表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/60

1-23 討伐隊との遭遇

今回は途中で視点の切り替えがあります。

<ウォルター一家サイド> 


 テントやテーブルなどを収納し、リュウイの胴体のところに集まる。

「何をしに来たかは、疑う余地はないな。こいつの討伐だ。」

 パパがリュウイを指して笑う。


「そうなると、こいつはこのまま置いておいた方がいいな。」

「でも、あいつらが来てから解体してたら、日が暮れちゃうよ。」

 とバグが言った時、

「ハイ!ハイ!」

 急にシャルが大声を出したので、みんなの目が集まる。


「今シャルルンから連絡。私“収納”手に入れたみたい。」

「何!ちょっと来てみろ。」


 パパがシャルを呼び寄せると、リュウイの胴体に手を置いて、

「こうやって、このでかぶつを体の中に取り込むようイメージしてみろ。

 大丈夫、入らなかったら『無理です』みたいな感じがある。」


 シャルは言われた通り、リュウイの体に手の平を当て、意識を集中する。

 スッ。とリュウイの体が消えた。

「すごいな。一発で決めやがった。付与時点で収容量も初期の俺以上か。」

 バグが感嘆を込めてつぶやく。

「ちょっと無理かなと思ったら、シャルルンがチョコっと手伝ってくれたの。

 でもコツが掴めたから、次からは一人で出来そう。」


「あとどのぐらい入る?」

「もういっぱいいっぱいって感じ。せいぜい樽一個分。

 あれ?こんなこともわかるんだ。」


「よし。それじゃあ、もう一度元の場所に出して。

 出す位置をイメージして、身体からゴロッと出すような感じで。」

 シャルが再び集中する。手の平を広げて突きだし、フッと大きく鼻息を吹くと、元の位置にリュウイが出現した。

「フ~ゥ、今度は一人で出来たよ。」


 ママが額にしわを寄せて、

「シャルに収納力があることは、まだ隠しておいた方が良いな。」と言う。

「そうですね。成人の儀の前に収納能力が有るとわかったら、攫われる危険がありますわね。」

 この、ヨナの発言に他の4人は『いまさら何?』と思うが、シャルが4才の時に攫われたことをヨナだけ知らないことに気づき、慌てて同意する。


「よし。俺の持っているものをシャルに移して、空きを作ろう。

 あいつらが来たら、俺がリュウイを収納する。そうすればシャルには目を向けまい。

 シャルこっちに来て、両手で水を受けるように構えろ。

 今度はちょっと難しいぞ。シャルルン、聞いているな。シャルを手伝ってくれ。

 俺が収納から出した瞬間、収納しろ。」


 パパはそう言うと、シャルの広げた両手の上に自分の右手を被せる様に重ねる。

 最初はパパの手から何か出て、シャルの手の平に吸い込まれてゆくのがわかった。

 途中から速度を上げたのか、流れるものの形が見えないほど速くなった。

 時折タイミングがずれたのか、シャルがよろめきそうになることもあったが。


「そろそろいっぱいになる!」

 シャルの言葉に、パパが動きを止めた。

「本当に大きいな。だが、頭付きでは無理だったろうから、昨日、頭を落としておいてよかったな。」

 とバグに笑いかけた。


「これで入るだろう。」

 パパが言った途端、リュウイが姿を消し、すぐまた現れた。

「慣れればこういう風に、離れていても収納できる。」

 ちょっと自慢げだ。


「シャル。彼の靴は仕舞って自分の靴を履け。その靴は目立ちすぎだ。」

 ママに指摘されて、シャルは慌てて靴を履き替え、彼の靴をリュックに仕舞う。


 しばらくして、

「もうすぐ相手の探査範囲に入る。どんな奴らかわからないから、気を抜くな。」

 こういった時のために、一家にはルールがある。

 今回は多数の敵に囲まれた時の配置で位置取りし、思い思いに寛いで待つ。




<トリュン討伐隊サイド>


「向こうからも、探査が来ました。探査強度を周期的に変えています。安全・安心のシグナルです。この繊細な強度変化!かなりの手練れです。」

 チェロスが声を押し殺しながらも興奮気味に叫ぶ。


「接触まで500m。正面の林の少し手前です。」

「ありゃ?なんか懐かしい感触だぞ。」

 突然ロビンズがつぶやく。

「知り合いか?」

「イヤァ、親しかったら名前までわかるさ。そこまでじゃないな。」

 私の問いに、はっきりと答える。

 討伐隊を覆っていた緊張感が、一気に緩んだ。

「おい、みんな。相手を確認するまで気を抜くな。」

「もう少しだから、気を入れ直して!」

 これは、銀の翼の連中だ。さすが場慣れしている。


 足を速めて進むといきなり広場に出た。

 目の前に小山のような肉塊。これはリュウイか?

