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2-12 魔法の練習場

 朝はいつものように朝食を済ませた後、出かける準備をして、時間調整のため宿の食堂でお茶を楽しんだ。


 昨晩、シャルに涼の精神空間を見せた。

『わぁ~。空っぽ!』第一声がこれである。

 涼がいじけたのは、無理はない。

 だが、ノッドの多さ、分別された自分の記憶、取り込んだギフトなどを見て、シャルの見る目に驚きが宿って来るにつれて、涼の機嫌も直っていった。

【ところで、今日覚えた魔法はどこを見たらわかるの?】

≪思考空間に組み込まれているから、このままでは無理ね。

 見方を変えるとね。≫

 シャルルンがそういった途端、目の前の風景が一変した。明るい空色の球体が視界の半分を覆う様に広がっている。

≪これが魔力と呼ばれるものを可視化したものよ。これも大きいわね。普通の人の50倍ってとこか。ヨナ姉が10倍程度だから、これもとんでもないわね。≫

『私はどのぐらいなの?』と、シャルが訊ねる。

≪5倍ぐらいかな。≫

『なんだ、そんなものなのか。』ちょっとシャルが落ち込みかける。

≪パパさんが2倍、バグ兄が3倍程度なのよ。贅沢言わないの。

 それに私も別に20倍程度持っているから。≫

『ママは?』

≪リサたんが邪魔をして見せてくれないの。とんでもなく大きい気がするけど。≫

【で、昨日覚えた魔法は、どれ?】

≪ほら、真ん中に小さな赤い点があるじゃない。今の所発現してるのはあれだけよ。≫

 ・・・・・・


 お茶をしながら、シャルがみんなを見回しては、ほくそ笑んでいる。

 きっと昨晩の会話を思い出して小さな優越感を味わっているのだろう。



 冒険者ギルドでは事務所の全員が出てきて歓迎してくれた。

 年配者はリサとシャルに、若い女性陣はバグとヨナのまわりに集まっている。

 時折、

「誰が1000年生きた魔女ですって!」

 などと言うヨナの憤慨した大声が聞こえるが、すぐに周りの喧騒にかき消されてしまう。

 ギルドマスターのゴメスも出てきて、ご機嫌な様子だ。


 少しして、ゴメスがベネを呼び止める。

「今日は納品しなくていいぞ。肉や薬草の相場が崩れかかっている。」

「じゃあ、次の町でさばくか。」

「イヤ、明日王都へ行く収納持ちを3人確保した。そいつらが持てるだけ渡してやってくれ。」

「ははは、あくまでも手数料は懐に入れる気だ。せこいな。」

「声が大きい。マルチナの案だぞ。」

 ・・・・・・マルチナの耳には入らなかったようで、事なきを得た。


 教会に向かう途中、涼がシャルルンに、

【ねえ、僕たち尾行されてない?】と尋ねる。

≪私は気が付かなかったけど、何処?≫

【今は、あの馬車の向こう側かな。緑がかった服を着た小柄な人。】

 シャルルンがシャルに声を掛け、探査してもらうが見えないようだ。

 他のみんなにも伝えるが、誰にも見えない。

 もちろんこの間、相手に悟らせるような動きをする者はいない。

≪よく判ったわね。≫

【僕にはこの町ほとんど白黒なんだけど、認識したことのある人はカラーに見えるんだ。だから前に会った人だと思うんだけど。】

 みんなで示し合わせて立ち止まり、雑談するふりをする。

【あいつも立ち止まっている。2番目の路地手前の植木の前。】

 リサが気づかれないよう鑑定を掛ける。

「ワイドメル?探査と 隠形おんぎょう 持ちだな。今は隠形を使っているようだ。」

「ああ、銀の翼の探査役だ。リュウイ討伐隊にいたろう。」

「なんでそんな奴がつけてくるんだ。」

「さあな。銀の翼は王都に帰ると言っていたが。

 まあ、今のところつけられて困ることは無い。何か用があるなら向こうからくるだろう。ほおっておくか。涼、眼は離さないでくれ。」

 ベネはそう言って、教会に向かった



 教会でも一行は歓迎された。

 バグが冒険者ギルドで見せた剣技の話も伝わっていて、侍史の一人、剣士のジュマがその技を見せてくれとうるさく、バグが披露したところ心酔したようで、しつこく質問してサルバレス卿からたしなめられていた。

 なお、涼のことについてはサルバレス卿には秘密だ。


 帰り際に、シャルの魔法訓練の場を探していることを告げると、

「教会の訓練場はどうですか。今の時期は使ってないと思いますが。」

 とサルバレス卿が提案してきた。

 侍史の一人が確認してくれたところ、ちょうど定期的な使用の途切れる時期なので、使っても良いとの返事を得た。時折、個人で修行する人がいるかもしれないので、譲り合って使って欲しいとのことだ。


 見に行こうとすると、サルバレス卿もついてくると言う。侍史4人も当然一緒だ。

 卿を筆頭として10人がぞろぞろ教会内を移動するので、何事かと顔をのぞかせる人が多い。さすがに教会内なので騒ぐ人はいないが、10人ほどが距離を取りながらついてくる。


 訓練場は教会のはずれ、岩山に囲まれた広場だ。

 トリュンの市街は自然の岩盤の上にあるので、所々に岩山が残っている。その一部を訓練場として整備しているようだ。

 このエリアを管理している神父さんがいたので、サルバレス卿がシャル達を紹介し、数日間使用させてほしい旨告げると、緊張のあまり膠着して首だけで何度も頷いた。


「ギャラリーも集まって来たし、ヨナ、何か披露してやってくれ。」

 訓練場の入り口付近には30名近い人が集まっている。

 リサの勧めで、少し離れた場所に移ったヨナは、入り口の方に向かって、

「みなさま、冒険者のウォルターと申します。この、シャルが魔法の練習のためしばらくの間、こちらを使用いたしますので、よろしくお願いします。」

 と言って手を勢いよく横に広げると、背後に巨大な球形の霧が出現する。

 ヨナが頭を下げ、両手を後ろに引くと、球形の霧は形を変え、羽を広げた巨大な鳩になる。

 鳩はゆっくりと翼をはためかせていたが、突然幾千もの小さな鳩に分裂し、飛び去りながら消えて行った。

「シャナもだんだんうちの家風になじんでゆくなあ。」

 バグがあきれたようにつぶやく。


 サルバレス卿が拍手をすると、ギャラリーからも大きな拍手が起こった。

「皆さん、私の知り合いが少しお邪魔しますが、よろしくお願いしますね。」

 サルバレス卿の言葉にみんなびっくりしたようだが、好意的な笑みを向けている。

「受付には言っておきます。これだけの人に見てもらいましたから、いつ来ても不審に思う方はいないでしょう。」


 あっと言う間に、練習場が確保できてしまった。

 サルバレス卿にお礼を言って別れると、一旦教会を出た。


 その後、東地区の商店街まで足を延ばし、食事と観光を楽しんだ。

 リサとベネは別行動することにして、子供たち3人で教会に戻ってシャルと涼の魔法制御の練習をした。


 ワイドメルの尾行はシャルたちの方に付いてきて、宿に入るまで続いた。


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