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1-20 家族会議-4

引き続きシャルの視点です。

 「オ~イ、聞こえるかー!」

 シャルルンがリョウくんの耳元で呼びかける。6度目?7度目?


 リョウくんは固まってしまった。

 シャルルンとリサたんが肉声や念話で呼びかけるものの、応答が無い。


 ため息をついたシャルルンが、みんなに向き直ると、

 「リョウくんが復活するのに時間がかかりそうなので、もう一つの主題にいきます。」

 『何だろ? まだ何かあったっけ?』

 「これからの私たちの動き方についてです。

 なぜ今それが必要かと言うと、リョウくんは“吸収”能力を持っています。」


 「「「何!」」」

 反応したのはパパとママ、それとリサたん。


 私は聞いてたけど、バグ兄、ヨナ姉は初耳のようだ。

「何だそれ?」

「初めて聞きましたが、ギフトですか?」


「始祖が持っていたギフトだ。触れた相手の持つ能力を奪い、自分の物とする。」

 言ってるパパの目つきが怖い。


 「それ違う違う。やっぱり間違って伝わってるんだ。」

 手を横に振り、笑いながらシャルルンが否定する。


「“吸収”と言うギフトは、始祖だけしか記録がありません。

 他者の能力を自分の物にするのは確かですが、吸収された側には何の変化もありません。

 始祖は‟コピペ”と呼んでいたそうです。」

 リサたんが淡々と説明する。


 シャルルンは説明を続ける。

「昨晩、リョウくんと話したいと思ったから、シャルちゃんに靴を履いてもらったの。

 そしたら2人とも昏睡状態になって、6時間ほど目を覚まさない。

 焦ったわ~。

 先にリョウくんが目を覚ましたんだけど、何か混乱してるようだったので、鑑定したら“吸収”があった。

 慌ててシャルちゃんも鑑定したけど、シャルちゃんの方はこれまでと変わらなかった。

 シャルちゃん、探査も結界も使えるでしょ。」


 私は慌てて探査と結界を使ってみた。ウン!これまで通りだ。

 「うん。いつもと変わらない。」


 「さっきのリョウくん、普通に話していたでしょ。あれはシャルちゃんの記憶を吸収したからよ。もっとも、使えるまでに時間がかかっていたけど。」


 「もしかして、私の今までの全て、彼に知られちゃってるの?」

 きつい口調でシャルルンに、言葉を投げつける。

 恥ずかしさ、怒り、後悔。あらゆる感情が荒れ狂っている。


 「落ち着きなさい。私だって、あなたの考えは読めないのよ。

 あなたが話しかけよう、聞いてほしいと思ったことしかわからないわ。

 吸収だって同じだと思うの。

 言葉のように定常的に外向きに発されることは自分の物と出来るけど、心の中の一過的な考えなど、量が多くて取り込めないわよ。

 目に見える行動は別だけど。」

 ほっとしたけど、最後の言葉で殺意が湧いた。

 シャルルンを睨みつけるが、ニヤリと笑われる。

 「落ち着いた? 正気に戻すには軽い怒りが一番効くのよ。」


 「つまり、異次元を渡り歩く能力を持つ私、“絶対防御”を持つベネ、‟魅惑”を持つバグ、‟行動する鑑定”を持つシャル、広範囲殲滅魔法を持つヨナ。

 そいつに“吸収”を持つ精霊が加わったわけだ。

 後は‟治癒”が必要だな。」

 ママがあきれたような口調で話す。

 『知らなかった!バグ兄って“魅惑”持ってたの。』


 「“天空往来”ですか?」

 ヨナ姉が硬い表情でママに問いかける。


 天空往来は昔話の一つだ。

 人類が誕生し、憎み合い、殺し合っていたころ、特殊な力を持った7人が幾つもの不思議な世界を旅し、神から人が生きるべき姿を教えられ、持ち帰った“貴書”を広めて平和をもたらした。そんな話だ。

