1-19 家族会議-3
シャルの視点です。
「・・・今は精霊となったリョウくんです。」
シャルルンが大げさに手を差し伸べると、光る板の周りに黒い霧が集まってくる。
魔素だ。それもすごい量と密度。
≪これだけ集めてくるのがどれほど大変だったか!≫
シャルルン、念話でぼやかないの。
黒い霧はやがて人の形を取る。
表面が明るくなり、色が付き、細やかな造形が施される。
そこにいたのは、昨日見た少年だ。再現性 高!
身長は座っているのでわかりづらいが、私より頭一つ高そうだ。
黒い髪、黒い瞳、肌の色は私たちとあまり変わらないが、少しくすんだ感じだ。
昨日の途方に暮れた様子はない。むしろワクワクしているようだ。
『私より年上かも。』
服は昨日着ていたものではなく、冒険者が普段着る半袖のポケットが多い上着に、ゆったりとしたズボン。靴も冒険者風の足首まで隠す短靴。
「初めまして皆さん。タジマ・リョウです。リョウが名前なので、そちらで呼んでください。」
はっきりとした発音。本当に異世界人?
「僕の住んでいた世界は“地球”と呼ばれる星で、そこにある国の一つ‟日本”から来ました。年は16です。」
『え~、兄貴より1つ下! 絶対そんな年に見えない。』
「自己紹介はこんなもんでいい?」
シャルルンを見ながら、ニッコリ笑う。
『きれいな白い歯!』
「しっかりしてるね。アッと。質問を受ける前に“落ち人”の確認をします。」
ママが口を開こうとしたのを制し、シャルルンはリサたんの方を向く。
「リサたんは始祖が定めた落ち人の確認方法を知ってますね。」
リサたんは、軽く頷く。
顔をリョウくんに向け直し、
「リョウはジブラトス帝国の古都の名前を知ってる?」
「え~と、フローラじゃないの?」
「それは現首都。フローネね。
始祖が皇帝だった時代の首都を古都って言うの。
そこの名前は記憶にある?」
リョウくんは、ちょっと考えていたが、首を横に振る。
「リサたん、じゃ、お願い。」
シャルルンに振られたリサたんは、背筋を伸ばして、姿勢を正すと。
「彼の者に問う。わが都はラピュタ。わが城はカリオストロ。覚えはあるか!」
彼の表情が劇的に変わった。
目を大きく見開き、口を開けた驚愕の表情だ。
何か言おうとするが言葉が出てこない。
「確認した。落ち人と認定する。」
リサたんが厳かに宣言する。
「それ何!?」私は慌ててみんなの顔を見回す。
バグ兄とヨナ姉は仲間だ、私と同じように視線をキョロつかせている。
パパも不審そうに考え込んでる。よし!、パパもわかっていない。
ママだけはわかったようだ。私の視線を受けると、
「リサたん、みんなに説明しろ。昨日の件も含めてな。」
と言ってリサたんを促す。
「承知しました。
先ほどの古都名、古城名は始祖が元いた世界では有名な名前だそうです。
リョウを除き、これまで“落ち人”と名乗り出た者は13名いました。
古都、古城の名を聞き、驚愕したり、「アホな」と叫んだりしたものが7名。
この方たちは、始祖の命により、政府に登用され、重用されました。
残り6名のうち、4名は異世界人を騙ったことが明らかになり死刑となりました。
2名は、さらなる尋問の結果、異世界人であると認定されました。
この2人のその後は記録がありません。
さて、異世界人を識別する、このような質問を、なぜ1700年にもわたって続けて来て、それでもなお効果があるのか。
その答えは、2つの世界に流れる時間の速さが異なるためです。
始祖はその差を40~50倍と見込んでいました。
昨日、リサと私はリョウがいた世界に行き、その世界の知識と話をしました。
彼の世界では40年ほど前に“割れ目”が出来たそうです。
始祖がこの世界に来たのが1700年前。
時間の流れは一定ではないので、多少の誤差はあるでしょうが、始祖の予想は正しかったのです。
リョウさん。ご納得いただけましたか?」
リョウくんは、驚愕した顔のまま、一言つぶやいた。
「アニメオタクだ。」