2-2 冒険者ギルドにて-1
特定の視点はありません。
朝食時にみんなが食堂に集まり、今日の活動方針を決めた。
リュウイ討伐の報告と収納している素材の販売のため、ベネとバグは冒険者ギルドに出向くこととした。場合によってはリュウイの素材も売り払ってしまう。
女性陣は教会を訪問して、ベーネンド神父と慈母アロマサスに面会することにした。
「なんか変だね。」
バグがささやく。
ベネとバグは冒険者ギルドに向かっていたのだが、近づくにつれ道端にたむろする冒険者たちが目に付いてきた。何をするでもなく、何人かで集まっておしゃべりしているだけだが、日が高くなってきたこの時間帯に仕事にもいかず、何をしているのか。
時折、2人に目を向けるが、すぐに関心が無くなったように眼を逸らす。
ギルドの建物が見える所に来ると、
「ベネ!ベネじゃないか!」
と大声が響いた。
途端に、周りの視線が集まる。
「ロイにドン、マチスもいるのか。どうしたんだお前ら。」
ベネが声のかかった方を見て大声で返す。
5人ほどが、声を聞いて集まり始めた人だかりをかき分けながら近づくと、
「どうしたもこうしたも。昨日の晩は、たった5人でリュウイを倒した奴がいるって話で持ちきりだ。
聞きゃあ、雲をつくような大男に、睨まれたら金玉が縮みあがるような眼光鋭い大女って言うじゃないか。
それ聞いて、お前らじゃないかってピンと来たんで、みんなで待ち構えてたんだ。
久しぶりだな!」
そういうと、拳を固めて胸を小突く。
ベネはにやりと笑うと、腹にパンチを返して、
「今の話、死にたくなけりゃあ、リサには言うなよ。
それより、久しぶりだなみんな。
年は食ったが元気そうだ。」
バグをみんなに紹介すると、集まってきた人込みを力づくで押し返しながら、ギルドに向かう。
ギルド入り口にも、職員と思われる女性陣が集まって、
「ベネちゃんお久しぶり~!」
「リサ様いないの?」
「いい面構えになったじゃない、バグ!」
とうるさい。
しばらく入り口付近で、ワイワイ、ガヤガヤやっていると。奥の方から、
「早く来やがれ!お客さんが待ってるんだぞ。」
とギルドマスター、ゴメスのどなり声がする。
それでも話続ける面々を、後で酒場で合流する約束をして振り切ると、マスター室に向かった。
マスター室には入り口を入った正面に会議机があり、右側に執務机が置かれている。
会議机には正面窓際に3人の男。左端は討伐隊隊長のヘギンスだが、残りの二人は初顔だ。
机の右側にはゴメスが、左側には銀の翼のリーダー、ビリジョフが座っている。
執務机には年配の女性マルチナが座っている。ギルドの事務長でゴメスより怖がられている存在だ。もちろんゴメスも頭が上がらない。今日は書記役のようだ。
手前に空席が二つあったので、漠然とみんなに会釈して、右にベネ、左にバグが腰を下ろす。
ゴメスが、ゴホンとひとつ咳を入れると話し始める。
「まず紹介いたします。
今来ましたのが、ウォルター一家の長、ベネと息子のバグです。
こちらは(と言って中央の人物を見る)トリュン砦のドリボサ司令官、隣は領主館執事長のサルホス様です。」
何か紹介が雑だ。この2人歓迎されてないのか?