 いろんなところで聞いたが、説教臭いのであまり覚えていない。


 「私は別に、第2次の天空往来をしようと考えているわけじゃないわよ。」

 シャルルンは笑いながら否定するが、急に真面目な顔になって提案する。


 「このメンバーで、トリュンに行くのはやめた方が良いと思うの。

 パパさん、ママさんを覚えている人は大勢いるでしょうし、砦の崩壊についてもまだ調べが続いている可能性が高いわ。

 それに、もともとトリュンに行く目的だった、私の覚醒はもう終わっちゃったし。

 他に用事が無いのだったら別の場所を目指しましょ。

 シャルちゃんの成人の儀が延びちゃうけど、我慢してね。」


 「ううん、別にいいよ。」

 子供が成人の儀を心待ちにしているのは、自分の中にあるかもしれない特殊な能力を知りたいためだ。

 私はママから自分の能力を教えてもらってたし、今ではシャルルンもいるので、成人の儀を急いで受ける必要はない。


「そうだな。ベーネンドはもういいな。慈母アマロサスには会いたかったが。仕方ないか。」

「どなた?」

 ヨナ姉が訊ねる。

「アロマサスさんはリサが大怪我をした時、直してもらった神母様だよ。

 “慈母”の称号を持っているのでわかるように、この辺ではトップの癒し手だ。

 前にトリュンを離れるとき、地域巡診でいなかったので挨拶できなかったな。」

 パパが答える。

 メネル教では、称号に男性は“父”、女性は“母”をつける。

 “治癒”能力を持つ人はその治癒力の大きさと経験年数で幾つかの称号に分かれていて、慈母はたしか聖母に次ぐ第2位の称号のはずだ。


「でも、収納がもう満杯だから、どっか大きな町に行かないと。

 リュウイの頭も含めて、これだけの量を扱える街って、この近くにある?

 それに、父さんの収納整理をしようとしたら、かなり大きな倉庫がいるだろ。」

「セミソン街道を西に、馬車で3日のところにコーンと言う町がありますが、交易都市ではないので、物産の処分は難しいと思います。」

 これはリサたんの情報。


「馬車は持っているが、馬がいないな。徒歩だと10日か。

 馬はトリュンへ行かないと調達できないだろう。

 トリュンまで行けば、船で川を下れるんだが。」


「私たちが暮らしていたのはトリュンの北側から西側だ。

 住んでいたのも、冒険者ギルドもその範囲にある。

 知り合いの冒険者も大体はそのあたりに住んでいた。あと中央の領主館付近。

 その あたりを避ければ、私たちとは気づかれずに済むんじゃないか?」


「そうだな、砦を迂回して東門から入れば、商業地区だな。

 人の出入りも多いし。宿も多い。船着き場も近いから、船で下るか。」


「大陸の東部には行ったことが無いからちょうどいいな。

 リサたん、大きな町はありそうか。」

「大ベルン川、小ベルン川の周辺は穀倉地帯です。川沿いに大きな町が幾つもあります。

 小ベルン川河口のトピコムはラディオール並みの大都市です。」


 パパとママは一旦トリュンに潜入?して、東部を目指す方向で話している。

 バグ兄、ヨナ姉も興味津々だ。

 この人たち、世界を見て回るのが趣味だからねぇ。

 今回の道筋も『行ったことが無いから』と言う理由で決めてたし。

 私?私も好きだよ。


 その時、探査がざわついた。トリュンの方向だ。

 注意を向けたが、特に引っかかるものはない。

 ただ、静かだった草原に、動揺が走っている。

 小動物が慌ただしく動くのが感じられる。


 「ママ、何か来る。トリュンの方向。」

 即座にママが探査を発動する。


 「街道から草原にかかるあたりに20人ほどの集団がいる。

 こちらに向かってゆっくり動いている。ここまで来るのに数時間。」

 ママの言葉に、

 「この場は解散だ。いつでも移動できるように片付けを急げ。

 リサとシャルは探査を継続。」

 パパの指示が飛ぶ。

 「「「「了解」」」」

 全員が成すべきことを成すため、動き始める。


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