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2-13 尾行

 翌日はベネ、リサ、シャルの3人とバグ、ヨナの2組に分かれて行動することにした。ワイドメルの尾行対象が誰かを確認するためと、バグたちが2人だけで観光や買い物を楽しみたいと希望したからだ。


 ただ、ヨナには1つ懸念がある。

「いいですねお母さん。くれぐれも変な魔法を教えないでください。

 地味で面白みはありませんが、今日は閃光と火玉の制御力を上げるだけですよ。

 リサたん、シャルルン。あなたたちもお願いしますね。」

 真剣な顔で詰め寄られて、リサもたじたじだ。小声で不満は漏らすが最後には「わかった」と言って送り出した。


【わぁ、盛大にフラグを立てたぞ。リサママが大人しくしてられるはずないのに。】

 涼はそう言って喜んでいる。

 シャルもシャルルンも同じ思いだが、口には出さない。


 昨日と同じ頃合いに冒険者ギルドに出かけた。

【ついてきてるよ。】

 すぐにワイドメルに気づいた涼がみんなに報告する。


 実は昨晩、リサたんからの提案で、涼の手(触手)を通してみんなが自由に念話できないか試してみたのだ。念話に不慣れなベネ、バグ、ヨナだったが、みんな小さなしぐさで意志のやり取りをするのに慣れていたため、体の動きを、念を発する動作と割り切って練習するとその日のうちに出来るようになった。

 ただ、特定の人に絞った発信は出来なかったので、‟全館一斉放送”状態である。

 手を伸ばせる距離は5m程だが、急激な動作には追従できず手が外れてしまう。

 今も涼はベネとリサの肩あたりに手を掛けている。見えないけどね。



『まずいな。標的はシャルか。』瞬時にベネとリサが反応する。

『だけど、私,もう成人の儀を済ませたよ。』

『ギフトを持った子供を攫うのは、貴族や金持ちに売りつけるためだ。鑑定前なら脅すか言い含めるかすれば、売られた先の希望通りに鑑定される。

 成人の儀を済ませると、鑑定でその素性がわかるので、犯罪が簡単に露見してしまうから少なくなるんだ。

 だが、今回は違うだろう。目的はリュウイの褒章、金貨120枚だ。攫って金と交換する。誘拐の基本だな。子供も大人も関係ない。』

『なら、誘拐は領主との会見の後か。』

『いや、そうとも限らん。会見前に攫って、金貨120枚とリュウイの死体の両方を手に入れる気かも知れん。金が会見前に支払われることを知っているならな。そうすれば、俺たちに‟金だけ受け取って逃走した”という汚名も着せられる。』

『お前は執事のサルホスとかいうやつが首謀者と睨んでいるのか。』

『やつしかいないと思っているよ。リュウイを見せたその日の夕方に手慣れたやつらを使って俺たちを襲撃させている。半分は本気だが、半分は俺たちの力を計る目的だったんだろう。ゴメスも怪しいと言ってたしな。この町の犯罪組織のボスだと言われても驚かんぞ。』

『どうする気だ?』

『まだ動く必要はないだろう。俺たちの、と言っても俺とバグだけだが、実力は知ったつもりだろうから、うかつには仕掛けてこんよ。先ず、シャルを俺たちから引きはがしにかかるだろう。

 俺たちは今のこの町の状況を知らん。やつの組織がどの程度浸透しているのか見極めるためにも、知らないふりをしてやつらの動きを読もう。』

 歩みを乱すことなく、ベネとリサは念話を続ける。

 シャルも、気持ちは緊張させたが、足取りを変えることなく進んでいる。

【何、この人たち。怖いでしょう。悪の組織が壊滅するのが見えるんですけど。】

 涼の呟きには、みんながにんまり笑った。念話で。


 冒険者ギルドではマルチナが待ち構えていて、すぐに倉庫に向かう。

 倉庫には商人風の男が3人待っていて、すぐに査定が始まる。

 査定は3人の女性が行なう。ベネが査定員の前に肉と薬草の袋を出すと中身を確かめ、重さをはかって商人に渡す。商人はそれを収納するのだが、2人が肉、1人が薬草と決まっているようだ。

 3人とも次々と出てくる袋の量に驚きを隠せない。そのうち薬草担当の商人が満杯になった。

「肉と薬草、どっちが欲しい?」ベネが訊ねると、

「王都では肉の需要が高いので、後は肉をお願いします。」との返事。

 後は肉だけ出していたが、残り2人の収納も満杯となった。

「あんたの収納、どんだけでかいのよ。」

 マルチナがあきれたように言う。

「肉は今日渡した分ぐらい残っているな。薬草はもう10袋ぐらいか。」

「はい、降参。うちの収納持ちも全滅よ。後は他で捌いてちょうだい。でも、半月以上ここにいるんなら、もう1回卸してね。」

「がめつい奴だ。」ベネがこっそり呟いたら、マルチナにぎろりと睨まれた。


 その後、マスター室を訪ね、ゴメスと話した。

 一昨日、帰りに襲われたことを話し、この町の犯罪組織の事を聞く。

 このとき、リサがこっそりゴメスに探査を掛けている。探査力は弱いが気持ちの揺れを感知するものだ。

「きっとビットってやつだな。20人ほどの傭兵崩れをまとめている。傭兵ギルドとは仲が悪いんでよく知らないが、王都から流れてきたと聞いた。

 この町には20人から30人のグループが8つもあるんだ。お互いに勢力争いをしているが、一般の人を巻き込まなければ、衛士は動かない。

 だがな、変な感じがするんだ。抗争してる最中でも、国から偉いさんが来たり、町の重要な行事が行われている間は、騒ぎがぴたりと収まる。誰か仕切っている奴がいるんじゃないかってな。」

「それが、サルホスか?」

「知らんよ。証拠もないのに言えるわけがないだろ。」

「それが答えか。・・・わかった。注意するよ。」


『ゴメスはシロだな。』リサから念話が入る。

『それがわかっただけで十分だ。』


 次は、教会に向かう。

『一人増えてる。何気なく歩いてるけど、ワイドメルと小声で話している。』

『そっちは隠形を使ってないようだな。私も気を付けるが、涼も色付けしてくれ。』

 リサの指示で涼が追加の尾行者をカラー化する。


 教会に入り、サルバレス卿への案内を待つ間に、

『追加の尾行者が入ってきた。ワイドメルは外にいる』と涼が報告する。

『ギフトを使った状態では教会の結界に引っ掛かるからな。追加の奴は、礼拝堂でお祈りするそうだ。』

 聴力を強化したのだろう。リサがこともなげに話す。

『まあ、入ってしまえば、立ち入り制限されてない所はどこでも行けるしな。』

 シャルも含めてみんな冷静だ。一人涼が興奮しすぎか。とシャルルンは思った。


 サルバレス卿は今日もご機嫌だった。

「ダイソン支部長が慰霊祭の開催に積極的で、『卿のいる間にぜひ』と言って、13日の開催を領主側に押し込んでいます。明日には返事がいただけるでしょう。

 明日には遠話のできるものも到着する見込みですので、教皇様にお話しして、会談の方の時間を調整いたします。

 特に何もなければ、私は15日にはここを立つ予定です。」


 リサの方には特に異存はなかったので、「よろしくおねがいします。」と言って、訓練場に向かった。


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