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2-6 密談

シャルの視点です。

 偉い神父さんからひざまずくようにと指示を受けたので、両膝をつき、祈りのポーズをする。

 シャルルルンからは、鑑定改変完了と元気のいい念話が届いたので、うまくいきますようにと祈りながら待つ。

 何も起こらない。ママの鑑定の時には、何かが出入りするかすかな気配を感じたのに。


 いきなりママの手が私の肩に触れる。

〔シャルルン!あんたの気配が漏れてる!〕リサたんだ。

≪あちゃ~、鑑定改変に気を取られて忘れてた~。≫

〔彼の鑑定、あんたに恐れをなして引っ込んじゃったじゃない!〕

 うすうす感じていたが、シャルルンは勢いがいい代わりに時々ドジる。

「すみません。」

 誰に言うとでもなくつぶやいたが、作戦失敗か? ママ、どうするの?


 突然、シャルルンが強烈な威圧を放つ。

 神父さんは、びくりと顔を上げて動きを止める。

 後ろにいた護衛が、ガウンを跳ね上げ、腰の剣に手を掛ける。

『何?何が起こったの?』私は混乱するだけだ。


 それを止めたのはママ。私の横に並び、左手を私の肩にかけ、右手を広げて突き出して神父さんや護衛を制しながら、

「卿、それが何かわかっているのか!」と低い声でゆっくりと声を掛ける。

 ママが怒っている。見たこともないくらいに。


 神父さんは目を丸くし、急に気が付いたようにポケットに入れていた右手を慌てて出す。何も持ってませんよ~と、訴える様に手を振りながら。

 シャルルンの威圧が消えた。


「卿、あなたにはそれが何かわかってないのですね。」

「鑑定を妨害されたときにそれを無効化するものだとの説明は受けました。

 私では鑑定できませんでしたが、危険なものだったなら謝ります。」

「はは、正直な方だ。」

 ママは口調を和らげると、周りを見渡して、

「護衛の方々、お付きの方々、お騒がせしました。

 慈母アロマサス、折角このような席を設けていただいたのに、お騒がせして申し訳ありません。」

 と頭を下げる。


≪わぁ、ママさん役者やわあ。≫

〔フンッ。リサにはこの程度日常茶飯事よ。〕

『二人とも人の頭の中で遊ばないで。』私自身はまだ心臓バクバクだ。


「何者だ。貴様、サルバレス様より高い鑑定力を持っているとでも言うのか!」

 護衛の一人が、神父をかばう位置に移動しながら、ママを威圧する。

 後ろの護衛2人は、懐から何かを取り出す。投げナイフだ。


「ナイル、お前たちの忠誠はよくわかってますよ。ですが、今は控えなさい。

 この方たちは説明してくれようとしているようです。

 きっと、私が今一番知りたいことに答えてくれそうな気がしますよ。」


「さすが枢機卿まで上り詰めた方だ。

 イヤ、‟詰めた”は失礼だな、まだ先がある。

 確かにいろいろとお話したいことはあるが、人には立場立場で、聞いていいことと悪いことがある。

 残念ながらこれから話すことは、卿以外には毒になる話だ。

 それなので、今から卿と私たちだけに結界を張る。

 すまないが、少し下がってくれ。卿、よろしいですね。」


「あ、その前に。そちらの方、この方たちに椅子を。座っていただきましょう。」

 神父さん、いやサルバレス卿は入り口付近にいた神母さんに声を掛ける。


「慈母アロマサス、あなたのおかげで目的の方とお会いできたようです。

 感謝します。ですが、これからの話はあなたが聞くべきではないと思いますので、恐れ入りますがご退出ください。」


 アロマサスさんは、先ほどからびっくりしたまま硬直していたが、サルバレス卿に声を掛けられると、硬直が解けたようで、微笑みながら一礼して出て行った。


 椅子が整えられて、私たちは並んで座る。

「では、結界を張ります。物理防壁と音声遮断は施しますが、視覚は遮断しませんので様子はご覧いただけます。ただ、口元を読まれることは避けたいので顔付近にゆがみが生じますが、ご勘弁ください。」

