2-1 三身一体(さんみいったい)
涼くんの視点です。
今回3人が念話します。
【 】が涼くん、≪ ≫がシャルルン、『 』がシャルです。
(注)表題は誤字ではありません。
町に入る前から、視点を上に出して周りを眺めていたのだが、町に入って気づいた。
僕が個別に認識した人や物はカラー表示されるが、風景の一部として見過ごしたものは白黒256階調(僕の感覚でだ)表示だ。
シャルちゃんの家族と討伐隊の一行はカラー表示になっていた。
高級そうな宿には大部屋がスイートしかないので、パパとママ、バグとヨナ、シャルの3部屋に分かれて泊まることになった。
ヘギンスさんの手配だろう。厚くもてなすが、最高級は無理!といった感じだ。
シャルちゃんは、パパ、ママと一緒に泊まるはずだったのだが、シャルちゃんの申し出で個室に泊まることになった。
「たまには、パパとママも二人っきりの方がいいでしょ。」などと、ませたことを言っていたが、どうもシャルルンからの指示があったようだ。
部屋には風呂がついていたので、シャルちゃんは大喜びで、真っ先に飛び込んでいった。
僕?僕は紳士ですから、リュックの中で大人しくしてましたよ。
風呂から上がって、寝間着に着替えたシャルちゃんは、僕をリュックから取り出すと、ベッドに腰かけて僕(靴です)を履く。
すぐにシャルルンから念話が入る。
シャルちゃんが靴を履かなくても、3人がお互いに意思疎通できるようにしたいとのことだ。
先ずは僕が身体を拡げて、シャルちゃんの体全体を覆う。
シャルちゃんがゆっくりと立ち上がり、部屋の中をゆっくりと歩く。
この間、シャルちゃんの体の表面に僕の体(黒い霧です)が張り付いて、シャルちゃんの動きに合わせてその形を変化させる。
最初は動きに同調できず、一部分が身体から離れると、吸い込まれるように靴に戻ってしまった。
視点をシャルちゃんの頭頂部に出し、シャルちゃんの動きを予測して、動きを感知したらそれに素早く対応することを練習する。
何度も繰り返しているうちに何とかできるようになった。
次はその状態で靴を脱ぐ。僕は完全に離れず、細い糸のような触手で靴と体を繋ぐ。
シャルちゃんが靴をリュックに仕舞い、リュックを置いて、部屋を出て廊下を歩く。
突然繋がりが切れて、僕は靴に戻ってしまった。
≪だいたい20mぐらいね。まあ、いいか。≫
ここまでいろいろと指示を出していたシャルルンが、満足げにつぶやく。
その後、靴をリュックに入れたまま、触手を伸ばしてシャルちゃんの体を覆う練習をするが、これは最初から問題なく出来た。
≪それじゃぁ、シャルちゃんと涼のネットワークを繋ぎます。≫
シャルルンが言った途端、激しい感情、喜びや期待があふれ出るような奔流が流れ込み、すぐにピタッと止まった。
≪シャルちゃん喜びすぎ。もっと感情を押さえないと言いたいことが伝わらないよ!≫どうもシャルルンが、連結をぶち切ったみたいだ。
≪もう一回繋ぐから、気持ちを押さえてね。涼は今朝教えたことを忘れないで!≫
『こんにちは涼くん、シャルです。』
【初めまして・・・じゃないか。念話は初めてですね。涼です。】
≪二人とも何かしこまってんのよ。そういう青臭いのはダメダメ。≫
【うっせえな!僕にとっちゃあ初デートみたいなもんだから。カッコつけさせろ!】
『ははは、涼くんすご~い。シャルルンに文句言えるんだ。』
【何? 僕ってどんな風に見られてるの?】
『さっき見たときはキリっとして、あいさつしてたけど、最初に見たときは気弱そうで、年下だと思ってたよ。とても16才には見えなかった。』
【地球では16才だけど、こちらじゃあ14年分しか生きてないようだよ。】
≪地球の1年は365日だからね。≫
【エッ、僕それ言ったっけ?】
≪いや、今、世界の知識から流れてきたのよ。
そういえば、おかしいな?
これまでも始祖に関する知識を漁ったことがあるけど、地球に関する情報なんか見当たらなかったのに。≫
【ねぇ、さっき君とリサたんとが話していたのを聞いていて思ったんだけど、世界の知識と君たち鑑定との関係って、僕の世界のサーバーと端末の関係みたいなもんじゃないの?】
≪サーバー?≫
【ウ~ン、どう言ったらいいかな?
どこかに巨大な、君の親みたいなのがいて、君たちが見たり聞いたりした情報を集めてるんだ。君たちがそこにアクセス、アッと、問い合わせると、他の鑑定が集めた情報も手に入れることができる。そんな感じじゃないの?】
≪確かに、私たちが集めた情報は世界の知識に送られてるし、送られてくる情報は他の鑑定が経験したものだし・・・≫
『ママが、世界の知識が経験していないことは鑑定できないって言ってたよ。』
【で、ね。君たち鑑定にも能力差があるでしょ。
リサたんとシャルルンでは調べられる範囲が違うとか言ってたし。
サーバーにもアクセス権と言って、端末がどこまでの機密情報を見ることができるのか制限がかかってるんだ。
えらい人は何でも見れるけど、地位が低くなると見える範囲が限られてきて、外部の人だとほとんど見られない。
君たちの話を聞いていて、似てるなって思ったんだ。
そして、さっきの話。シャルルンの地位が上がったから、これまで見えなかったものが見えるようになったんじゃないかな。】
≪私、地位が上がるようなことは何もしてないと思うけど?≫
【僕の世界とは違うだろ。シャルルンが成長するにしたがって、見える範囲が広くなるんじゃないの?】
≪ん~ん。ちょっと考えてみるわ。≫
≪それより、続きだけど、今の話、シャルちゃんにも聞こえてたよね。≫
『うん。私も割り込んだけど、聞こえてた?』
【ママの話だろ。ちゃんと聞こえてたよ。】
≪よ~し。ここまでは順当に行ってる。
これで3人の意思疎通ができるようになったわ。≫
それから、さっきの動作を一通り復習した。
≪じゃあ、もう遅いからシャルちゃんは寝ましょ。
私もさっきの件考えるから、接続切るね。
涼は睡眠必要?≫
【昨日の晩気絶していたけど、それからは眠気感じない。】
≪精神体にも休養は必要よ。私もそうだもの。
眠いと思ったら無理しないで意識を手放して。
起きたら知識が整理されてたり、課題の解決法が浮かんでたりするから。
でも、シャルちゃんとの接触は取っていてね。眠っても接触が続くかどうか確認するから。≫
【僕から連絡したい時はどうしたらいいの?】
≪私たちの区別ができるでしょ。
話しかけたい方を意識して念話すればいいだけよ。
眠ってなければ答えるわ。≫
そう言って、シャルルンが消える。
姿が見えてたわけじゃないのに、いなくなったのがわかる。
そのあとしばらく今日のことを考え直していたら、急に思考が不明瞭になった。
これが‟眠たい”と言う状況だなと思ったので、シャルちゃんとの接触を気にかけながら、意識を手放した。
第2章の始まりです。
毎日の更新は難しそうなので、2日ごとの更新を目指します。
まだ、念話による会話が中心ですが、アクション?も盛り込んでいきます。