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2-10 再会

特定の視点はありません。

 子供たちが東の森に出かけるのを見送った後、頃合いを見計らってリサとベネは冒険者ギルドを訪ねた。

 朝の混雑を避けての事だったのだが、ギルドに併設されている食堂には大勢の冒険者が残っていた。大半はテーブルに突っ伏していたり、椅子にだらしなく座って居眠りをしている。

「お前のせいだな。金を渡し過ぎだ。」

 リサが、ベネを軽く小突き、小声で面白そうに言う。

「ベネ、ベネじゃないか。朝から何の用だい。」

 ふらつきながらも、立ち上がってやって来るのは、ロイたちだ。

 その後ろから物珍し気に十人ほどが付いてくる。

「納品だよ。お前ら徹夜で飲んでたのか。」

 ベネがロイたちとたわいの無い掛け合いをしていると、付いてきた男の一人が、

「ホウ、これが金玉縮み上がらせるという女か、結構な美人じゃ・・・」

 ドサッ。

 リサに絡もうとして、倒れ込む。

 リサのこぶしが軽くあごをかすめたのだが、そのパンチ、見えたものは少ない。

 その男の連れ3人が、あっけにとられたような顔で立ちつくしていると、

「リサ~!」

 事務所から大声が聞こえたかと思うと、飛び出してきた女がリサに抱き着いた。

 マルチナだ。後ろから2人の年配女性も息を切らせながら駆けつけて来る。

 この光景に事務所内の十数人はあっけにとられて総立ちだ。特に若い子は目を見開いてこの光景を凝視している。

「8年間も音信不通だし、昨日来るもんだと思ってたら、こいつしか現れないし。今日連れてこなかったらどうしてやろうかって、考えてたとこよ。」

 途中からベネの方に顔を向けると、残忍な笑いを向ける。

「悪い悪い、昨日は教会にあいさつに行っていたのでな。」

 まるで子供をあやすかのようにマルチナの頭をなでるリサ。

「お前ら、いつからそんなに親しかったんだ。俺は知らなかったぞ。」

「あんたは坊やを連れて狩りにばっかり行ってたでしょ。身体が治ったばっかりで、小さな女の子もいるのに、この人が私たちをどれだけ助けてくれたことか!」

 ・・・その後歓談する女性陣の横で、一人立ち尽くす羽目になったベネであった。

 ちなみに、ロイたち男性陣はさっさとベネを見捨てて解散してしまった。




「サルバレスには午前中に行くと約束していたのに、もう昼だな。」

 教会に着いて、受付で枢機卿への面会を求めた後、疲れたと言って椅子に座るベネの横に立ってのんきな声で話しかけてくる。

 ベネはうらめしそうにリサを見上げるが、言葉を出すのもおっくうそうだ。


「よくお越しくださいました。卿はあまり表に顔を出せませんので、わたくしがご案内するよう言いつかりました。」

 奥から出てきたのはナイルと呼ばれていた昨日の侍史だ。もう一人後ろに控えている。

 ナイルの口調が昨日とは段違いに丁寧になっている。多分、リサの素性を明かされたのだろう。


「ありがとう。こちらは夫のベネ…!」

 突然場に緊張感が満ちる。

 殺気ではない。ものすごい激情!

 ナイルがベネの顔を凝視し、あえぐように息を詰まらせている。

「隊長!…」

 言いかけた言葉は、ベネが人差し指を立てて制した。沈黙を指図するしぐさ。

 笑みを浮かべて立ち上がったベネは、

「ご案内いたみいる。お元気そうで何より。」

 と、おどけた調子でナイルに語り掛ける。


 ひと息大きく呼吸し、落ち着きを取り戻したナイルが「こちらへ」と先導する。

 もう一人の侍史は2人の後ろ4,5歩下がったところを付いてくる。


 しばらく無言で歩を進めていたが、人気のない廊下にくると、ナイルは足を止め、振り返る。

 先ほどの激情がまた場に満ちる。

「お願いです隊長!このままではサルバレス卿の御前には参れません。どうかご説明を。」

「20年振りかな、ナイル。リサの素性は聞いたか。」

「はい、昨晩サルバレス卿より。そちらの者も一緒に。」ともう一人の侍史を見る。

「なら、話は簡単だ。身に合わぬ恋をして、駆け落ちした。」

「惚れたのは私の方が先だぞ。」とリサ。


「お二人は魔獣ゴルナドと共に迷宮に閉じ込められたと聞いております。

 半年後に開放された時にはゴルナドとともに骨になっていたと。

 鑑定でお二人の装備や骨と判定されたとも。

 昨日卿よりリサ様の事を聞いた時、そのことを申し上げました。

 卿はしばらく考えた後で、『そんなこともあるのだよ。事情は本人に聞いてごらん。』と言って笑われたのです。

 私はリサ様にあなたのことを聞こうと待っていたのに!

