1-3 憑依
初投稿です。本日3話目です。涼からの視点です。
ティラノの右前足、3本の鋭い爪、それが僕の左から右へと抜けていった。
結果、左足は切断して10mほど飛ばされ、右足と下半身は内臓をまき散らしながら30mほど先に転がった。
上半身と顎から下はだるま落としのようにその場に落ちてから数mほど転がり、顎から上の頭部は高く舞い上がって近くにストンと落ちた。
なんで、のんきに解説しているかって? だって、痛くもなんともないもん。
身体は失ったはずなのに、僕はその情景をいろんな角度から眺めている。
・・・のがわかる。
ティラノは僕を惨殺した後、顔を前足で掻きながらしばらくその場で悶えていたが、急に草むらの方に走り出したかと思うと短い草の生えた場所に何度も何度も顔をこすりつけている。
『ざまあ!てんこ盛りだ~!!!』
一矢報いた快感と復讐の念に駆られて、罵詈雑言を浴びせていたら(声は出てないけどね)、体がおかしい。
もっとも、今の僕は黒い霧状の塊だ。
主な視点はさっきあった頭付近にあるが、見たいと思ったらいろんな場所に視点が飛ぶ。
同時に複数ね。
その視点がだんだん減ってゆき、ゆっくりと風下に移ってゆく。
体も何となくスカスカな感じになって頼りなくなる。
『エェ~!! 消えかけてる~!!!』
慌てて気持ちを集中し、拡散しかけている体(黒い霧)をまとめようとする。
もちろんやり方なんかわからないから、闇雲に念じているだけだ。
とにかくこのフワフワ感をどうにかしようとアメーバが体を伸ばすイメージで、あちこちに触手を伸ばし、つかまる場所を探す。
地面もダメ。草もダメ。
近くにあった自分の上半身や頭も引っかからない。
ネチッ。
伸ばした触手が何かに引っかかった。左足だ。
わずかな引っ掛かりに意識を集中して『集まれ~!集まれ~!』と念じ続けた。
僕の体が引っかかったのは、左足そのものではなく、左足に履いていた靴だった。
某有名メーカーの軽量トレッキングシューズで青を基調として赤や黄色のラインがデザインされたおしゃれな逸品だ。
高校の合格祝いに買ってもらった物で、値段もそれなりにした。
部活で使うのはもったいないから、まだ数回しか使っておらず、臭いも無い(はずだ)。
とりあえず、靴に基点を確保したが、何かまだ不安定で心もとない。
だが、念じているうちに、体(霧です)が靴の繊維に編み込まれたり、靴底などの部分に浸透する感覚が生まれてきた。
“体が覚えている”ってゆうのとは違うな。
身体の傷が自然に治るようなもんだろうか。
しばらくしたら、いきなり『定着しました~』ってゆう感じがあって、半端ない安堵感が押し寄せてきた。
定着というか、憑依だな。
一安心したところで、外の様子が気になってきた。
意識を外に伸ばすと靴から立ち上がる感覚で視点が高さ1m近くまで上がる。
視野は360度。全方位センサーかよ。
全体的に白っぽい単色系の世界だが、僕の元の身体や持ち物はフルカラー表示である。
おっ!ティラノもフルカラーだ。
ティラノはさっきのスプレー攻撃から立ち直ったのか、僕の下半身部分を食っている。足で身体を押さえて口でちぎるように食っている。
自分が食われているのに大して感情の高まりを覚えない。
僕って、人としての何かが足りないのかな。
気を取り直して周りを見ると、もう一つカラー表示されているものがいる。
あのネズミモドキだ。灰色がかった茶色なので目立たないが、ティラノ周辺と左足以外の僕の体に群がっている。
僕 (左足) の周りにもいるのだが、なぜか一定距離を置いて近づかない。
恐る恐る近づいてきたのがいたので睨みつけたら、慌てて逃げてゆく。
『エッ!お前ら僕が見えるのか!』
確かめるため、周囲のネズミモドキをにらみつけるが、反応はない。視点を上下させて体(黒い霧)を揺らしてみたがこれにも反応が無い。
視覚で感じるのではなく気配を感じているのだろうか。
草の海の中に暗い塊があるのに気が付いた。
ティラノの周りに2つ。食事中のティラノを左右から挟み込むようにゆっくりと近づいている。
林の方向、広場が途切れた先の草の中にも同じような塊が3つ。こちらは固まってじっとしている。生き物のようだ。
視野を変えなくてもみんな同時に見える。
何が始まるのかワクワクしていたら、ティラノの口元で「ボムッ!」という爆発音がして白い煙が噴出した。
『アッ。蜂除けスプレーを噛んだな!』
ティラノは一瞬、大きく目を見開きビックリした様子だったが、次には慌てて飛び退き、その場で後ろ足をバタバタさせながら、伸ばした前足で顔の周りを掻いている。
その様子に僕は思わず大笑いをしてしまった。
一度笑い出したら、止まらなくなった。
考えてみたら大変な一日だった。知らない世界へ飛ばされたし、2度も死んだ。意識だけは残ったがこの先どうなるのか想像もつかない。
忙しすぎて考えてなかった不安、恐怖。そのうっ憤を晴らすように思いっきり笑った。
気が付いたら、ティラノが僕をにらんでいる。
バカにされた気配を感じとったかな?
にらみながらゆっくりと数歩近づき、思いきり口を開けて吠えた。
「キ~ィイ~」
『ふん。威嚇のつもりかしれないが、今の俺には効かないぜ。』
薄笑いを浮かべ(たつもりで)、ティラノを見返したのだが。
大口を開けたティラノの口中に白く眩い光が発生した。
『エ~、こいつブレスを吐くのかよ。』僕は慌てた。
今の僕にブレスが効くとは思えないが、憑依しているこの靴が消滅したら!
ヤバイ、ヤバイよ。
慌てても、なすすべのない僕は、こんな今日という日の中でも最高にパニクッている。
刹那、口中の光は爆発した。
とりあえず始めました。3話お読みいただいていかがだったでしょうか。続きは毎日一話ずつ投稿してゆきたいと思ってます。励みになりますので、よかったら「いいね」ボタンをお願います。