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2-17 教会の惨劇

久しぶりにシャルの視点です。

 10の月、13日、金の日

 今日はママがジブラトス帝国の皇帝陛下と会談する日だ。

 朝食の後、いつものようにお茶を楽しむ。

 ママはいつも通りだ。落ち着いている。

 パパはちょっと緊張気味かな。会談には出ないのに、変なの。


 シャルルンと涼くんは張り切っている。涼くんはワクワクしてるというより、自分から何かやりかねない雰囲気だ。おかげさまで、シャルルンが涼くんに集中しているので、落ち着いて見える。この関係が私には一番安心できる。

 私は今落ち着かない。訓練場の看板を思い出すたびに起こる破壊衝動を抑えきれない。私が目指すところは『積極的だけど自重できる』こと。もう少し経験が必要かな。



 10時ごろ、約束通り領主の代理という人がヘギンスさんと一緒に金貨120枚を持って来て、リュウイの内臓を収納して帰った。金貨はパパがすぐに収納した。

「気味が悪いな。」パパの感想は、ママも私も同じだ。


 いつもより遅く出たので、教会には昼の30分前に着いた。

 尾行は昨日と同じ、前に1人、後ろに2人。ワイドメルは隠形中。


 受付でママが名乗り、案内を乞うと、驚くべき人が現れた。

「ここの支部長をしておりますダイソン・マーズと申します。」

「あなたは慰霊祭にいらっしゃってるのではないのですか?」

 ママも驚いたようだが、冷静に観察しているのがわかる。

「今日の私は式典の添え物でして、最初と最後に顔を出すだけですので、今は休息時間となっているのですよ。」

 ニコニコ笑いながらそんな軽口をたたくが、そんなはずはないだろう。枢機卿の執り行う式典を抜け出してきたに違いない。

「実は、本日帝国と映像付き遠話を行うということで、遠話用の特別室をご用意しているのですが、入室に際して特別な資格を必要とするものの同行が必要でして。どういう方が来られるのか興味があったものですから、私がご案内することにしたのです。冒険者の方と聞いていましたが、これほどの気品を備えた方とは思いませんでした。サルバレス卿が懇意にされているのも納得です。」

 この教会が醸し出す軽快な雰囲気の大本らしく、率直で気軽な言い回しを使う人である。

「入室には特殊な文言が必要ですが、退出は自由ですので、入室いただければ私は失礼して、慰霊祭に戻らせていただきますよ。」

「ご案内、痛み入る。」

「ところで、その間お2人はどうされますか? 休息室を準備させますが。」

「そういえば、訓練場をお借りしていたお礼をしていませんでした。こちらが夫のベネと娘のシャルです。魔法練習のため場所をお貸しいただきありがとうございます。今日も使わせていただきたいのですが。」

「お噂は聞いております。昨日は申し訳ありません。今日、訓練場は他の者が使わないように指示しておりますので、心置きなくお使いください。」

 そういうと、ママを案内して奥へと入って行った。


 訓練場にはダイソン支部長の言った通り誰もいなかったが、

「涼、念話を。」小さいが緊張した声でパパが涼くんに言う。

 涼くんが素早く手を伸ばしてパパと繋がる。

『シャル。探査してみろ。』

 訳が分からないが、訓練場を探査する。特に異常は感じない。

 そう言うと、

『シャルルン、涼。お前たちにはどう見える。』

≪私にも何も見えないわ。≫とシャルルン。

【何もないように思うけど、あえて言えば薄い影のようなものが3つあるよ。】

『俺には探査というギフトはない。だが、戦いの中で敵の気配を感じるすべを知った。この場には5つの悪意がある。遠くにも2つ、これは訓練場の外だな。

 3人でその場所を突き止めてみろ。』

 パパは落ち着いている。緊張感はあるが。


 まず、涼くんの感じた影の位置を詳細に探査するが、何も反応がない。

 シャルルンが思いついて、風魔法で地面を撫で、ほこりを立たせて、目的の場所に吹き付けると渦流が出来た。何かいる!

 負けじと私も知恵を振り絞った。今できることで何かないか。

 思いついた!

 光玉を出し、腰の高さで影の周りを走らせる。見えた!光が揺らぐ場所が3つ。人がうずくまった形。

 残り2つは?