 ママはいつになく丁寧だ。

 ママが結界を張る。いつもと違い、薄く透明な幕が見えるように。


「フン、器用な真似を。」

 ナイルと呼ばれた護衛の人は、一言毒づくと、ほかの3人に指示して四方に分かれて控える。


「あなたには名乗りを上げておくのが礼儀でしょうね。

 改めて、私はリサナッティ・テュナ・バルスと申します。」


 神父さんはびっくりしたような顔をして、

「あなたが、・・・狂乱の舞姫・・・なのですね。」

「ハハ、昔けんかをした時、舞うように殴りまくったからついたあだ名ですよ。

 こちらは娘のシャルネ、こちらは息子の嫁のシャルヨーナ・ディスカスです。」

「まさか!ディスカス伯爵のお嬢さん。・・・ベルケルクの魔女・・・ですか。」


「世界の知識にはろくでもない情報ばかり載っていますね。

 ご存じなようですが、確かに私は現皇帝の姉、第3皇女でした。

 今はヴェグネス・ウォルターの妻として平凡な生活を送っております。」


 “どこが平凡だ!”思わず突っ込みを入れたくなったが、そのとき、

【エェ~!】と大音量の念話が飛び込む。涼くんだ。

≪うっさいわねぇ。静かに聞きなさい!≫

 シャルルン、あんたがうるさい。


「あなたがお持ちの宝珠ですが、“ギルメの檻”と呼ばれております。

 魔力を流し込めば指定する者の鑑定を封印します。

 しかし、鑑定を持つ者に意識障害が出て、封印解除後も残るので、欠陥品として宝物庫の奥に眠っているはずのものです。」


「エッ、そのようなものを私は使おうとしたのですか。申し訳ありません。しかし、教皇様はなぜ…!」


「それを渡したのはきっと皇帝陛下その人だと思いますよ。

 宝物庫から持ち出せるのはあの方だけでしょうから。

 教皇様は鑑定を封印することだけをご存じなのでしょう。

 人に後遺症を残すことは記録にありませんから。

 皇族だからこそ知ることのできる知識なのです。

 それを私に使う理由は想像できます。

 シャルに使おうとしなければ、私も邪魔はしなかったでしょう。

 ところで、あなたがトリュンへの訪問を指示されたのはいつ頃ですか?」

「2ヵ月前です。」

「あぁ、息子のバグとヨナが結婚した時ですね。

 内輪の式とは言え神父さんに立ち会っていただきましたから、鑑定持ちの方に知れたのでしょうね。

 しかし、なぜトリュンなのかな。

 あの時点、と言うより、トリュン行きを決めたのは1ヵ月前の事なのに・・・シャルが成人の儀を受けることを知っている者・・・

 ・・・そういえばベーネンドが本部に移動したと言ってたな。」


「ベーネンドをご存じですか。彼は私の部下です。今情報室長をやっています。」

「この地で養生していた時に知り合いました。トリュン崩壊の時にお世話になったのですが、何か言っていませんでしたか。」

「いや、そういう話は全然・・・彼は必要最小限の事しかいいませんから。下の者が苦労していますよ。

 トリュン崩壊の時ですか・・・。彼はその後の調査団にも係わっていたのですが、結局崩壊の原因を突き止めることが出来なかったようですよ。」


≪‟ベーネンド”で調べたら、彼が崩壊後ママさんらしき女性と会っていたという記録があったわ。もっと詳しく調べれば私達ご一行様だとわかるんじゃないかな? わかる人が調べれば。≫

【それで、君の成人の儀で立ち寄りそうなところに網を張ってたってわけか。】

≪いきなり、びっくりするでしょ。生意気だけど、鋭いわね。≫

【君は人を素直にほめるってことができないかい。ひねくれもん。】

≪思春期の乙女心なんかわからないくせに。

 アッと、リサたんも気づいた。≫


「他に西大陸に派遣された枢機卿ですか?

