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1-2 ウチら陽気な冒険者

初投稿です。本日2話目を投稿します。もう1話投稿予定です。

「おっ、見えたぞ」

 10歩ほど前を歩くパパの声で、思わず走り出し、横に並ぶ。

「どこ。どこ。」

 パパの指さす方を眺めるが、見えるのはどこまでも続く草原、所処にまとまっている林、それから遠くに霞む山。

「ああ、帰ってきたな。」ママが追いついてきて懐かしそうにつぶやく。

「どこ。どこにも町なんて見えないじゃない!」思わず叫ぶ。

 背伸びしたら見えるのかな。

「フ~。やっと帰ってきたか。」

「どこですの。どこに見えます?」

 これは、しんがりを務めていたバグにいとヨナねえ。バカ夫婦である。

「いや、町はまだ見えないよ。だけど、向こうに見える山、あの右先にある3つの尖った山の右下あたりにこれから行くトリュンの町があるんだよ。」

 バグ兄がヨナ姉に説明している。ヨナ姉は2ヵ月前に結婚して家族になったばかりだから、私の生まれた町に来るのは初めてだ。

 私も4才の時ここを離れて以来だけどね。

「エ~。あれじゃあ、まだ1日以上かかるじゃない。パパ、3日前にあと1日って言ってたよね。」

 パパのいい加減さはいつものことだけど、一応文句は言っておく。


 私たちがいるのは、東大陸の北端、霊峰スピンノール山を取り巻く山々が尽きる南側だ。大陸西北の港町ラディオールから山裾沿いに1ヶ月、狩りや薬草採取をしながら、北部中央の都市トリュンに向かっている。


「あら、ベネ。ここからの眺めは見た覚えがあるわ。確か町から2、30分で来たと思うけど。」

「リサ、あれはジョンに乗って来た時のことだろ。君の怪我が治って初めての遠出だったから魔力があふれかえっていて、ジョンは自力で飛んだんじゃなく、君に飛ばされたんだって嘆いていたよ。普通ならジョンでも2時間はかかるはずだよ。」

 ベネはパパ、リサはママの名前だ。あっ、私はシャルね。

 みんなには長い名前もあるけど「呼び名は簡潔に」が我が家のモットーなので、二言でしか呼び合わない。

 ちなみに、ジョンは若いドラゴンで、あの町を出るときに別れて巣に戻ったはずだ。


「ここからだんだん草が高くなって方向がわかりにくくなる。

 とりあえずあの林を目標にして、はぐれたらあの林の先っぽの方を目指すようにしよう。

 並び順は先ほどのまま、武器を振り回せる間を取るが、今からは前の者を見失わない距離を保て。シャルは俺のすぐ後ろで探査に専念しろ」

 一休みした後、パパの号令で進み始める。

 先頭のパパが邪魔な草を豪快に刈り取りながら進むので、後続が見失う心配なんてなさそうだが、魔獣の群れと遭遇し、混戦になるといつの間にかはぐれることもある。


 私は探査だ。

 意識を集中して前方30mほどの半円内の地形や悪意ある生き物の存在などを検知する。

 探査能力はパパを除いてみんな持っているが、探査に集中すると探査範囲外からの攻撃や天候の変化など普通に気付くようなことを見逃すこともあるので、攻撃力の無い私が担当している。