≪そうか。そういう手もあるのか。≫

 シャルルンがそう言うと訓練場に拳大の100個近い火玉が浮かび上がる。それらがいきなり無秩序に走り始めた。

「ぎゃー!」「あちちち!」「くそったれがー」

 悲鳴や悪態とともに、5人の姿が現れた。涼くんが気づかなかった2人は木や建物の陰にいたようだ。

【あ~、それ僕もやろうと思ってたのに。おっきな火玉を連射したかったのに~。】

≪あんたはそれやっちゃダメ!ここを火の海にする気なの!≫

 シャルルン、あんたが正しい。


 パパは緊張を維持したまま笑っていたが、転がり出た5人が衣服に着いた火を消し終えたのを確認すると。

「で、お前ら何もんだ。今日ここは立ち入り禁止のはずだが。

 身をもって娘の練習台になってくれたのには感謝するが、その殺気はいただけないな。」


 5人のうち4人は冒険者風の装いで、腰に剣をいている。残りの一人は拳闘家のような作務衣を着ている。

 その作務衣を着た男がゆっくりと近づきながら、

けつに火ぃつけられたら、殺気も出すがね。初心者のくせにすげぇ魔法を使うやつがいると聞いてたが、まさか火と風の初級魔法だけで隠形を破るとは思わなかったぜ。」

「そりゃあ、お前らが未熟だからだろう。俺たちが入ってきた時から殺気が隠しきれてなかったぞ。

 おっと、それ以上近づくんじゃない。」

 作務衣の男は10m程まで近づいていたが、パパの制止を受けると足を止め、にやりと笑う。

「バ~カ、もう十分なんだよ。」

 男がそういった途端、何かが体にまとわりつき、体が動かせなくなった。


 呼吸は出来る。心臓は動いている。頭も働く。視線も動く。

 だが、姿勢は変えられない。言葉は出ない。魔法やギフトの発動もできない。

 パパも同じだ。怒りの表情を浮かべ、体中に力をみなぎらせているが、動けない。


【エッ、2人ともどうしたの? 何かされたの?】

≪拘束っていうギフト持ちよ。とっても珍しいし、危険なので、特別に監視されてるはずなんだけど。この町にいるなんて情報はなかったのに。

 ダメ、シャルちゃんが拘束されたので、鑑定も魔法も使えない。≫

『念話は出来るのね。涼くん、パパとつないで。』

 【了解。僕には特に何も感じられないんだけどなぁ。】

『パパ、聞こえる?』

『おっ、念話は出来るのか。すまんな油断した。

 サルホスめ、こんな奥の手があったのですんなり金を差し出したのか。

 涼は動けるんだな。

 だったらちょっと奴らの言い分を聞くぞ。何か漏らすかもしれん。」

 結構危ない状態じゃないのと思うのだが、パパは落ち着いている。


 私たちがそんな会話をしている間に、やつらの一人が口笛を鳴らすと、荷車を押して2人入ってきた。

 積んであった大きな麻袋とロープを持って、作務衣の男ともう2人が私の方に、残り4人がパパに近づく。

「しばらくつらいが袋詰めするぜ。場所を変えたら交渉だ。それまでに腹をくくっとけよ。でねえと嬢ちゃんとは一生会えねえぜ。」

 後から来た2人のうち年配の男がパパに向かってそういうと麻袋をかぶせてゆく。

 こちらに来た2人も麻袋を広げたが、

「あれ?この顔、なんか覚えがあるな?」

 作務衣の男が、シャルの顔を覗き込んで首をひねる。

≪こいつだ!4才のときシャルを攫ったのは。そうか、あの時拘束されてたから何もできなかったのか!≫

 シャルルンが憎々しげに叫ぶ。

「そうだ、小さいころに攫った子か。よく生きてたなあ。いい女になったじゃないか。」

 いやらしい笑いを浮かべて、シャルの眼を覗き込み、手をシャルの顎にかけて撫でようとする。

≪今だ!涼、やっちゃえ!≫

【OK。その汚い手を放せ。コピペ!】

 作務衣の男は声も立てずに崩れ落ちた。


 次の瞬間、シャルルンの放った風の刃が麻袋を持った男の首を薙ぎ、シャルの放った火玉がもう一人の男の胸の中で爆発して上体を吹き飛ばした。


 その間に、パパは麻袋を被ったまま男たちに襲い掛かる。

 2人は頭を殴りつぶされ、2人は足で蹴り飛ばされて体が曲がってはいけない方に折れ曲がって転がった。


「うわぁ!スプラッタ!」

 突然、空から声がした。

 抱き合ったバグ兄とヨナ姉がゆっくりと降りてくる。

 麻袋を脱ぎ捨てたパパが、

「お前らどうした? 結界に引っ掛からなかったのか?」

「そうなんだ。川沿いに教会の裏まで来たら、結界がないんだ。

 何かあったなと思ったから、岩山を超えたら・・・・

 これ、なに? どうしたらこうなるの?」

 バグ兄が顔をしかめて、訓練場の惨状を顎で示す。


≪まだ、隠形持ちがいるはずよ。教会の結界がなかったら入って来るはず。≫

 シャルルンの警告をヨナ姉に伝えると、ヨナ姉は目を閉じ集中する。

 突然入り口付近に灰色の霧が発生すると、小さな稲妻が走る。

「殺すな!」パパが叫ぶ。

 霧が霧散し、倒れた人影が現れた。ワイドメルって言う人だったっけ。

「大丈夫、生きてるわ。」

 私はすぐに探査し、心臓の動きを感知してパパに告げる。

 バグ兄が倒れた男に駆け寄り、周りを確認すると、担ぎ上げ、入り口の扉を閉めてからこちらに戻ってきた。

「で、どうするの?」

 バグ兄がパパに問う。


 結局、ヨナ姉が気を失っている2人を1人ずつ岩山を超えて教会の裏に運び、最後に荷車と麻袋を収納したバグ兄を運んだ。バグ兄とヨナ姉の2人は教会裏で袋詰めの作業後、待機する。


「しゃーないなぁ、選択収納って、こんなことに使うためじゃないんだぞ。」

 パパがぶつぶつ言いながら訓練場に散らばった死体や肉片、血などを収納してゆく。

 私は探査で収納漏れを確認だ。

 選択収納も5個目なので実容量の25倍、人6人分だから、150人相当の容量を消費して、清掃活動を終えた。


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