 教会上層部の情報はあまり出したくないんですが・・・

 ・・・おや、私以外に4人も来てますね。お!ベルケルクにも。

 みんな今月中に1週間程度、派遣先で成人の儀を行うように指示を受けています。」


「多分2ヵ月前に私の所在に気づいたのだな。

 それで立ち寄りそうな場所を予想して、遠くにあるトリュンから順次枢機卿を送り込んできたのか。

 だが、なぜ10月とか成人の儀にこだわるんだ?」


「それは教皇様のギフトのせいだと思います。」

「今の教皇が高度の鑑定能力を持っているのは知っているが。違うのか?」

「あの方の鑑定は“予知”だという人もいます。とにかくよく当たるのです。

 私は情報分析が得意なので、予測結果を出すことが多いのですが、時々予測よりも詳細な日時や規模をおっしゃることがあるのです。

 おそらく皇帝陛下との話の中で、この2つのキーワードを示されたものと思われます。」


「今はその程度で我慢するか。卿はこの話どれだけ伝えるつもりなんだ。」

「先ほど私の鑑定が緊急事態の通知を発しましたからねぇ。隠すのは無理だと思います。」

「仕方ない。何を言ってくるかわからないが、向こうから何か言って来るまで、待つしかないか。」

「そうしていただくとありがたいです。毎日一度こちらに顔を出すというお約束をいただけますか。」

「わかった。午前中に顔を出すようにしよう。宿は金龍館と言う所だ。リサ・ウォルターで呼び出してくれ。都合が悪い時は連絡を入れる。」


「ありがとうございます。

 アッ、そうです。シャルさんの成人の儀を行っておきましょう。」

「わかった。おいシャルルン今度はうまくやれよ。」

「シャルルン?」

「ああシャルの鑑定の名前だ。」

「鑑定に名前を!」

「最近、高度な鑑定には自我があるという話になったので、付けてみた。

 私の鑑定は‟リサたん”だ。

 あなたの鑑定も怯えを感じるほど高度だから、付けると喜びそうだぞ。」

「‟リサたん”ですか。さすがに私はそういうのは無理ですね。

 私の名前にちなんだもので何か…ンム、私の故郷に風光明媚な谷がある。

 ‟サルバダ”、お前にこの名を与えよう。

 ・・・っと、そんなにうれしいのかい。」


 この、中年を超えた2人のおふざけと言うか、掛け合いに、私とヨナ姉はあきれて顔を見合わせていたが、ママが結界を解除するというので、まじめな顔に戻した。


 結界が解けると、ナイルと呼ばれた人が寄ってきて、

「あなたは何者なんです。これだけ繊細な結界をこれだけ長時間維持できるとは。」

 と、小声でママに尋ねる。

「卿が話してもいいと思ったら話してくれるだろう。まあ、すぐだと思うがね。」


 その間にサルバレス卿は、入り口付近にいた神父さんを呼んで、成人の儀の準備をする。

 私は再びひざまずいて、お祈りの姿勢をする。

 今回はすんなり鑑定が体内を通り抜けた。


「この者、ギフトとして、探査:大、結界:小、収納:小を有する。魔力は大きいがまだ発現した魔法は持っていない。」

 サルバレス卿が厳かに宣言するのを神父さんが書き留め、

「納税はどうされますか。」とママに問いかける。


「これから冒険者として生きる予定だ。納税は冒険者ギルドとする。」

 定住地を持つ者は定住先の役所に、年に1回納税する。

 定住地を持たない商人や冒険者は所属するギルドで取引する際、手数料と共に一定利率を納税する仕組みだ。


 成人の儀を終えたことを証明する紙を受け取る。

 この紙には氏名、年、親の名、鑑定結果、居住地(定住の場合)、納税先が記されており、就業やギルド登録の時必要となる。

 無くしても、すでに鑑定記録があるので再発行は容易だ。金はかかるが。


 教会を出た時には、とっくに昼は過ぎていた。

 近くの屋台で昼食を済ますと、トリュンの町を散策した。


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