「30m先に水路。浅いけど草に隠れて見えないから注意して。水蛇も何匹かいるけど、大きいのはいない。」といった風に、みんなに注意を促す。

 この辺りは大きな山塊の周縁部なので、湧水が多く草原の中に川や湿地が隠れている。水辺には危険な生き物も多いので注意が必要だ。


 上方と後方はヨナ姉が風の結界をゆるく張って侵入者を検知しているが、バグ兄の悪意に対する感覚が尋常じゃないので、敵の攻撃はだいたいバグ兄が真っ先に感知する。



 しばらく進んでいると、突然膨大な魔力の爆発を検知し、失神しそうになった。

 みんなも大きな火柱が立ったのに気づき、立ち止まって身構える。

 遅れて轟音が響き渡る。


「あの林の向こうだな。」

 パパが私を支えながら言い、全員に目をやる。

「ヨナ、シャルを連れてあの林まで先行しろ。爆発地点の見える所まで進め。リサ、2人に結界を。バグ、走るぞ。」

 短く詠唱して浮かび上がったヨナ姉は私の腋の下に手を入れて持ち上げ、草の上を滑空する。

 ママの結界が私たちの周りを覆い、移動による風圧や小虫を跳ねのけてゆく。


 すぐに林までたどり着くと、爆発地点の方向へ枝の間を縫うように進み、林の途切れるあたりで、大きな枝の上に降りる。

「あそこね。シャルちゃん見える?」

 距離にして300m。肉眼でも草原の中に円形の広場が見える。火は見えない。

 私は探査の範囲を絞り、距離を伸ばした。

 円の中心付近に倒れている人が見えた。

 奇妙だ。

 周りは高熱により焼失しているのに、その人は服も、背負っている荷物も焼け焦げていない。

 範囲を更に絞って拡大して観察するが、髪の毛や皮膚に焼けた形跡が無い。

 外傷はなさそうなのに生気を感じない。


 観察結果をヨナ姉に伝えながら、探査範囲を広げて周辺を観察する。

 この円形広場の様子は異常だ。

 中央付近は草が完全に焼失している。

 その周りは中心から離れるにつれて灰の色が白から黒に変化している。

「中心にとんでもなく高温の物体ができて、一瞬で爆発したようね。それも爆風が上方向にだけしか向かわないと、こんなにはならないかしら。」

 ヨナ姉はそう呟きながらも首をかしげている。


「あの人どうする?」

 爆心地でうつ伏せに倒れている、おそらく若い男性をどうしたらいいのか。

「みんなが来るまで待機よ。」

「わかった。」


 5分くらいでみんなが来た。

 音もたてずに木を登ってきて、私の報告を黙って聞きながら広場をじっと見ている。


「ジャンガが集まりだしたわね。」とママがつぶやく。

 ジャンガはネズミのような形態でうろこ状の皮膚を持つ、大きくても20cmぐらいの生き物で、草原の掃除屋である。

 なにもなさそうな焼け跡に何を見つけたのだろう。

 ジャンガが予知能力を持っていると言う人もいる。大きな戦の前に戦場となる場所にどこからともなく集まってくるというが、探査で検知した100匹以上のジャンガが満足する獲物はどんなに大きいのだろうか。


 突然、広場の男に生気が宿った。

 探査には止まっていた心臓が急に動き出したような感触が“ドスン”と来た。


 男はゆっくりと立ち上がり、周りを見まわす。

 服のほこりを払い、体のあちこちを見たり、触ったりしている。

 顔を拡大して見る。若くて整った顔立ちをしているが、口を半分開いて途方に暮れている様を見ると私より幼く見える。

 私?、12歳だよ。



「「!!!!」」

 ママと私は同時に気づいて、左前方を見る。

「リュウイだ。」

 みんなに緊張が走る。

 リュウイは土竜の一種だ。

 硬く分厚い皮膚を持ち、首の周りには板状の甲羅と長い2本の角がある。

 前足は普段折りたたんでいて、4足歩行をする。

 草場で姿勢を低くしたまま移動するためだ。今も大きな体を草よりも低くして、滑らかに草をすり抜け、広場の中央に向かって進んでいる。

 攻撃時には前足を展開する。

 2倍以上の長さとなった前足に3本の鋭く長い爪を持っていて、太い後足と長い尾でバランスを取りながら、相手の届かない距離から必殺の斬撃を繰り出す。


「あの子助けられない?」

 私の言葉に、パパは前を見据えながら首を横に振る。

「討伐するだけならできるだろうがな。今からでは間に合わない。」

 すでにリュウイは広場から50mにまで近づき、速度を緩めて、襲い掛かるタイミングを計っている。

「奴の怖いのは、鋭い探知能力だ。今も分厚い草の向こうにある広場の男に気づいてやってきた。普段なら、俺やバグなら隠遁と結界を使って近づけるだろうが、今の奴は狩りの前の緊張状態にある。隠遁は効かない。」


「あの子、妊娠している。」突然ママがつぶやく。

 あの子って誰?広場の子は女の子?

「あのリュウイは雌。おなかに卵を抱えている。この付近に巣を作るつもりね。」

 ママは探査能力もすごいが、もっとすごいのは”鑑定”というレアなギフトを持っていることだ、それもかなり高度なのを。

「それはまずいな。ここら辺は町の連中の狩場だ。少なくとも8年前には町にリュウイを狩れるようなの冒険者はいなかった。」

 そう呟いたパパは意を決したように身構え、宣言する。

「あいつは今、広場の男を狙っている。やつが獲物を倒し、食い始めたら動くぞ。」

 私はびっくりしてパパの顔を見る。パパは私を見据える。

 ママを見る。ママは私の頭をやさしくなでる。

 バグ兄とヨナ姉を見る。二人とも目を合わせてくれるが首を横に振る。

 ・・・一呼吸おいて私はパパと目を合わせ、「それで?」と問う。


 しばらくして、リュウイは男の前にゆっくりと姿を現す。

 男はリュウイをじっと見つめるが、動かない。いや動けないのか。

 リュウイが男の匂いを嗅ぐように鼻を動かし、少し体を遠ざける。攻撃の構えだ。

 その時、男は腰から何かを引き抜きリュウイに向かって、赤い煙を吹き付けた。

 一瞬、リュウイは縮こまるような動作をするが、次の瞬間には右手の横殴りが男にさく裂し、男は飛び散った。


「いくぞ!」

 パパの掛け声に応えて、みんなは所定の位置に動き出す。


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