1-18 家族会議-2
涼くんの視点です。
混乱した状態で家(左靴です)に戻ってきた涼だが、しばらく視点も引っ込めて、じっとしているうちに知識の突沸が徐々に収まってきた。
シャルルンの話だと、この知識は、僕が娘さん、シャルちゃんから吸収したものらしい。
いいのかなぁ、女の子の体験を取り込んだりして。
まあ、まだ恋愛対象外の子どもだからいいか。
完全に治まったことを確認するため、もう一度“始祖”のことを調べることにした。
先程の時とは違い、情報がひとつずつ出てくる感じだ。
『始祖。1718年前、落ち人として西大陸に現れる。初代ジブラトス帝国皇帝。』
ここで、西大陸を意識すると、
『西にある大陸。全土がジブラトス帝国統治下にある。東大陸北西の港町ラディオールが唯一の窓口。』
エッ、これだけ?
あっ、そうか。シャルちゃんの持っている知識がこれだけなんだ。
じゃあ、ジブラトス帝国は。
『始祖バズドーラ・バルスが起こした西大陸唯一の国。混乱の時期もあったが、バルス王朝として継続。現在バルス歴1705年。首都フローネ。文明が発達し、お菓子がおいしい。』
ハハ、さすが子供の知識だ。
始祖に戻って、続きは、
『10数年で西大陸を統一。没年不詳。500年余を生き、突然姿を消す。子供は2000人を超える。
ギフト‟鑑定”が遺伝により伝わることを知り、その普及のため積極的に各地で子をなす。』
最後のは具体的だな。
『ママがそう言った。』
おっと、こういう関連知識も引き出せるのか。
それにしても、500年以上生きて、子供が2000人以上って、サバ読みすぎだろう。
1700年も前のことだから、伝説になっているんだろうな。
そうだ、落ち人についてはどうだ。
『現在知られている落ち人は5人。
1700年前、パズドーラ・バルス、始祖と称される、ジブラトス帝国建国の祖、没年不詳。』
若干、内容が違うな。質問の仕方で違う回答が出ることもあるのか。
『1400年前、ラビット・ムーン、聖女と称される、メネル教教祖、鑑定による成人登録制度創設、没年不詳。
1000年前、オズ・ワールド、大魔法使いと称される、混乱していたジブラトス帝国を復興、魔法教育制度を創設。
バルス歴1179年、ゲンナイ、大賢者と称される、ジブラトス帝国の技術発展に貢献、1197年爆発事故で死亡。
バルス歴1497年、ジャック・コトー、奇跡の医師と称される、多くの伝染病の撲滅に尽力、1509年老衰のため死亡。』
何なんだこいつら。明らかに偽名だろー。名前と職業が一致しすぎだ。
ちょっと待て、医師でコトーだと。あれは俺が生まれる少し前にドラマ化されたものじゃないか。
今がバルス歴1705年で、彼がこの世界へ来たのが1497年。
200年ちょっと前か。
日本だと江戸時代か。欧米でもまだ伝染病の原因をつかめてなかったはずだぞ。
もしかすると異世界からと言っても僕の居た世界じゃないのか。
あ~あ、わからない。
今考えても仕方ないから、後でシャルルンに聞こう。
急に周りが騒がしくなってきた。
視点を出すとみんながテントに集まっている。
僕の持ち物を持って話しているようだ。
お~。言葉が解るぞ!
あれか。シャルちゃんの知識が整理できたので、会話が理解できるようになったのか。
大体は僕の修繕技術をほめたたえているようだ。
僕は気分良く、みんなの声に耳を傾けていた。
朝食に出かけたみんなは、帰ってくると、ベッドを収納して、木製の箱を出して並べる。
2つの箱の上に皮の鎧を置いて、ペンダントや特大の宝石を掛ける。
みんなが席に着いた後、シャルちゃんが僕を履く。
今回は衝撃はなかった。
≪登場準備できたよ。何か依代になるようなもの無い?≫
いきなり姿を現したシャルルンが口早に、せっつく。
【依代って何?】
≪みんなに君の姿が見えるようにするための媒体よ。何か思い入れの強いものとか、君がよく使っていたような物。≫
僕は、並べてある持ち物に目をやる。少し考えて、
【スマホがいいかな。電源入れたら光るから演出にもなるし。】
≪スマホ?≫
【あの黒っぽい、厚みのある板みたいなやつ。】
≪あれ、パパさんが触っていたけど動かなかったみたいよ。何か動かし方あるの?≫
【横面、薄い方ね、その中央にボタンがあるからしばらく押し続けたら、何も模様の無い方の面が光るんだ。光ったらそのまま置いておいて。】
≪わかったわ。それから通訳だけど。≫
【今朝からみんなの言葉がわかるようになった。
シャルちゃんの知識を吸収したからだと思う。
今も君たちの言葉で話しているけど、わかる?】
≪じゃあ問題なさそう。最初に紹介したら、名前程度でいいから答えてね。
あとはこちらから質問するから、わかることだけ答えたらいいから。
私、リサルン、あなたの順に登場するからね。≫
【リサルン?】
≪ママの鑑定よ。それじゃあ行くわね。≫
【ちょっと待って、あのスマホ、電池が残り少ないはずだから、スイッチ入れたら手早くしないと、明かりが消えちゃうよ。】
≪了解。早めに進めて行くわね。≫
シャルルンの登場は、想像していたようなものだったが、みんなの反応にびっくりした。
始祖って、何処でも出てくるな。
正妃って何だろう。皇后でも王妃でもないんだ。
ふと疑問が浮かんだら、すぐに回答が来た。
『始祖の生涯の伴侶。皇后8人、皇妃61人とは別格の待遇で全権力を与えられていた。宮を出ることは無く。子は生していない。』
へえっ、と思ったが、すぐにシャルルンが種明かしだ。始祖の鑑定だったんだ。
今のシャルルンみたいにして、みんなの前に現れたのか。
リサルンの登場は派手だった。虹色の光が躍る。
どっちの演出かな。リサルンの演出だったら性格怖いな。
リサルンは登場と同時に議事の進行を止める。
リサルン、やっぱし怖い人?
と思わせての、落とし方。
漫才かよ。‟リサたん“ってなんだよ。
結構楽しんでいたのだが、スマホの電池切れが心配になったので、手を伸ばして画面の明るさを変化させる。
おっ、気づいてくれたな。でも、どうすればいいんだ?
まあ、シャルルンが何とかするだろう。
と思っていたら、いきなり身体が分解し、スマホの上に再構築されていった。