 その前に3人の男女がいる。


 その一人を見て、思わず声を掛けた。

「ベネ?ベネだな。」

「おう、ギルド長じゃないか。自らお出ましとは。暇なのか?」

 ゴメスが返事しようとすると、小山の右陰から出てきた若者が、

「ほんとだ。ゴメスのおじさん。お久しぶり。」


 あちらでは、大柄な女性とロビンズがしゃべり始めた。

「おう、前に竜を振り回していた嬢ちゃんじゃないか。」

「ああ、あの時のじいさんか。まだ生きていたのか」

 顔を合わすなり、いきなりざわつき始めた時。


「すまんが、みんな、ちょっと黙ってくれ!


 私はトリュン砦で中隊長をしているヘギンスだ。

 今、リュウイ討伐隊の責任者としてここにいる。

 ここにある死骸は、リュウイか? 事情を聴きたい。」

 ヘギンスの声でざわつきが収まり、視線がベネに集まる。


 ベネは視線を隣の女性に動かすと、女性は軽くうなずく。

「私はベネと申します。隣にいるのはリサ、私の妻です。

 こちらが娘のシャル、向こうにいるのは息子のバグ、あちら(と逆方向を指して)はバグの嫁のヨナです。

 一家で冒険者をやっております。


 気になっておられるこの肉塊は、リュウイです。

 昨日遭遇しましたが、卵を持っており、ここに巣を作ると思いましたので、私たちで討伐しました。

 先ほど皆さん方を感知しましたが、おそらくリュウイ討伐の方々だと思い、お待ちしておりました。」


 簡潔で要点を的確についた答えを聞いて、ヘギンスは少したじろいだようだが、

「ここは街道からはかなり外れているが、ここにいる理由をお聞かせ願いたい。」


「私たちは13年前トリュンに立ち寄り、5年ほど暮らしました。

 その後、西部地方を転々としながら冒険者家業に努めていましたが、生来の放浪癖が抜けず、今度は東部地方を彷徨ってみようと思い立った次第です。

 1ヵ月前北西部のラディオールを出て、スピンノールの山塊に沿って南下し、トリュンを目指しています。

 この旅で採取した食肉や素材、薬草などをトリュンで捌いたのち、トピコムを目指す予定です。」


「このリュウイの首は、どうしたのかんね?」

 一呼吸の間が出来たと思ったら、ロビンズが訊ねる。

「全体を一度に収納することが出来なかったので、バグが持っております。

 出しましょうか?」

「すまんが出してもらえるかな。わしが見たのと同じやつか見てみたい。」


 ベネが確認するようにヘギンスを見る。ヘギンスが頷く。

「バグ、出してくれ」

 バグが手を伸ばし、リュウイの首の近くに頭部を出す。

 その迫力に一同から「オウッ」と言う感嘆の声が上がる。

 ロビンズ、ヘギンスだけでなく全員がリュウイのそばに集まり、黙って見つめていたが、

 やがて少しづつ声を出して感想を言い始め、ワイワイガヤガヤとにぎやかになった。


 そんな中ロビンズは黙ってあちこち見ていたが、

「わしが見たのと間違いないようだな。

 それにしても、傷がないが、どうやって倒した?」

「向きを変えようと左足に体重がかかったところを一撃し、横倒しになったので、槍で腹から心臓を突きました。

 詳細は我が家の秘技もありますのでご勘弁を。」

「卵は有ったか?」

「本卵が2個と栄養卵が6個」

 竜種では卵が孵るころに未受精卵を生み、孵化した直後の幼体の食べ物とする。それを栄養卵と呼ぶ。栄養卵は本卵の半分程度の大きさだ。


 ゴメスはヘギンスに近寄り、今後の行動を打ち合わせる。

 ヘギンスは、両手を打ち合わせて大きな音を立て、みんなの注意を引くと、

「今から帰れば、今日中にトリュンまでたどり着ける。

 詳しい話は帰ってからとして、引き上げよう。」


 ベネの方を向くと、

「トリュンに行かれるとのこと。ご同行いただきたい。」

 と丁寧に頼む。

 ベネが頷き、バグを促すとリュウイの首と胴体が消えた。

 一同は再び感嘆の声を上げた。


「銀の翼の方々、ギルドの方々、今回期せずして目的を達することができた。

 我々は何もしなかったが、報酬は約束通り払うので安心してほしい。」

 ヘギンスの声には安堵感が溢れている。

 ゴメスも、

「兵士の皆さん方もご苦労様でした。

 正直何人帰れることかと危惧しておりましたが、全員が揃って帰れる。

 ありがたいことです。」

 と兵士たちを慰撫する。


 シャルはママにこそっと言う。

「すごくいい人たちね。」

「うむ、よく統制が取れている。」


 ゴメスはベネに近寄ると、小声で、

「すまんな。この件まだ懸賞金がかかっていないんだ。」

「いいさ、代わりに素材を自由に処分できる。その方が実入りがいいかも。」

 そう言うと2人は笑い合う。


 こうして、ウォルター一家は、討伐隊とともに、トリュンを目指すのだった。


これで第1章は終りです。

導入部ですが、長すぎた?


第2章開始までしばらくお待ちください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