1-23 討伐隊との遭遇
今回は途中で視点の切り替えがあります。
<ウォルター一家サイド>
テントやテーブルなどを収納し、リュウイの胴体のところに集まる。
「何をしに来たかは、疑う余地はないな。こいつの討伐だ。」
パパがリュウイを指して笑う。
「そうなると、こいつはこのまま置いておいた方がいいな。」
「でも、あいつらが来てから解体してたら、日が暮れちゃうよ。」
とバグが言った時、
「ハイ!ハイ!」
急にシャルが大声を出したので、みんなの目が集まる。
「今シャルルンから連絡。私“収納”手に入れたみたい。」
「何!ちょっと来てみろ。」
パパがシャルを呼び寄せると、リュウイの胴体に手を置いて、
「こうやって、このでか物を体の中に取り込むようイメージしてみろ。
大丈夫、入らなかったら『無理です』みたいな感じがある。」
シャルは言われた通り、リュウイの体に手の平を当て、意識を集中する。
スッ。とリュウイの体が消えた。
「すごいな。一発で決めやがった。付与時点で収容量も初期の俺以上か。」
バグが感嘆を込めてつぶやく。
「ちょっと無理かなと思ったら、シャルルンがチョコっと手伝ってくれたの。
でもコツが掴めたから、次からは一人で出来そう。」
「あとどのぐらい入る?」
「もういっぱいいっぱいって感じ。せいぜい樽一個分。
あれ?こんなこともわかるんだ。」
「よし。それじゃあ、もう一度元の場所に出して。
出す位置をイメージして、身体からゴロッと出すような感じで。」
シャルが再び集中する。手の平を広げて突きだし、フッと大きく鼻息を吹くと、元の位置にリュウイが出現した。
「フ~ゥ、今度は一人で出来たよ。」
ママが額にしわを寄せて、
「シャルに収納力があることは、まだ隠しておいた方が良いな。」と言う。
「そうですね。成人の儀の前に収納能力が有るとわかったら、攫われる危険がありますわね。」
この、ヨナの発言に他の4人は『いまさら何?』と思うが、シャルが4才の時に攫われたことをヨナだけ知らないことに気づき、慌てて同意する。
「よし。俺の持っているものをシャルに移して、空きを作ろう。
あいつらが来たら、俺がリュウイを収納する。そうすればシャルには目を向けまい。
シャルこっちに来て、両手で水を受けるように構えろ。
今度はちょっと難しいぞ。シャルルン、聞いているな。シャルを手伝ってくれ。
俺が収納から出した瞬間、収納しろ。」
パパはそう言うと、シャルの広げた両手の上に自分の右手を被せる様に重ねる。
最初はパパの手から何か出て、シャルの手の平に吸い込まれてゆくのがわかった。
途中から速度を上げたのか、流れるものの形が見えないほど速くなった。
時折タイミングがずれたのか、シャルがよろめきそうになることもあったが。
「そろそろいっぱいになる!」
シャルの言葉に、パパが動きを止めた。
「本当に大きいな。だが、頭付きでは無理だったろうから、昨日、頭を落としておいてよかったな。」
とバグに笑いかけた。
「これで入るだろう。」
パパが言った途端、リュウイが姿を消し、すぐまた現れた。
「慣れればこういう風に、離れていても収納できる。」
ちょっと自慢げだ。
「シャル。彼の靴は仕舞って自分の靴を履け。その靴は目立ちすぎだ。」
ママに指摘されて、シャルは慌てて靴を履き替え、彼の靴をリュックに仕舞う。
しばらくして、
「もうすぐ相手の探査範囲に入る。どんな奴らかわからないから、気を抜くな。」
こういった時のために、一家にはルールがある。
今回は多数の敵に囲まれた時の配置で位置取りし、思い思いに寛いで待つ。
<トリュン討伐隊サイド>
「向こうからも、探査が来ました。探査強度を周期的に変えています。安全・安心のシグナルです。この繊細な強度変化!かなりの手練れです。」
チェロスが声を押し殺しながらも興奮気味に叫ぶ。
「接触まで500m。正面の林の少し手前です。」
「ありゃ?なんか懐かしい感触だぞ。」
突然ロビンズがつぶやく。
「知り合いか?」
「イヤァ、親しかったら名前までわかるさ。そこまでじゃないな。」
私の問いに、はっきりと答える。
討伐隊を覆っていた緊張感が、一気に緩んだ。
「おい、みんな。相手を確認するまで気を抜くな。」
「もう少しだから、気を入れ直して!」
これは、銀の翼の連中だ。さすが場慣れしている。
足を速めて進むといきなり広場に出た。
目の前に小山のような肉塊。これはリュウイか?
