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2-14 リサの魔法指導

 教会の訓練場に来た。他の人はいない。

 入り口付近にある魔法を発動させるエリアに立つ。


 先ずはこれまでの復習から。

 シャルと涼が交互に光玉を出す。何回かおこなって、2人の光の強さを合わせる。


 距離を離して行く。毎回5mずつ伸ばす。

 シャルは毎回同じ強さの光で距離もほぼ同じだけ離して行く。

 涼の方は雑だ。光の強さが毎回違うし、距離も大きくぶれる。

 代りばんこに行うので見ている者には、ピカ・ドン・ピカ・プス・ピカ・ガン・ピカ・パーン・・・

 下手な鼓笛隊のようだ。それでも、100m先までは伸ばせた。

 近くの椅子に腰をかけていたリサは腹を抱えて大笑いしている。

 ベネは練習場の周りを点検してしながら、あきれたように首を振っている。


 次は持続の練習。

 シャルの2m程前に光が2つ灯る。1つは安定して同じ明るさを保っている。もう1つはモワモワっと不安定な光、時々位置がぶれる。どちらがどちらの灯りかは言うまでもない。

 それでも消えることなく、10分程度は続いた。


「シャルは制御がうまいな。始めたばかりとは思えん。」

 ここでリサ先生の講評が入る。

「探査や結界を維持するので慣れてるから。涼くんはどう?」

「始めて3日目とは思えないほどだぞ。魔力をあれだけ無駄遣いしてよく続くな。」

【ほっ、褒められたのかな? 疲れた~。】

≪褒められてなんか無いよ!あきれられてるだけ。≫

「なまじ大きな魔力を持っているので、力技で調整してるだろう。使う魔力量を減らして、少ない魔力でどうやったら続けられるかという練習をしろ。」


「ところでシャルルン。お前の魔法はどうなんだ?」

≪どうって?≫

「光玉で何ができる? 巨大なやつとかはダメだぞ。目立たない程度で。」

≪そうね。こんなのはどう。≫

 突然、目の前から5m間隔で訓練場の端まで、次々と光が灯り、1直線に並ぶ。さらに折り返してもう1列。

 3列目が始まった所で、

「もういい。とんでもない奴だな。」と、リサがストップをかける。

 今度はついた順番に消えてゆくが、途中から閃光を発して消える。それも徐々に大きくなったり小さくなったりしながら。

≪こんなもんでいかが。≫

「お前目立ちたがりだな。鑑定なんかやってないで、実体化したらどうなんだ。」

≪・・・しずか様のように?≫

 挑戦的な声で、シャルルンが返す。

「駄目よ!シャルルンは私のシャルルンなんだから!」

 シャルの必死の叫び声が、緊張しかけた空気を吹き飛ばした。

≪大丈夫よシャルちゃん。私の魔法はあなたを通して発現してるの。あなた無しでは何もできないわ。≫


 火玉の練習に移る。

 こぶし大の火玉を出現させ、その大きさを変化させる。人の顔の大きさから爪の大きさぐらいまで、炎の強さを一定に保ちながら。

 シャルは5回ほど続けるが、小さくした時に消えてしまった。

 涼は問題外である。こぶし大の大きさを維持することは出来るが、大きくしようとすると一気に人の大きさに膨れ上がり、爆発する。または小さくしようとしてあっと言う間に消してしまう。


「涼は、加減する魔力の単位が違うな。自分本来の魔力単位を細分化するのは難しいぞ。涼はもっと重たいものから入った方がいいんじゃないか。」

 リサがこう言った途端、全員に緊張が走る。

≪『【始まった。】』≫

「心配するなリサたん。初歩的なやつだよ。魔力が少ない奴には無理だから最初に教えていないだけだ。」

 きっと、リサたんが必死で止めているんだろうなと思えるセリフであった。


「涼は光玉や火玉の原理はわかるか?」

 結局一度やってみようということで、リサに任せたのだが、最初がこんな質問なので一同拍子抜けだ。

≪まともなこと言ってる!≫


【魔素を使って空気の分子運動を活発化してるんでしょ。そうすると温度が高くなったり、光を発したりするようになるって、聞いたような・・・気がする】

「さすが落ち人だ。世界の成り立ちを理解しているようだな。」

【世界の成り立ち? そんなもの知りませんよ。】

「まあいい。それじゃあ温度を下げるにはどうしたらいい?」

【分子運動を不活発化すればいいんだろうけど。不活発化するには、温度を下げる? あれ?逆か。】

「そう、魔素を使って分子運動を遅くすればいいんだよ。」

【じゃあ、さっきは魔素を圧縮したから、今度は魔素の密度を薄めるとか?】

「いや、魔素を薄くしても何も起こらないぞ。魔素を圧縮したのは、魔素のエネルギーを空気分子に移行させたんだ。今度は魔素を膨らませるイメージを持って空気分子のエネルギーを魔素に吸わせてみろ。」

【なんかムチャクチャ科学的なんですけど。とても中世風の世界観で起きる発想とは思えないよ~!】

「難しいか? 同じ落ち人のオズ・ワールド、大魔法使いが魔法を解析して体系化した‟魔法大百科”に載っているんだが。

 もっとも、使う魔力量がけた違いに大きいので使えるやつが少ないそうだ。」


【オタクの落ち人が出来たんだ。俺にもできるはずだ。確か、リサさんも使ってたなぁ。よしやってみるか】

 先ほど圧縮点を作った空間に集中し、今度は魔素を膨らませて、周りからエネルギーを取り込ませる。

 何も起きないけど、続ける。ずーと深くまで潜り込んで、魔素に空気の振動エネルギーをとりこませる。ずーと遠くまで・・・・・・・・


 ピシッ!!!!

