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2-3 冒険者ギルドにて-2

 トリボサの発言で場が凍り付いた。

 しばらく動く者もいない。


 ここで、マルチナが動いた。

「今の発言は冒険者に対する侮辱と捉えますがよろしいですね。」

 ドリボサに鋭い目を向け、冷え冷えとした声で宣言する。


「倒した時の状況というのを聞いた。

 - 踵を切りつけて、リュウイが横倒しになった。

 - そこを腹から心臓に向けて槍を突き刺した。

 こんなことが可能だと思うのか。

 - 左足踵のけんが一刀のもとに切られている。

 生きているリュウイの皮膚や肉がどれほど固いか知っているのか。

 ましてや腱だぞ。

 死後硬直が解けた後でないと難しいと思わないのか!

 腹の傷もそうだ。

 腹から心臓を突いたとして、消化管を傷つけずにできるとでも思っているのか。

 消化管を取ってから突いたとしか思えん。

 だいたい、リュウイは心臓が止まっても死なんぞ。

 あいつら竜族は心臓を摘出されても、脳が生きていれば生き続けて心臓を再生するということぐらい、誰でも知ってるじゃないか。」


「その脳を最初に破壊しました。」

 ベネの落ち着いた声に、ドリボサの演説に同調し始めていた観衆が、一斉に目を向ける。

「へギンス隊長には説明しましたが、詳細は我が家の秘儀が含まれるため、すべてをお話したわけではありません。」

 そう言うと、ベネはリュウイの頭に近づき、閉じている右のまぶたを両手でこじ開ける。

 リュウイの眼球が現れる。

「ヒッ」という声がして何人かが後ずさるほどの迫力がある。


「目元に傷があるのがご覧いただけますか。ここに矢を打ち込みました。」

 手を離すとまぶたがゆっくりと閉じてゆく。

 ベネはリュウイの頭の上に手を置いて、ポンポンと軽く叩く。

「この中には、矢が入っています。

 今は確認できませんが、後で解体すればわかることです。

 その矢に風をまとわせ、一瞬のスキを作って、目元から脳に達するよう打ち込みました。

 矢に纏わりついた風は、矢が停止すると幾千もの小さな竜巻となって、脳内を切り刻みます。

 バグが踵の腱を切って倒し、私が心臓を止める前に、リュウイは死んでいたのです。」

「そ、そんな器用なことができるやつがいるもんか。そんな奴が無名だなんて。」

 ドリボサの声に力が無くなった。だが、反論は続けようとする。


 それを遮ったのはバグだ。

「ベルケルクの魔女を知っているか?」


 反応したのは見物人の一部だ。

「100頭近い魔獣の群れをせん滅したやつだ。」

「風の渦で魔物を集め、高温の炎で焼き殺したやつだ。」

「焼け跡は未だに草一本生えてないそうだぞ。」

「若い娘の格好をしているが、1000年以上生きているらしい。」

 そう言った声を中心に、大きくはないが喧騒が広がっていく。


「彼女は私の妻だ。」


 今度は別の一群が反応した。ギルド職員を中心とした女性陣だ。

「エェ~!信じられない。」

「ああ~!優良物件が。」

「バグくん、だまされてない?」等々・・・・


 予想外の反応に驚いた様子を見せたバグだが、気を取り直してドリボサに近づく。

「あなたが得意とする得物は?」と問う。

「け、剣だ。この大剣だが。」

「あなたは死後硬直が解けたのでこの傷がつけられたのだと言った。

 それでは、この右足に切りつけてください。

 あなたぐらいの腕があれば俺よりも深い傷をつけれるはずですよね。」

 リュウイの右足かかとのすぐ上を指さして、あおるように笑みを浮かべる。