その前に3人の男女がいる。
その一人を見て、思わず声を掛けた。
「ベネ?ベネだな。」
「おう、ギルド長じゃないか。自らお出ましとは。暇なのか?」
ゴメスが返事しようとすると、小山の右陰から出てきた若者が、
「ほんとだ。ゴメスのおじさん。お久しぶり。」
あちらでは、大柄な女性とロビンズがしゃべり始めた。
「おう、前に竜を振り回していた嬢ちゃんじゃないか。」
「ああ、あの時のじいさんか。まだ生きていたのか」
顔を合わすなり、いきなりざわつき始めた時。
「すまんが、みんな、ちょっと黙ってくれ!
私はトリュン砦で中隊長をしているヘギンスだ。
今、リュウイ討伐隊の責任者としてここにいる。
ここにある死骸は、リュウイか? 事情を聴きたい。」
ヘギンスの声でざわつきが収まり、視線がベネに集まる。
ベネは視線を隣の女性に動かすと、女性は軽くうなずく。
「私はベネと申します。隣にいるのはリサ、私の妻です。
こちらが娘のシャル、向こうにいるのは息子のバグ、あちら(と逆方向を指して)はバグの嫁のヨナです。
一家で冒険者をやっております。
気になっておられるこの肉塊は、リュウイです。
昨日遭遇しましたが、卵を持っており、ここに巣を作ると思いましたので、私たちで討伐しました。
先ほど皆さん方を感知しましたが、おそらくリュウイ討伐の方々だと思い、お待ちしておりました。」
簡潔で要点を的確についた答えを聞いて、ヘギンスは少したじろいだようだが、
「ここは街道からはかなり外れているが、ここにいる理由をお聞かせ願いたい。」
「私たちは13年前トリュンに立ち寄り、5年ほど暮らしました。
その後、西部地方を転々としながら冒険者家業に努めていましたが、生来の放浪癖が抜けず、今度は東部地方を彷徨ってみようと思い立った次第です。
1ヵ月前北西部のラディオールを出て、スピンノールの山塊に沿って南下し、トリュンを目指しています。
この旅で採取した食肉や素材、薬草などをトリュンで捌いたのち、トピコムを目指す予定です。」
「このリュウイの首は、どうしたのかんね?」
一呼吸の間が出来たと思ったら、ロビンズが訊ねる。
「全体を一度に収納することが出来なかったので、バグが持っております。
出しましょうか?」
「すまんが出してもらえるかな。わしが見たのと同じやつか見てみたい。」
ベネが確認するようにヘギンスを見る。ヘギンスが頷く。
「バグ、出してくれ」
バグが手を伸ばし、リュウイの首の近くに頭部を出す。
その迫力に一同から「オウッ」と言う感嘆の声が上がる。
ロビンズ、ヘギンスだけでなく全員がリュウイのそばに集まり、黙って見つめていたが、
やがて少しづつ声を出して感想を言い始め、ワイワイガヤガヤとにぎやかになった。
そんな中ロビンズは黙ってあちこち見ていたが、
「わしが見たのと間違いないようだな。
それにしても、傷がないが、どうやって倒した?」
「向きを変えようと左足に体重がかかったところを一撃し、横倒しになったので、槍で腹から心臓を突きました。
詳細は我が家の秘技もありますのでご勘弁を。」
「卵は有ったか?」
「本卵が2個と栄養卵が6個」
竜種では卵が孵るころに未受精卵を生み、孵化した直後の幼体の食べ物とする。それを栄養卵と呼ぶ。栄養卵は本卵の半分程度の大きさだ。
ゴメスはヘギンスに近寄り、今後の行動を打ち合わせる。
ヘギンスは、両手を打ち合わせて大きな音を立て、みんなの注意を引くと、
「今から帰れば、今日中にトリュンまでたどり着ける。
詳しい話は帰ってからとして、引き上げよう。」
ベネの方を向くと、
「トリュンに行かれるとのこと。ご同行いただきたい。」
と丁寧に頼む。
ベネが頷き、バグを促すとリュウイの首と胴体が消えた。
一同は再び感嘆の声を上げた。
「銀の翼の方々、ギルドの方々、今回期せずして目的を達することができた。
我々は何もしなかったが、報酬は約束通り払うので安心してほしい。」
ヘギンスの声には安堵感が溢れている。
ゴメスも、
「兵士の皆さん方もご苦労様でした。
正直何人帰れることかと危惧しておりましたが、全員が揃って帰れる。
ありがたいことです。」
と兵士たちを慰撫する。
シャルはママにこそっと言う。
「すごくいい人たちね。」
「うむ、よく統制が取れている。」
ゴメスはベネに近寄ると、小声で、
「すまんな。この件まだ懸賞金がかかっていないんだ。」
「いいさ、代わりに素材を自由に処分できる。その方が実入りがいいかも。」
そう言うと2人は笑い合う。
こうして、ウォルター一家は、討伐隊とともに、トリュンを目指すのだった。
これで第1章は終りです。
導入部ですが、長すぎた?
第2章開始までしばらくお待ちください。