 涼の指定した圧縮点から尖った氷の塊が生じ、キシ!、ピシッ!と言う音を立てながら向こう側に向かって腕の太さほどの氷の槍が伸びてゆく。

「パパぁ!!!!」

 シャルがその氷の向かう方向にいるベネを見つけて大声をあげる。

 ベネはこちらを振り向き、一瞬身構えるが、すぐ力を抜いて後ろに下がる。

 その横5m。ガシ!と言う音と共に氷の槍が岩肌に食い込む。

 涼は何が起こったかわからないまま呆然としていたが。

 バシン!  バシン!

 シャルルンの張り手が炸裂する。往復で。

 涼の気が何処かへ飛びそうになった途端、氷の成長が止まった。


 だが、時遅く。

 ガイ~ン!という大きな音を立てて岩山の下部が割れ、3m程が崩れ落ちた。



 これだけの大音量と振動が起こったのだ、教会中から人が飛び出してきた。

 涼は人に見えないから、シャルがやったことにして、謝りまくる。

 不思議なことに、驚きの声はあるが、非難の声が無い。

 サルバレス枢機卿の知り合いだということもあるが、・・・・・・・


 翌日、崩れた岩山と崩れ落ちた巨石の前に真新しい木のプレートが掛けられた。

『ベルケルクの魔女の妹シャル・ウォルター、初めての魔法でこの岩山を崩す。』



宿に帰ってきたが、シャルちゃんは‟激おこ”である。

涼やシャルルンの念話にも応じない。

夕食の時もベネやリサに返事もしない。


だが、バグたちが帰ってきて、報告を受けると一変した。

バグが東の波止場近くで買い物をしていると、昔の友達から狩りに誘われたというのだ。

明日(12日)から明後日(13日)にかけて、北の山に出現した熊の退治をするという。冒険者ギルドでのバグの剣技や教会でのヨナの魔法の噂を聞いたそうで、助力を求められた。

ベネにも心当たりの名ではあるが、9才のころ子供たちだけで市内や東の森で冒険ごっこをした程度の仲だ。ばったり出会って気づく仲でもない。実際、バグには初め誰かわからなかった。

「仕掛けてきたな。明日金が入り、明後日は領主との会談だ。その間、お前たちの戦力を分散させるつもりだ。」

「でも、あいつそんなことをするような奴じゃなかったよ。周りの友達からも悪意は感じられなかったし。」

「別にそいつらが悪人と手を組んでいるわけじゃないだろう。山に熊が出たという情報とお前らの話をして、自分たちから誘うように誘導したんだろう。

若くて手柄を立てたがっている奴らにはもってこいの話だぞ。」

「なるほど、サルホスならやりそうだね。そういう陰険なところ。」


「ごめんね。私のために。」

シャルが泣きそうな声で言う。

「別にシャルが悪いわけじゃないだろう。この中で一番弱いと思われてるだけだ。もしかすると今日の件、役に立つかもな。それで引いてくれたら恩の字なんだが。」

ベネの慰めに、バグとヨナは顔を見合わせて、首をひねる。「今日の件?」

ここで、涼がみんなを手(触手)でつなぎ、シャルルンが念話で今日の出来事を説明する。その場に尾行者がいたことも。


「母さん。あれほど言ったのに!」ヨナが絶望的な声を出し、天を仰ぐ。

「だって、氷の魔法は魔力量がいるだけで、初歩的な魔法じゃないか。」

「その初歩的な魔法が曲者なんです。水の魔法を覚えて喜んで遊んでいたら、家1軒流したりするんです。」

あまりにも具体的な事例に、みんな声が出ない。


「どうする。お前たちが狩りで離れれば、敵も油断するだろう。俺とリサが居ればシャルは守れるし。」

ベネが雰囲気を変えるため、無理やり話を戻す。

「でもシャルちゃんが狙われているのに、狩りになんて集中出来ませんよ。」

「俺も同感だな。」


そんな話をしている最中、宿の人が来て来客を告げる。

ベネが受付に行くと、ヘギンスが申し訳なさそうに言う。

「実は明後日の領主様との会見なのですが、教会から同じ日に砦崩壊の慰霊祭を開くとの急な通知がありまして、会見の日を14日に変更いただけませんか。」

「行くのは俺だけでいいのか?」

「エッ。いえ、できれば皆様でいらっしゃってほしいのですが。少なくともバグ様は同席して、あの剣技をご披露いただきたいのですが。」

「わかった。みんなに話してみよう。返事は明日、金を受け取るときでいいか?」

「その件なのですが、明日領主様が帰られてから、リュウイの件をご報告しますので、その後、明後日にお持ちすることでお了解いただけませんか。」

「仕方ないか。会見の前日までとの約束だしな。」

「では、会見の日時とお金の受け渡し時刻は、明日のうちに連絡します。」

「わかった。その時にこちらからの出席者を伝えよう。」


「お前らの狩りの話。向こうから断る口実を持ってきたぞ。」

ヘギンスが帰った後、部屋に戻ったベネが先ほどの件をみんなに伝える。

「連中、必ずしも連携が取れているとは言えないようだな。明日、きっと狩りの日程を変更すると言ってくるはずだ。そしたら、14日に領主に合う用事が出来たと言え。」

「もし日程が変わらなかったら?」

「狩りに参加してもいいと思うぞ。金が入るまでに襲ってくることは無いだろう。心配だったら、13日は早めに切り上げればいい。

狩りに行く仲間には、やつらの眼が入り込んでいるはずだから、そいつを見つけて責めあげろ。今回無事に済んでも、このままでは終わらさん。俺たちに手を出した報いは受けて貰わないとな。」


聞いていて、涼は思った。

【やっぱりこっちの方が悪役っぽいなぁ。】


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