 カッとなったドリボサは、いきなり剣を引き抜くと鋭い剣筋でリュウイのかかとに切りつけ・・・弾かれた。


「リュウイにやいばを届かせるには、ある程度以上の力が要ります。

 剣の重さと振りの速さ、これらが合わさって初めて・・・」

 言いながら、リュウイから離れ、解体台の端にうずくまる。

 瞬間、バグの体が跳ね、リュウイのもとに移動すると、その速度に力を乗せて振りぬかれた剣がリュウイの踵に半ばまで食い込んだ。

「こうやって初めて、リュウイは切れるのですよ。」



 パチ。パチ。パチ。

 ゆっくりと拍手しながら解体台中央に進み出たのは執事のサルホスだ。

「イヤ~、見事なものを見せていただきました。」

 言いながらドリボサに近づく。

 ドリボサはバグの剣が目の前で振るわれたことで腰を抜かしているようだ。

「すまんなドリボサ。お前が一番悪役に向いていると思ったのでな。」


 ベネとバグにそれぞれ軽く頭を下げると、ベネの方を向いて、

「私どもの仕掛けた悪ふざけにお答えいただきありがとうございます。

 途中皆様に対し、失礼な言動がありました点、誠に申し訳ありません。

 お詫びに、トリュン滞在中の経費はすべてわたくし共で負担いたしますので、ご容赦ください。

 昨晩へギンスから聞いた話を私共はだれも信じられませんでした。

 ドリボサが言ったことは私共が疑問に思っていたことなのです。

 ここにいる皆さんの中にも、ドリボサに共感する動きがみられたように。


 それをお二人は簡潔に真実であると証明しました。

 リュウイを討伐した腕より、私はその聡明さに心を打たれております。

 不愉快な思いをされた点については、誤って済むものではありませんが、私共の領主サキソール・ガドランド様が誤った褒章を行うことを恐れたための狂言であったことをご理解くださるようお願いいたします。」

 言い終わると深々とお辞儀をする。

 それを見てドリボサも頭を下げる。座ったままだが。


「よく舌の回るやつだ。」と小声でつぶやくも、

「わかった。そうまで言われて固執するのも気分が悪い。

 先ほどのことは無かったことにする。領主様との対面の件はあとで返事する。」

 ベネはそう言うと、見物人の方を向いて、

「今から査定の時間だ。人の懐が気になるだろうが、お前らに懐を狙われないかとビクビクしている俺に免じて解散してくれ。」


 サルホスの口上にぽかんとしていたみんなから笑い声が起き、「おごれよ」とか「あとで酒場だぞ」など言いながら、速やかに退出してゆく。


 最後までぐずぐずしていた女性陣が去ると、先ほどのメンバーに解体担当の職員を加えた9人が残る。が、

「さっきの剣技を見たんで、あきらめがついたよ。

 俺たちは国都に帰る。ベネ、バグ、短い付き合いだったが会えてよかったよ。」

 そう言うと銀の翼のビリジョフは、その場から立ち去った。


「何があった。」「後でな。」ベネとゴメスが小声で話していると、

「帝国金貨150枚ね。」とマルチナが言う。

「それはさすがに。」サルホスが答えるが、ベネやバグも同じ気持ちだ。

 ふっかけ過ぎだろう。

「アラ、慰謝料も入っているのよ。」

 どうもさっきのやり取りの中の“冒険者への侮辱”が我慢できないのだろう。

「金貨100枚までは任されているんだが、それ以上となるともう一度領主殿にお話ししなければならない。そこまでで収めてくれないだろうか。」

「でも、これだけきれいな状態のリュウイは見たことありません。大きさも大きいし、何より頭が外されているので解体がはかどります。慰謝料と言うのが無くても金貨100枚の価値はありますよ。」これは解体担当の意見だ。

