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2-4 教会訪問

シャルの視点です。

 パパとバグ兄を送り出した後、私たち3人はそのまま食堂でお茶を楽しんだ。

 ヨナ姉の故郷ベルケルクの周辺には有名な茶葉の生産地が幾つもある。

 その中でも有名な茶葉がこの宿に置いてあるのを知って、ヨナ姉が頼んだ。

 教会を訪ねるのは、朝の礼拝が終わり、掃除や洗濯などのお勤めが終わった後という不文律がある。

 1時間ほど時間があったので、お茶を飲みながら、昨晩シャルルンが涼くんにした“実験”を話した。

 2人とも自分たちも参加させろとうるさかったが、シャルルンから涼くんがもう少し“吸収”の技術を向上させないと危険だと言われてあきらめた。

 2人の持つ技術や経験が豊富すぎるので、下手に詰め込むと涼くんの人格を変えかねないとのことだ。特にママはダメ!

 あと、ヨナ姉にこれまで話せなかった、私が4才の時の誘拐と砦崩壊のことを話す。

 聞いた後ヨナ姉は私をやさしく抱きしめ、泣いてくれた。



 教会に近づくにつれ、親子連れの人が目立つようになった。

 多くは家族連れで、10人近い集団もいる。

「成人の儀かな。それにしても多いな。」とママ。

「貴族の人達が目立ちますね。誰か偉い人でも来てるんでしょうか?」

 ヨナ姉によると、地方の都市には時々教会本部から称号持ちの人がやってきて、成人の儀や癒しの会を催すそうだ。


 親子連れの目的はやはり成人の儀だったようで、専用の受付が設けられている。

「サルバレス・マーキュリー! 枢機卿じゃないか。古都の本部を出るのも稀なのに、東大陸のここまで来るか!」

 ママがここまで驚くことは珍しい。もっともこの2日間驚いてばかりだけど。

 受付横には大きな垂れ幕が下がっていて、一昨日から3日間成人の儀を自ら執り行う旨書かれている。


 別の受付に行き、ベーネンド神父と慈母アロマサスへの面会を求めるが。

「ベーネンド神父は2年前に本部に移動されました。」と言われた。

「あいつが本部へ。あんなに嫌がっていたのに。」とママがつぶやくと。

「本人も嫌がっていましたよ。最後はあきらめたみたいですけど。」と軽口が返る。

 アレッ、と思った。教会と言えば厳粛な雰囲気があって苦手だったけど、ここの雰囲気は明るそうだ。


 慈母アロマサスはおられるそうなので、面会室に入り、待つ。

 待つ間に、ここの雰囲気についてママに聞いたら、

「ここの支部長のダイソン・マーズは、平民出で鑑定も治癒も持っていない。人望と信頼感だけで支部長になった人だ。規則よりも人の和を重視している

 ベーネンドはこの人に憧れてここに居ついてたんだ。」

 と言う。


 どういう意味?と思ったら、シャルルンが教えてくれた。

 上位3つの称号。アース (教皇)、マーキュリー (枢機卿)、ジュピター(支部長クラス)はすべて鑑定持ちだ。鑑定は世界の知識とつながっており、その知識を得るが、逆に自分の行動はすべて把握されている。

 悪いことをしても世界の知識自体からは何も言われないが、誰かが気づけば真実は明かされる。

言葉を変えれば、常に監視されているのだ。

 傍から見れば、これを苦痛に思う人はいるだろうが、鑑定持ちは原則教会がその身柄を抱え込む。そしてそれが監視ではなく、神の加護であると教え込む。

 神の加護を身に纏うことを誇りに思い、自らの思うがままに振舞ってものりを超えない。そういう人が称号を持つ。

 マーズ(支部長クラス)という称号は、鑑定というかせを持たないのに則を超えない人格者に与えられる。ダイソン・マーズはそういう人なのだ。

『ふ~ん、ややこしいんだ。』そう一言で片づけた。



 慈母アロマサスは小太りだが活発そうなおばあさんだった。

 ママとの再会を喜び、昔話に花が咲いた。


 ヨナ姉が2人の出会いについて尋ねると、

「あの時は驚きましたよ。旦那さんでしたか、大柄な男性が駆け込んで来るなり、収納から女の人を取り出すんですから。生きた人を収納で運んだ人を見たのは初めてですよ。」


 常識はずれが我が家の常識だとはわかっていたが、これはまた凄い。

 シャルルンに確認したら、

≪たぶんママさんは気を失う前に収納に同意し、自らに結界を張って収納されたのだと思うよ。収納中はリサたんが結界を維持していたから、命がもったんだろうね。≫

 と言う。私が生まれる前の事だから、推測らしいけど。


「ドラゴンのブレスを浴びたそうですが、顔面の左半分と左半身が、大やけどと言うかほとんど炭になってましたからね~。

 無理だと思ったんですけど、いきなり私の中に力が湧き出したんですよ。

 治癒があそこまで素晴らしいものかと感じたのも初めてでしたよ。」


『これは間違いなくリサたんの仕業しわざだ。

 シャルルンのことを勝手に力を使うと怖がっていたけど、自分の方が先じゃないか。

 そうだ、シャルルンってリサたんの娘だもんね!』

≪断固拒否します。≫

『シャルルン、事実は消せないんだよ。』


「生きながらえただけでもすごいと思うのに、この方は回復しましたからね。

 私が慈母の称号を授かったのは、この方のおかげなんですよ。

 おまけに子供まで儲けて。あなたがその時の赤ちゃんなの?

