1-17 家族会議-1
シャルの視点です。
シャルルンから準備に少し時間がかかりそうだという念話があったので、先に朝食を済ますことにした。
もっとも、奇麗になった彼の持ち物をみんなが堪能するのに時間がかかり(特にヨナ姉)、食事を始めた時には日は結構高くなっていた。
この間に、昨夜のことをバグ兄、ヨナ姉に説明し、シャルルンの提案でみんなに説明する機会を設けたことを言うと、顔をゆがめて「さすが、シャルの鑑定だ」と言われた。
褒められた気がしないのはなぜだろう。
食事の後、大きなテントの寝台を収納し、空いた場所に8個の椅子(箱です)を円形に並べた。シャルルンからの指示だ。
一番奥にパパが座り、パパの左にママ、右にバグ兄、ヨナ姉、私と座る。
私とママは向い合せだ。
ママと私の間には、空の椅子が3個。私とママの横の椅子にはそれぞれの革製胴衣を置き、それぞれの装身具を掛けている。
私はお気に入りのペンダントを掛けた。
ママは・・・・『何、その大きな宝珠は!』
「久しぶりに見たな。えらく気合が入っているじゃないか。」とパパ。
「私の鑑定を現出させる依代だというからな。これなら文句ないだろう。」
「あれは・・・あれは!」ヨナ姉は真っ青な顔で、バグ兄の袖を握りしめている。
バグ兄はきょとんとした顔で、そんなヨナ姉を見ている。
そこにシャルルンから新たな指示が来て、私は彼の、いや涼くんの靴を履いた。
昨夜の奔流の再来に備えて緊張していたのだが、今回は何の衝撃もなく履くことができた。
2呼吸ほどおいて、次の指示が来た。
涼君の荷物にあった、厚みのある金属製?の板を、最後の椅子の上に置く。
置いた状態で、横についているボタンをしばらく押すように言われたので、押していると、板が突然光り出した。
私は自分の席に戻って、座った。
何が始まるの?
芝居が開幕する前の、期待に満ちた沈黙。ドキドキする。
私の隣の席に光が溢れる。
胴衣の上に、私によく似た顔が現れた。
「「「「「おぉ!」」」」」 みんながどよめく。
現れたのは頭部だけだ。胴衣から首を出しているように見える。
私よりは少し細顔だ。私が大きくなったら、あんな顔になるんだ。
笑顔を湛え、ゆっくりとみんなに視線を合わせながら見まわす。
「初めまして。シャルさんの鑑定のシャルルンです。」
柔らかいがはっきりとした声で挨拶する。
みんなは、ママでさえ、呼吸するのを忘れたように、彼女を見つめる。
「えぇ~、そんなに見つめられると緊張するなァ。挨拶すんだから地で話すね。」
それでもみんなは動かない。
「伝説の始祖正妃、しずか様。」
ママが感極まったように呻く。
「博物館で見たままだな。
絵のように豪華な衣装は纏っていないが、そのお顔は正に正妃しずか様だ。」
パパも感慨を込めてつぶやく。
私は慌てる。『そんな設定聞いてないよー!』
「そうか、パパさん、ママさんは帝国古都の始祖博物館に行ったことがあるんだ。
そんな方と間違えられるのは悪い気はしないけど、私は私よ。シャルルンなの。
でも、私がしずか様に似ているのは当然と言えば当然かな。
だって、しずか様は‟始祖の鑑定”だったんだもんね。知らなかったの?」
ママの顔が引き締まる。鑑定を問い詰めているな。鑑定さんかわいそう。
「わたしの鑑定は知らないそうだ。」
「そうね。これまでのママさんの発言からすると、私よりは‟世界の知識”への侵入階層が低いんでしょうね。」
「そうだな。ほら、また拗ねてしまった。」
「ねえ、ママさん。昨日から“自我のある鑑定”情報が無いって言ってるけど、私から見たら、怯えたり、わめいたり、拗ねたりするのは自我があるからだと思うよ。
私みたいに、ギフトの持ち主の意思と関係なく動くことは出来なくても、推測したり、評価を加えたりできるのは、自我があるからじゃあないの?
“自我のある鑑定”を見つけられなかったのは、程度の差はあれ、すべての鑑定が自我を持っているので、特別な存在として認識されていないからだと思わない?」
ママは目を見開くと「おお、そうか!」と感嘆する。
「ごちゃごちゃいうより、本人に話してもらいましょうね。」
シャルルンはそういって、ママの隣の席に向かって、小さな声で呪文を唱える。
宝珠の周りに七色の光が帯状にあふれ出て、動きながら形を変えてゆく。
光が収まった後には、シャルルンと同じような顔。
目つきの厳しさで、ママの若いころを彷彿とさせる顔が現れた。
「お前、若作りしただろ。」
眉をひそめて、ママが声を掛ける。
「いいえ、これはあなたの理想を反映したものですよ。リサ。」
おっ、結構気が強そうだ。
ママの話しぶりから、気弱そうな性格だと思っていたけど。
まあ、ママと比較してだからね。
「お久しぶりです、リサルン。私」「待って!」
シャルルンが声を掛けはじめたところで、リサルンが右手を高く上げて制止する。
あれは大きな会議で発言を求めるときの挙手か?
手を挙げたまま、ママの顔を見ている。ママが頷くと手を下ろし、
「勝手に名前を付けないでほしい。名前を付けるのならリサから付けて貰いたい。」
とママを見つめながら言う。
「私がシャルの鑑定でシャルルンだから、リサの鑑定でリサルン。いいじゃないの。」
シャルルンが反論するが、リサルン?はママの方を向いて、無視だ。
「そうか。お前が名を望むならつけてあげよう。お前は‟リサたん”だ。」
私にはみんながズッコケる様子が見えたような気がした。
ちょっとげんなりしていたら、シャルルンが私を見つめている。
ああ、そうか!
「シャルルンってかわいくて素敵よ。あなたはシャルルンでいいわ。」
「はははは。何だこいつら。無茶苦茶人間っぽいじゃないか。イテッ。」
バグ兄は笑っていたが、突然腹を抱えてうずくまった。
腹筋が攣ったな。
パパは黙って苦笑いしてるし、ヨナ姉はあきれてものが言えないのポーズだ。
この会議、いつ本題に入るのだろうか。
突然、椅子に置いてあった光る板が、点滅を始めた。
「いけない、電池が少ないから早くしろって言われてたんだ。」
シャルルンが慌てて手を伸ばし、光る板に左手を置く。
「ごめんね、リサたん。こっちを先に済ませてしまうね。」
おお、シャルルン、適応力 高。さらっと呼び名を変えてる。
「それでは、登場してもらいましょう。
異世界からの落ち人。今は精霊となった“リョウ”くんです。」
シャルルン、ちょっと演出過剰じゃない。