「では、査定額を帝国金貨100枚とします。あとは当事者同士でお話しください。」

 マルチナはそう言うと解体担当者を連れて事務所に戻って行った。


 結局、報奨金の額は金100枚と言うことで決着した。

 その代わり、卵や肝臓、血液など内臓を別途金貨20枚で買い上げてもらう。

 個別に売っても金貨10枚ぐらいと見込んでいたから、この辺りが妥協点だ。

 オークションなどに出品すれば、もっと高い値が付くだろうが、今から出品するとなると半年は待たないといけない。


 領主と対面する前日までに、金貨120枚を宿に届け、内臓を引き渡す。

 対面当日は少し演出を入れながら、リュウイの頭、胴体を出し、代わりに報奨金の目録をいただく。

 そういう段取りとなった。


 サルホス達3人を送り出した後、ゴメス、ベネ、バグの3人はマスター室に戻った。

「サルホスってやつは相当な役者だな。判断が早い。あのタイミングでは拒否できん。」

 椅子に腰を下ろすと、ベネは疲れたようなため息をつきながら吐き捨てる。

「途中までは、絶対本気だったよね。俺たちを詐欺師に仕立て上げて、リュウイをただで手に入れるつもりだったに違いないよ」とバグ。


「バグ、お前すごいな。腕を上げたっていうレベルじゃないぞ。

 あの一撃であいつの言葉になびきかけていた皆を一気に引き戻したじゃないか。

 あいつらの疑念は、俺ですら感じていたものだぞ。

 疑念が吹き飛んでほっとしてるよ。」

 ゴメスは執務机の自分の席に深く腰を下ろすと、眉間を指でもみながら嘆息する。


「だがまあ、手間は省けた。お前に売ったら金貨80枚ほどだったろうしな。」

 いたずらっぽく笑いながら言うベネだったが、口調を真面目なものに変えると、

「銀の翼に何があった。」

 とゴメスに問う。

「あいつらギルドを通さずこの仕事を受けたんだ。

 どっかの貴族様から直接依頼があったそうで、報酬は金貨一枚。

 そのかわり、討伐したリュウイは討伐割合に応じて貰えるという条件だ。

 昨日へギンスが討伐報酬は保証するとか言ってたろう。

 それをサルホスが蹴った。欲しかったら依頼者と交渉しろとな。

 まあ、当然と言えば、当然だ。

 ギルドを通してくれていたら、俺、いやマルチナがいくらかでも搾り取ったんだが。

 国都に帰っても、そのお貴族様が払ってくれるとは思えん。」

「俺たちが来る前に、そんな話をしていたのか。どうりで暗い雰囲気だったはずだ。

 ところで、領主が変わったのか。前に会った人とは名前が違うようだが。」

「お前たちがあったのは前領主だ。3年前に亡くなった。

 今のは息子だ。ずっと国都にいたんで、お前は知らないはずだ。

 やり手だぞ。国都にたくさんの伝手を持っていて、砦の兵力不足を補うためにいろんな領主から兵を借りてきている。

 俺たちが討伐に出発した日に王都に向かっている。

 俺たちが失敗することを見越して次の手を打とうとしたんだろう。

 商売にも明るい。東地区へ行ってみろ、昔とは段違いの賑やかさだ。

 その分、強引なところがある。不審死を遂げたやつも多くなったしな。

 その元凶がサルホスと睨んでるんだが、隙が見えない。」


「フゥ~。やっぱりこの町は早々に退散した方がよさそうだ。

 アッと。旅で得た素材を卸したいんだが、もう一回解体場借りれるか。」


 ゴメスと別れて、受付に行き、素材の買取要請をする。

 大量にあると聞いてマルチナまで出てきて、解体場に向かう。

 2人が肉や素材、薬草がそれぞれ詰まった一抱えもある麻袋を次々と取り出すのを驚嘆の目で見ていたが、そのうちうんざりした顔になり、とうとうこれ以上引き取れませんとマルチナが宣告した時には、解体場の1/3が袋で埋まっていた。


 査定に1週間はかかるというので、とりあえず腐りやすい肉や鮮度が必要な薬草は一旦しまい、毎日少しづつ納品することとした。

 それでも100袋以上残ったが、早速5人で仕分けが始まり、邪魔になるからと追い出された。


 帰りに女性職員から「バグさん。毎日来てくださいね♡」と声を掛けられ、俺には言わないのかとすねるベネだったが、みんなとの約束通り酒場に向かった。


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