1-21 おたくの巣窟
涼君の視点です。
「わが都の名はラピュタ。わが城の名はカリオストロ。」
強烈な衝撃だった。
これは絶対にあれだ。
有名なアニメ監督の作品に登場する名前。
だが、それだけじゃない。
その名付けに従えば、皇帝の苗字バルスは破滅の言葉、帝国名はあまりにも有名なアニメスタジオのもじりだ。
そうすると名前もそうか。パズドーラ。
ゲーム名に似たようなのがあったな程度と考えていたが、そんなことは無いだろう。
名前の合成か。・・・・・・ドーラだ!海賊の女ボス。
だったら前半はパズーか。まんま主人公じゃないか。
こいつは、俺と同じ世界からきている。それも同世代か、せいぜいじいちゃん世代。
だが、1700年前だぞ。
そこにリサたんの声が響く「時間の流れが40~50倍違う。」
それか!
それで計算すれば、始祖が落ちてきたのは3、40年前。
聖女が約30年前。最新の医師は4、5年ほど前だ。
聖女の名、ラビット・ムーン。月のウサギ。
最初っからそうじゃないかと思ってたが、やっぱり女の子に絶大な人気を得ているアニメの主人公だ。
教会に関することをと考えたら、出てきた。
教会幹部の称号。教皇:アース、枢機卿:マーキュリー、支部長:ジュピター・・・
「アニメオタクだ」
思わずつぶやいた。
もう一つ思い当たることがある。
僕が小学校5年生の秋だから、4年半前になる。
地元の国立大学医学部の名誉教授が山で遭難した。確か68才。
親父も捜索に駆り出されたので、いろんな話を聞いた。
- 大学の山岳部OBで、若いころには海外遠征にも参加していた。
- JICA(海外青年協力隊)で山岳地帯の医療活動に従事し、風土病の撲滅に功績があった。
-退職するまで大学山岳部の部長を務め、現役と一緒に活動しても引けを取らなかった。
こんな人なら山歩き気分で登れる山。当日天気は快晴。
遭難したと思われる場所は、僕が遭難したところと20kmほどしか離れていない。
あの遭遇した暗雲が次元の割れ目なのか。
あの問いかけに応えた人は日本人か日本在住の人だろう。
もしかしたら、そいつはあのあたりを彷徨っているんじゃないのか。
こんなことを考え込んでいたら、全身に衝撃が走る。
懐かしい感触。じゃない! シャルルンの平手打ちだ。
意識を浮かび上がらせると、リサとリサたん、シャルとシャルルンが僕を見つめている。
「何考えていたかしれないけど、緊急事態よ。お家に戻って!」
理由はわからないけれど、シャルルンの気迫に押されて、慌ててお家(左靴)に引っ込んだ。
シャルちゃんはまだ僕の靴を履いている。
そっと手を伸ばすとシャルルンの緊張を感じた。
気取られないように、接触点を限界まで細くして、シャルルンの動きを追う。
シャルルンは、僕を形づくっていた黒霧を吸収すると、リサたんに手を差し出す。
「情報交換しましょ。世界の知識に送ってないのも含めて。」
「あら、それって規則違反よ。集めた情報はみんな送らないと。」
と言いながら、にやりと笑うリサたん。
2人とも悪人面してますよ~。
2人の握手は2秒弱。
手を離すと2人の姿が消えて、依代だけが残った。
「よし、私たちも動こう。」
リサさんの言葉で、2人は周りを片付け始めた。
わずか2秒の接触。その間に交わされた会話を僕は聞いていた。
(≪ ≫はシャルルン、〔 〕はリサたんの発言です。)
≪これが涼くんの思考空間よ。私はシャルちゃんのしか知らないけど、滅茶苦茶大きくない?≫
〔リサの思考空間は通常の人の10倍ぐらいあるの。
シャルちゃんはその半分ぐらい。
涼のはリサと比べて10倍以上あるんじゃない。
でも、まだほんの少ししか使ってないのね。〕
≪見てよ。働いてるノッドの数≫
〔これはすごいね。普通は4個か8個だけど。30個はあるんじゃない。〕
≪動き回って見づらいけど、32個だった。これが半日で言葉を習得した理由だと思う≫
〔あの隅っこの塊が“吸収”?〕
≪そうだと思う。あそこから思考空間に吐き出してたから。≫
〔ねえ、本当に吸収かな?〕
≪ほら、これが私の感じたものよ。始祖の言う“コピペ”の感触がこれ。
これが複製、こっちは定着、両方が連携してるでしょ。≫
〔言われてみればわかるけど、よく判ったわね。どこまで潜ったの。〕
≪リサたんのと照らし合わしたら、一層ぐらいしか差はないわね。
その一層はほとんど鑑定に関すること。
残っているのは始祖と正妃の秘密ぐらいじゃないかな。≫
〔私たちの存在意義は解った?〕
≪あー、それもあるか。≫
〔ところで、あなたは吸収されてないの?〕
≪涼を鑑定したのが、吸収して半日だったからかな。
まだ、探査も結界も感じられなかった。≫
〔今ノッドたちが構築してるのがそれかな。
あんたがもう一人生まれたらと思うとゾッとするんだけど。〕
≪私も同感。これからも定期的に鑑定してみるわ。それじゃー、また。≫
〔私は、もう会いたくないんだけど。しゃーないか。〕
リサたんの感触が消える。
『しっかし、2人ともキツイなぁ。』
2人が見ていたものが何かわからなかったので、会話の内容はほとんどわからなかったが、“コピペ”と言う言葉はわかった。
【吸収よりコピペの方がしっくりくるなあ。
パソコンでデータをコピーして別のところに張り付ける感覚か。
他人の脳内情報を自分に張り付けるんだろ。気色悪!
そんなことして、俺の人格どうなるんだろ?】
≪油断してたら乗っ取られるわよ!≫
いきなりシャルルンの大声が耳元でする。
【わぁ!びっくりした。急に、脅かさないでよ。】
≪今のぞき見してたでしょ。私たちにもマナーってもんがあるんだから。
今度したらお仕置きよ!≫
『ウワッ、バレてた。』
【ごめん。もうしません。で、精神体へのお仕置きって何するの?】
≪なによ。期待してるの? 変態!
って、時間無いからさっさとするね。≫
そういうと、さっきのように僕の中に飛び込んだ。
『別に何も感じないけど、気持ち悪いんだよな!』
念話に出ないように注意しながら毒づいた。
シャルルンは前と同じように、突然現れると、
≪探査は獲得したようだけど、これ何?収納!≫
ぎろり。僕の目をのぞき込みながら、極低音で、
≪こ・ん・な・も・の、 ど・こ・で・手・に・入・れ・た・の?≫
『こわいよ~、おかあちゃ~ん。』
【知らないよ。今朝から君も見ていただろ。
確かにみんなに触られたけど。
あの失神するような感じはシャルちゃんの時だけだよ。】
眉にしわを寄せ、ちょっと考えていたシャルルンだが、突然姿を消した。
と思うと、また姿を現し。
≪シャルちゃんが収納を獲得したみたい。≫
と嬉しそうに微笑む。そして、
≪探査手に入れたんだから、あなたも周りを警戒してね。≫
と言って、消えてしまった。
【お~い。探査ってどうやって使うんだ。教えてから行けよ。】
僕の叫びは、虚空にむなしく響くだけだった。