「ベネ。昨日のことはあらかじめお二人に説明してある。“お話”があるそうなので、対応してくれ。」
ゴメスの投げやりな態度を不審に思っていると、サルホスが口を開く。
「リュウイを討伐いただきありがとうございました。本来領主サキソール・ガドランド卿よりお言葉があるのですが、今は国都に滞在中のため私が対応させていただきます。
昨晩教会の緊急通信を通じて討伐した旨連絡しましたところ、ぜひ会いたいと仰せられます。4日後には帰ってまいりますので、5日後の13日、金の日、10時に領主館にお越しください。」
言葉は丁寧だが、人を見下すような態度が表に現れている。
「特に予定はないが、ここで素材を卸したら、トピコムに向かうつもりだ。5日後まで遅らすなら、妻の同意もいるので、返答は後ほどと言うことでいいだろうか。」
「貴様!領主殿の意向に逆らおうというのか!」
いきなり司令官が口をはさむ。けんか腰だ。それだけでなく‟威圧”を掛けてくる。
もっとも、この程度の威圧ではベネやバグにはそよ風みたいなものだ。
「別に駄目だと言ってはおらん。我が家のルールとして、決める前に相談するだけだよ。」
「ドリボサ、控えなさい。失礼しました。返事はいつ頃いただけますか?」
『ホ~、この執事、結構修羅場をくぐっているな。』
短いやり取りだが、単なる領主館の取り仕切り役だけではなさそうな感じを受けた。
「今、教会の知り合いに会いに行っている。夕方には帰るだろうから、帰ったら連絡する。連絡先は・・・ゴメス、お前に伝えたのでいいか?」
ここで口を挟んだのは、ヘギンスだ。
「ベネ殿は金龍館に滞在されております。館主に言えば伝わるようにしておきましょうか。」
「それで結構です。」
サルホスは、ヘギンスに返答した後一旦言葉を切ると、ベネに向き直り、
「それで、謁見の際にリュウイを献上いただきたいのですが。」
ベネは、ガタンと椅子から腰を上げたバグを左手で抑えると、
「相場の金額をお支払いいただければ、結構ですよ。」
落ち着いた声で、相手の意図を探るような視線を送りながら答える。
サルホスは一瞬探るような眼をしたが、あきらめたような顔になって、
「こちらとしては、『討伐隊を出したのに、空振りに終わった。』は、避けたいのですよ。
討伐されたのがあなた方であることは問題ないのですが、『討伐隊の協力に感謝する』ような言動を頂けないでしょうか。
リュウイを買い取るのではなく、献上を受けて報奨金を授与する形にしたいのですが。」
「わかりました。実際の金を事前にいただけるのであれば、猿芝居でも何でもしますよ。」
「さ、猿芝居とは・・・」ドリボサが怒鳴りかけたがサルホスに目で制される。
ベネはマルチナに目を向けると、
「今リュウイの相場はどのくらいだ?」と尋ねる。
「たまにしか獲れないリュウイに相場なんてありませんよ。近々の例ですと、銀の翼が討伐したリュウイが帝国金貨30枚で売れたと聞きましたが。」とビジョフに目をやる。
「あれは足元を見て買いたたかれたんだ。
リーダーとローゼルを亡くして混乱してたし、慌てて解体したので消化管が破れて肉の大半が使い物にならなかったし。」
「そうでしょうね、私も金貨50枚程度はしたはずだと聞いております。
いずれにしても、物を見せてもらってから判断したいのですが。」
「他に何もなければ解体場に向かいたいのだが。」
とゴメスが言う。
ドリボサは何か言いたげにサルホスに目を向けるが、何も言わない。
それではと、全員でギルドの裏にある解体場に向かった。
解体場は長さ20m、幅10m、高さ10mという大きな倉庫だ。
その隅に5m四方の解体台と職員の控室らしい小屋があるだけで、床は土を均して固めている。
普段は人気のない場所だが、今は周りを幾重にも人が取り囲んでいる。
「仕方ないな。コラ!道を開けろ。見るのはいいが邪魔をするんじゃないぞ。」
ゴメスの怒鳴り声に大人しく道を開けるが、バグの目には、マルチナの姿を見て道を開けたように見えた。
「解体台の上でいいか?」
「そうだな。頭が別だし、しっぽがはみ出す程度だろう。
あいつらも見やすいだろうしな。」
あごで見物人を指しながら、ゴメスが言う。
ベネの合図で、バグが先ず頭部を出す。見物人に向けて、顔が向くように。
「オオ!!!」
見物人だけでなく、サルホスやドリボサからも感嘆の声が出る。
続いてベネが身体を出す。
討伐時と同じように左側を下にして、頭の横に置く。
「ほ~。」今度は感嘆と言うより、ため息が漏れる。
「見事なもんだな。」「でかいな。」「きれいなウロコだ。」「傷ひとつないぞ。」
見物人からさまざまな声が上がる中。
「まやかしだ!」とドリボサが大声で叫ぶ。
「こんなきれいな状態で、リュウイが死ぬもんか!
死んだリュウイを見つけて、さも自分たちが倒したように自慢しているだけだ!」
場が凍り付いた。