 幾つになった? まぁ、12才。あれから12年たったのね。」


 その後もしばらく話していたが、

「そうだ。あなた成人の儀は済ませたの?」と聞く。

 まだだと答えると、

「なんて間がいいんでしょう。今日はちょうど本部の枢機卿様が来られて、自ら成人の儀を執り行われているんですよ。受けていきなさいよ。」

 と言う。

 ママは顔をこわばらせたが、何気ない風で、

「受け付けは混雑していましたよ。お忙しいそうですから私共は後日で結構です。」

 と断ろうとしたが、

「初日はもっとすごかったですよ。1週間前から滞在されていて、この3日間成人の儀を執り行うって通知したものだから、この町だけじゃなく、近隣や王都からもやって来ましたからね。

 私たちもどうなるのかと思いましたが、その鑑定の速いこと速いこと。300人以上をこなされて、まだ平然となさっていましたよ。


 今日なんかもう終わられているんじゃないかしら。

 ちょっと見てきますね。」

 止める暇なく、部屋を飛び出していった。


 ママは苦虫を嚙みつぶしたような顔を隠そうともせず、私の方を向き、

「シャルルンお前、どのくらい隠せそうだ。」と尋ねる。

≪サルバレス卿か。鑑定力がどの程度かわからないけど。リサたんよりは低いはずね。

 私の存在と私の持っている能力は隠せると思うけど、鑑定があることは隠せないかな。

 シャルちゃんが持っているのはほかに探査、結界、それに収納、まだ魔法は持っていないよね。≫


 私がママに伝えると、

「ちょっとやってみろ。」

≪ちょっと待ってね。・・・・・・・はい、設定完了。≫

「シャルルンが出来たそうよ。」

 ママが私を見つめる。

『リサたんが鑑定中か。』

 少しして、ママが目つきを和らげる。

「鑑定は発現間近程度までには抑え込めているようだ。」


「平民が鑑定を保有していたら、教会預りですよね。私の名前、出しますか?」

 これはヨナ姉。結婚前は一応伯爵令嬢だ。

 鑑定持ちでも貴族であれば、望めば在野で生活できる。

「シャル。お前が教会に入れば、教皇にまで上り詰めることができるだろうが、どうする。」

「いやよ!私はパパやママと離れたくない。」

≪でも、いつまでも5人で活動するわけにはいかないでしょう。

 バグはバグの道を、あなたはあなたの道を見つけて旅立たないと。≫

「・・・・・そうね。シャルルンの言う通りよ。

 パパやママとはいつか分かれるでしょうし、バグ兄、ヨナ姉とも別の道をたどることになるでしょう。

 でも今は嫌、まだみんなから受け継ぐものを受け取っていないし、シャルルンとともに生きる道も見えていない。

 だいたいシャルルンは教会にはいりたいの?」

≪即行で逃げだすわ。あなたならその日のうちにでも逃げ出せるでしょ。≫

「そうか。教会に入ることになれば、集合場所を決めておいて、逃げ出した後みんなと落ち合えばいいのか。」

「ははははは…。教会から逃げ出したら背信者として追われるぞ。

 ・・・わかっているよリサたん。お前が言うなって言いたいんだろ。

 ・・・だが、いい覚悟だ。」


 きつい目で私を見つめていたママが、目元をやわらげ、不敵に笑う。

『いけない。ヤバイかも。』

 ママがこんな笑いをした時何かが起こる。

 すんなり収まったことなど記憶にない。


「なにかお考えが?」

 緊張した顔でヨナ姉が訊ねる。

「イヤ、昨日からの出来事を思い出してみろ。

 こちらの思惑がことごとく外れている気がしないか。

 何か私たちの知らない大きなものが、私たちに干渉している。

 今はそれに流されてみよう。そいつの意図が判ったら、反撃に出る。」


「それは‟出たとこ勝負”と言うやつですね。」

 大きなため息をついて、ヨナ姉が言う。鋭い。別名ノープラン。

「いけないか?」

「いえ、大好物です。」

 3人は互いの顔をうかがい、期せずして同時ににたりと笑う。

 これって、悪役の役どころじゃあないの。


 しばらくして戻ってきた慈母アロマサスはうれしそうな声で、

「成人の儀、サルバレス様が快く引き受けてくださいましたわ。」


 私たちは一斉に立ち上がる。

 いざ出陣!


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