 あなたが現れるなんて!」


「鑑定は万能ではないということだな。私の鑑定が世界の知識をだませたのか、世界の知識が知っていて真実を公表しないのかはわからないが。」

「鑑定にそのようなことが!」

「ギフトは面白いぞ。鑑定に限らず、いろいろと工夫できる。」


「あまり枢機卿を待たせるわけにもいかんだろう。

 俺は健在だし、幸せだ。今はそれだけ知っておけ。」

「わかりました隊長。」

「隊長はやめろよ。俺は警護隊の分隊長しか務めたことは無いぞ。」


 隊列を直そうと動き出そうとした時、後ろにいた侍史が小声でリサに言う。

「昨日の結界、お見事でした。あのようなことができるとは。感銘しました。」

 リサはその侍史をさっと鑑定すると、

「シシロマ、君の魔力量ならできると思うぞ。昨日の結界に流れた魔力の流れを忘れずに精進しろ。」

「ありがとうございます。」

 そんなやり取りを交わした後、一行は枢機卿の元に向かった。


「よくいらっしゃいました。」

 サルバレス卿は立ち上がって出迎えた。

「遅くなって済まない。冒険者ギルドに寄ったらつかまってしまったのでな。」

「いえ、よろしいのですよ。

 あのあと教皇様と話したのですが、今朝になって連絡があり、皇帝陛下が直々に話をしたいと仰せられているそうです。

 この国の国都ベギンタール支部に遠話の持ち主が居ますので、その者が急遽こちらに向かっております。

 3日程で着くと思いますので、それまでお待ちいただきたいとのことです。」

「3日後と言うと12日だな。13日にはここの領主との会見があるので避けたいのだが。」

「わかりました。そのように伝えます。とは言え、皇帝陛下のご都合もありますので、もし重なったときには、こちらを優先していただきたいですね。」

「しかし、領主に何と言う? まさか私たちが皇帝と会談するとも言えまい。」

「では、13日に教会の行事を入れましょう。領主様に出席を求めて、あなた方との会見が延期となるように。

 そうですね。私がここに来た機会に砦崩壊時に亡くなった方の慰霊祭を行うことにしましょう。砦の方に会場を設営すれば、こちらへ目が向くこともないでしょう。」

「あなたは会談の時同席しなくてもいいのか?」

「会談は極秘に行うと言っていましたから、あなただけが参加することになると思いますよ。」

「ベネもダメなのか?」

「一応、同席を希望されていることはお伝えします。それでよろしいですか。」

 ここでナイルが口をはさむ。

「リサ様、ベネ殿の素性を申し上げれば、皇帝陛下も興味を持たれるのでは?」

「勘弁してくれ!20年近く逃げ回っていたのに、今更会えるわけがないだろう。」

「あきらめろ。私と結婚した時点でお前はあいつの義理の兄貴だ。だいたい、知らぬ中でもないだろう。わたしがお前を専属の護衛に引き抜いた時、お前の()()()()を保証してくれたのもあいつだったはずだぞ。」

「だから合わせる顔が無いんじゃないか。あいつはリサに心酔していたんだぞ。絶対に恨まれているはずだ。」


「エッ、ベネ殿は平民の出では?」困惑した様子でサルバレス卿が訊ねる。

「さっき鑑定したはずだと思っているな。残念だがベネの情報は改変されているぞ。」

「あのタイミングでいつ改変を。まさか改変を常態化されているのですか?

 ・・・・サルバダもやり方が判らないそうですが。

 お願いします!ぜひご教授ください!」

「おい、鑑定による全人類の情報管理システムの大本おおもとが何を言うんだ。鑑定が絶対で無いと知れたら教会の権威が失墜するぞ。」


「違うのです。

 お話ししたように私は情報解析が専門です。年間100万人以上の成人の儀の結果や、様々な鑑定要求とその結果を取りまとめ、そこから引き出される将来予測を考えるのを日課としています。

 その中で、ごく僅かですが違和感を感じるものがあります。一時的な改変であれば誤差の海に埋没するはずなのに、いつまでも存在する棘。それが何かずっと知りたかったのです。

 あなたのリサたんが非常に高度な鑑定であるのはわかっています。ですが、他に、もし改変を常態化する鑑定が居たら。

 私の感じている棘の正体を知るには、改変の常態化がどの様に行われているのか知ることが必要だと感じられるのです。」

 普段は穏やかでゆったりとした感じのサルバレス卿がみせる熱き思いに、侍史を含めてみんな圧倒され、声も出ない。

 しばらく沈黙が続く。


 我に返ったサルバレス卿が慌てた様子で、

「し、失礼しました。ギフトを工夫し、新しい技とするには大変な努力が必要なのに、簡単に教えろとは・・・・・恥ずかしい限りです。」

「イヤ、そういう目的ならやり方を教えるのはやぶさかではないが、理屈を知ってもなかなかできないと思うぞ。」

「いえ、私が使うためではありませんので。

 理屈を教えていただければ、改変の常態化の有無を判別する仕組みを作って見せます。

 解析を生業なりわいとするものとして必ず!」


「わかった。手を出せ、握手しよう。心拍2回分ぐらいな。」

 そう言って、リサが手を差し出す。サルバレス卿も手を伸ばし、そっとリサの手を握る。

 そして、すぐに手を放す。

「これでよろしいのですか。これが鑑定同士の情報交換ですか。

 ・・・・・ああ、これですね。洗練された術式ですね。簡潔ですが、難しそうだ。」

「ベーネンドがあなたの部下だったな。こういうのは彼が得意そうだ。」


 その後は、残りの侍史2人も交えて、昨日の結界のやり方やみんなの持つギフトについての工夫や取り組み方法、更にはベネやリサの若いころのエピソードなど、和やかな雰囲気で親交を深めていった。



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