1-16 シャルとシャルルン
シャルの視点です。
目を覚ましたら、ベッドの横向きに寝ていた。靴も履いたままだ。
慌てて起き上がり、靴を脱いで、元あったところに置く。
靴を置いたら、中腰でその傍らにかがみ込み、「お休み」と言って、またベッドにもぐりこむ。まだ夜明けには間がありそうだ。
横になって、寝る前の出来事を吟味する。
靴を履いた時、軽い脱力感と同時に、体内にすさまじい力がなだれ込んできた。
最初は抵抗していたのだが、
『無理しちゃダメ。受け入れなさい。』
とやさしくささやかれて、抵抗をやめたら気を失ったようだ。
思い出すのは、寂しそうな“彼”の姿だ。
『抱きしめてあげたい。』と思った。
いや、『肉体的にじゃなくて、精神的によ。』と言い訳するが、恥ずかしい。
≪ヘェ~、そんなこと考えてるんだ。≫
いきなり、耳元でささやかれた。
シャルルンちゃんだ!
昨日より言葉が明瞭だし、明るい感じがする。
「おはよう。いきなりどうしたの。・・・封印、解けたの?」
≪うん、解けたというか、ぶっ壊しちゃった。≫
「また物騒な。・・・アッ、ごめんなさい。8年間も閉じ込めちゃって。
怒ってる?」
≪ハハハハハ。いいのよ。
封じると言っても、ベーネンドさんからは、理由を話してもらってたし。
私も納得の上だから。
あの時の状況で、もう一回私が暴れたら、シャルちゃんたちが大変なことになるって思ったの。
私も暴れるのを我慢するなんてできないという、自信があったから。≫
「何それ。」思わず、笑いそうになった
≪それにね。封印と言っても、私の力が外に出るのを妨害するだけだから。
世界の知識とはやり取りできたし、シャルちゃんの経験はみんな見てたしね。>>
「ありがとう!そう言ってもらったら気持ちが軽くなったわ。」
≪むしろシャルちゃんの方が困ったんじゃない?
魔力は持っているのに魔法が使えないって、じれったかったでしょ。
もう大丈夫よ、魔法は私が使えるし、教えてあげる。
あなたの力なら、すぐヨナ姉以上になれるわ。≫
ヨナ姉は、2年ほど前から私たちの仲間に加わっていた。
その間、一生懸命私が魔法を発動できるように、教えてくれていたのだ。
パパやママは早くからあきらめていたみたいだったのに。ん!
「もしかして、パパやママは私が魔法を使えないことを知っていたのに、ヨナ姉には話してなかったの!」
≪そりゃあそうでしょ。いくら仲間になったとはいえ、私のことを言うわけにはいかないでしょ。≫
そこまで言ってから、少し真面目な感じをまとわせると、爆弾を投げる。
≪彼と話したわよ。≫
「えぇ~! いつ。いつ。」
大興奮の私はそれしか言葉が出てこない。
≪昨日、彼の靴を履いてもらったでしょ。
あれで、彼、涼って言う名前よ、涼くんと接触できたの。
まさか“吸収”なんて能力を持っているとは思わなかったわ。
ごめんね。気を失わせるような力があるとは、全然考えてなかった。≫
「へえ、彼って‟りょう”って言うんだ。」
名前がわかったことで、大はしゃぎしていたが、
「今、”吸収”って言った?
私の能力か何か奪われたの?」
≪あなたの心です。≫
「エッ!」
≪冗談、冗談。‟吸収”って言うのは始祖様だけに確認されている能力よ。
‟簒奪”なんかと違って、吸収されても元の人には何の影響もないそうよ。
始祖は“コピペ”って呼んでいたらしいわ。
複写して貼り付けるという意味らしいけど、周りの人がわかり辛いので“吸収”になったという記録があるわ。
その時、
「なんじゃこりゃあ!」
パパの大声が響き渡った。
夜明けが近い。
テントの中はまだ薄暗いが、夜目の利くパパには充分明るいのだろう。
ベッドの上に上体を起こしたパパは、並べられた彼の持ち物を凝視している。
朝が苦手なママも、迷惑そうな顔でパパを見て、視線を持ち物に移した。
途端に目に力が宿り、持ち物をゆっくりと確認した後、私を見つめて、問う。
「何があった。」声に凄みがある。
≪先にママさんとだけ話したかったんだけど。無理そうね。
とりあえず、一通り話したらバグ兄とヨナ姉にも集まってもらって。
・・・みんなにいっぺんに話す方法は・・・面倒ね。
シャルちゃん。私ちょっと準備があるから消えるね。≫
『え~。ここで見捨てるの。』
私の嘆きに応えず、シャルルンは姿を消した。
「え~と。昨日みんなが寝てから、探知に何か引っかかったので、目を覚ましたら、彼が居て、手のようなもので撫でたら、持ち物が修理されていって、話しかけたら、左の靴に消えていったの」
しどろもどろで要領も得ないしゃべりだが、パパもママも身じろぎ一つせず聞いている。
視線が痛い。
「・・・右靴がきれいになったので、両方を揃えたら履きたくなって、履いたら気絶したみたいで、起きたらシャルルンが横にいた。」
「!!!」「!!!!!」
パパとママは顔を見合わせると、今まで以上の迫力で私を見つめる。
「ママ。シャルルンは怒ってなんかいない。
私を・・・、私が魔法を使えないのを気遣ってくれる。やさしくっていい子よ!」
あれ? 視界がぼやける。
私泣いてるんだ。
パパもママも視線を外し、気まずそうに彷徨わせている。
そうだ。シャルルンからの伝言を伝えなくちゃ。
「シャルルンがね。みんなに集まってほしいって。」
心の中から、私を促す声がする。
「彼も一緒だって。エッ、リサルンも?」
リサルンって誰?
昨日から急な仕事が入り、毎日の更新が難しくなりました。できるだけ早く進めてゆきますが、更新できない日があるかもしれません。