼び出す必要はないだろう。」これはベネ。

「バグは17才だ。まだ、鑑定が付与される可能性がある。

 チュリオの子は最年長が15才、鑑定さえ持って入れば年長のバグが帝位についても摩擦は少ない。シャルだと8番目くらいかな。しかも女だ。女皇にたいする拒否感を持っている奴らはかなりいる。

 ああ、それとチュリオは別に皇帝なれと強制しているわけじゃない。2人が将来の可能性として、使えるかどうか知りたいだけだと思うぞ。」

「ママが継承するのはダメなの?」シャルがおずおずと声をはさむ。

「私の後始末をするぐらいなら、自分がやった方が良いと思っているようだぞ。」

「それは正しいと思うよ。

 でもね、母さん、俺は自分とシャナの幸せを考えるだけで、いっぱいいっぱいだよ。赤の他人の幸せなんかに責任持てと言われたって、いやだね。

 政治にかかわるつもりなら、ベルケルクで伯爵から誘われたときに、そうしたよ。」

「私も嫌。この間教皇にならないかと言われた時もだけど、私は何かに縛られて生きるなんて、考えられない。縛るのなら自分の好きなことで縛りたい。」


「まあ、予想通りの答えだな。それじゃあ、この件は終わりだ。」

 あっさりと言い切ったリサに、一同、あっけにとられた。

「いいのかリサ。陛下の要求を断って。」ベネの声は若干震えている。

「後の2つの頼みというのは、今の話を断った場合のことだ。あいつも最初から無理だと思ってたんだろう。

 2つ目は私個人への頼みだ。」

 そういうと懐から、先日の家族会議の時リサたんの依り代とした大きな宝珠を取り出す。


 リサは収納能力を持っていないので、代わりに‟収納袋”を持っている。

 収納袋は収納能力を魔道具として固定したもので、一抱えぐらいの荷物しか入らないから、貴重品入れとして使われる。作ることができる者が少ないので、値段は小貴族の屋敷一軒分ほどする。


「これは‟豊穣の光珠みたま”と言って、私の母の形見だ。帝国の一部地域で来年飢餓の恐れがあるそうなので、貸し出してほしいとの依頼を受けた。明日サルバレスに状況を確認して、必要だと思ったら貸し出すことにする。」

「やっぱり。」大きなため息をつきながら、ヨナが感慨深そうに言う。

「前に見たとき、そうじゃないかと思ったんですが、帝国の国宝がこんなところにあるはずがないなんてと思って言わなかったんです。でもその珠から発する柔らかくて浸透力のある波動は、本当にあらゆるものを癒すという噂通りですね。」


「3つ目は、冒険者としての私たちへの偵察依頼だ。行先はスツラム。報酬は金貨500枚。」

「スツラム?」「金貨500枚!」

 全員が疑問と驚愕で混乱し、互いに顔を見合わせる。


「スツラムはこの大陸の東北部、小ベルン川の上流にある小国だ。前に落ち人の話をしたが、その中に『その後の情報がない』のが2人いたのを覚えているか?

 1000年ほど前、その2人が作った国だ。帝国制度や教会の思想、鑑定による情報収集などに反発していたのだが、オズ・ワールドが長距離転移装置を作って2000人の信奉者とともに、その地に送り込んだ。

 オズは社会実験と称していたようだが、その後も帝国は技術や食糧の援助、不平分子の送還などわずかだが接触を維持してきた。

 昨年その接触が突然絶たれたようだ。その後、調査員を送り込んだが一人も帰ってきていない。当然向こうの情報も無しだ。

 依頼内容は、接触が絶たれた原因の調査。

 機器の故障や天災による壊滅なども考えられるが、一番可能性が高いのは政治体制の変化、混乱だと思われる。

 チュリオは我々の能力に期待するとは言っていたが、本当に言いたいのは『早く終わらせて、フローネまで金をとりに来い。』だと思うぞ。」

「期限は?」と、これはベネ。

「特に言われていない。行くだけで1ヵ月以上かかるんじゃないのかな。

 さて、受けるかどうか、誰か意見はないか。」

「俺は行ってもいいと思う。」

「バディが行くなら私も。」

「未知の世界。面白そう。」

「リサが行く気なら、俺は構わんぞ。」

「よし、全員一致でこの依頼受けることにする。私の心づもりでは、仕事の報告は鑑定を通じてできるから、終わった後、東部地域をあちこち行ってみよう。

 帝国へ行くのは、バグが20才になる頃。あと2年とちょっとだな。バグとシャルは、一番目の依頼『皇帝になるか?』というのを考えておいてほしい。帝国に行かないという選択も含めて、いろいろ考えてみろ。」


 リサの話が一段落したので、夕食まで一旦休息することにして、各自部屋に帰った。


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