この世界の常識
涼くんによるこの世界のもろもろに関する考察です。
シャルちゃんが靴を脱いだら、シャルルンとの接続が途切れた。
残して言った課題、『探査を使う』を練習しようとして、シャルちゃんの記憶をたどるが、『眉間の裏に力を込めて、肩から手に伸ばすように意識を広げる。』って、どうするんだよ!
初心者には難しすぎる課題だ。早々に諦める。
トリュンまでは徒歩で半日みたいなことを言ってたから、暇にあかせて、この世界のことを整理してみる。
この世界の1日は24時間。1時間は60分。秒は? 無い。
1年は420日。12カ月に分かれる。1ヵ月はすべての月が35日。7日で1週間。
計量単位は、重さがg、kg、tもある。長さはcm、m、km。
全く元の世界と同じ表し方だ。
容量は枡と樽だ。いきなり雑。でも大きさは決まっている。
貨幣単位は 円。桁の単位も十、百、千、万、億だ。
呼称からして、みんな始祖が決めたんだろうな。
帝国が発行する通貨は鉄貨1円、銅貨100円、銀貨が1000円、金貨が10万円と価値が決まっている。これらは帝国通貨と呼ばれていて世界中で通用する。
東大陸の国では独自の通貨を発行しており、それぞれ帝国通貨との交換割合が決められている。
通常使用する際には、円では無く、硬貨の枚数で表すことが普通のようだ。
1日の長さは、まだ1日しかたってないし、気絶していた時間もあるから、地球と比較するのは無理。でも朝から今までの感じでは同じぐらいの気がする。
1日の長さが同じぐらいだとして、1年の日数が違うので、16才の僕はこの世界では14才ぐらいということになる。
重さや長さは基準が無いのでわからないが、きっと地球と同じぐらいにしていると思う。
そうしないといろいろ考えるのに不便だろうからね。
曜日はまんま日、月、火、水、木、金、土。
言葉や文字が全然違うのに、今度の‟木の日”みたいに、日本語が混じるので何かむず痒い。
外国へ行って会話に“カラオケ”とか日本語が混ざるようなもんだと思おう。
そうだ! 文字は違うのに、数字はそのまんまだ。
そういえばさっきシャルルンが九九の間違いを指摘していたな。
あと、あいさつは‟お辞儀”が基本だ。シャルちゃんの記憶なので、日本のように厳密な使い分けがあるかはわからない。『首を前に倒す』程度の感覚しかない。
握手もある。これは契約成立時の合意表明に使われているようだ。
やはり、文化と言うか日常の事柄が、日本的だ。日本人的発想で生活しても問題なさそうな気がする。
そう言えば、始祖パズドーラ・バルスの本名と言うのは知られて無いんだな。
始祖について記憶を探ったら、もう少し出てきた。
500年を生きたが、300年余で皇帝を退位している。
退位後この東大陸に渡って来たそうだ。
ただ、征服が目的ではなく、教会を普及させるためだったようだ。
『鑑定能力を普及させるための子作り』のことは、お母さんから教会の説明を受けた記憶の中にあった。
何を教えているんだろう、あのビッグママは!
帝国の膨大な資金、食料を背景に、東大陸各地でその土地の有力者と協力して交通網の整備や農業指導を行なう一方、教会を各地に建立し、成人の儀を普及して、鑑定や治癒のギフトを持つ者を教会に集めている。
このため、始祖の人気は東大陸でも高く。各国も教会による救済制度や成人の儀による人口把握、個人の能力把握制度を採用している。
また、始祖は東大陸南部の“魔界”も訪れている。
魔界は魔族の世界との間に出来た‟割れ目”から噴き出す魔素が濃厚な地域だ。
ここの割れ目は固定されており、魔族や魔物が自由に出入りすることができる。
魔族や魔物は魔素の少ない地域では生きられず、この世界の生物は魔素の多い場所では生きられない。
このため、自然と住みわけが成されていたのだが、始祖が東大陸にもたらした恩恵で、人口が急激に増大したため、この境界付近で魔族とのトラブルが多発するようになった。
始祖は自ら魔界に出向き、魔族と交渉して両者の活動範囲を定めたばかりでなく、交易の拠点を設置した。
この時定められた協約は、今も維持されている。
シャルたちの一行は、この交易拠点を訪れたことがある。
魔族の世界との小規模な割れ目はこの世界の各地にあり、そこから漏れだす魔素が世界中を覆っている。魔界以外の割れ目は小さいので、魔族の世界の生物が侵入することは無いが、その周囲では高い魔素のせいで魔物化する生物もいて、リュウイやジャンガなどはそういったところで生まれた生物だとされている。
この魔素を制御することで、魔法が使える。
魔法を使う技術は明らかになっており、教育により習得が可能である。
ただ、使える魔力量に個人差があり、魔力量が少なければ大規模な魔法は使えない。
ギフトについては、あまりよくわかっていない。
使うと気力、体力が消耗する。
能力の個人差が大きく、使う技術が経験的なものなので、レアなギフトを手に入れても、使い方がわからないこともあるらしい。
シャルちゃんが政治的なことに関心が無いためか、政治体制については、王様がいて、貴族がいるぐらいしか知識が無かった。
とりあえず、こんなところか。
日が大分傾いた頃、トリュンの町に着いた。
中世ヨーロッパの城壁都市にそっくりだ。
討伐隊の人たちと一緒だったせいか、特にトラブルもなく、そのまま宿に入った。