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1-13 誘い出し

 大きな方のテントは中央に小さな突起を持つ四角形で、中は左側に2台、右側に1台の寝台がある。その間の空間はバグ兄の寝場所だったのだが、ヨナ姉と結婚してからは空いていた。

 今そこには厚手の布が敷かれ、彼の荷物と衣服・・・だったものが並べられている。


「結構ひどいな。」とバグ兄。

「一応修復はしてみたのですけど、欠落部分が多すぎて・・・。」と、ヨナ姉。

 さっきテントから出てきた後、元気がなさそうだったのは、このためらしい。


 ヨナ姉の使う修復魔法は、魔素を使って元の形に近づけるものなので、欠落部分が多いと修復できない。

 ギフトにも‟修復”能力というのがあるが、こちらは時間を戻すことで修復するので、大きな欠損でも修復できる。

 破損した後の時間より戻せる時間が短いと治せないけどね。


 並べられた衣服、リュック、手袋など布や皮でできているものはかなり食いちぎられている。

 だが、ジャンガに食われたにしては食べ残しが多いというべきだろうか。

 なにせ『骨まで食い尽くす』と言われているのだ。


「見たことのない素材だな。異世界の物だから口に合わなかったのかな?」

「そうですね。修復場所もはっきりわかるでしょう。

 魔法では再現できなかったんです。」

 ヨナ姉はバグ兄の呟きに口惜しそうに答える。


 金属製と思われるの物にも噛み跡やそこから広がるひび割れが目立つ。

 なかでも目に付くのが、手の平より少し大きな長方形の薄い、光沢のある素材の板だ。手に取ってみるとかなり重いが、鉄よりは軽そうだ。

「そいつが、俺の収納量を減らした元凶だ。それ一つで馬車4、5台分の容量がある。

 普通の収納でも人3人分ぐらいはあるぞ。」

「なんなんだろう? これ。」

「わからんな。いろいろ小さなでっぱりがあるから押してみたが、何の反応もない。」

「ジャンガに齧られてこの程度か、と驚くべきか。

 この固いのに傷をつけたジャンガをほめるべきか。」

 バグ兄は親指と人差し指で薄い方の両面をつまんで、力を込めている。

「潰すなよ。」

「彼と話せるようになったら判るんだから。機嫌を損ねるようなことはするな。」

 パパとママに言われて慌てて手を離すバグ兄。


 とりとめのない会話を続け、

「これが右足か。ひどいもんだな。」

 パパが手にしたのは、右足の靴だ。

「さっきの左足と並べてみて。」

 ママの指示で、持っていた左足の靴を右足のそれに並べて置く。

 並べると右足の方の悲惨さが目立つ。そこいら中嚙みきられ、穴だらけだ。靴底も凸凹になっている。

 その横には小さな布にまとめて置かれた屑。

「これは?」

「右足の靴関係の物と考えたら、収納から出てきた。嚙み千切られた残骸だろう。」

「結構あるね。」

「そうだな。薄い布地ならともかく、嚙み千切ったが、食えなかったのだろうな。」

 パパはまとめた屑と右の靴を左手に持ち、左の靴を右手に持って、重さを比べている。

「あまり違わないな。しかし、ここまでにされたら修復は無理か。」

 と言いながら、ヨナ姉を見る。ヨナ姉は寂しそうに笑いながら首を横に振る。


「よ~し。ここまでにしておこう。

 バグとヨナはもう少し見ていてもいいが、私たちはベッドに寝ながら見ていよう。

 明かりも消すぞ。」

 と、ママ。

「ちょっと待て、結界はどうする。

 リサの結界では強すぎて彼が外にいたら入ってこれないぞ。

 シャルの結界なら、大丈夫か?」

 パパがママに確認する。

「そうだな。今この草原には大型獣どころか小型獣の気配も少ない。

 あっても巣穴の中に閉じこもっている。

 今晩は虫除け程度の強さでいいだろう。

 私が結界の強さを調整するから、シャルはいい。

 シャルには彼を見つけて、話し合いのきっかけでもつかんで欲しいからな。

 少なくとも彼がここにいるのかどうか確認してほしい。」

 ママが並べられた品々を指しながら、私を見つめる。

「了解。」

 私はそういいながら、寝る準備を始めた。


 私は横になって目を閉じ、胸の高まりを沈めながら、範囲探知をテントの周りだけに薄く張る。

 パパはすぐに熟睡した。任せたら無駄なことはしない。豪胆なパパらしい。

 意外にも、ママもすぐに眠った。

 最初テント中に気があふれ出ていたので注意したら、気を収めようとしているうちに眠ってしまった。

 そういえば、今日は霊体離脱してたんだっけ。疲れるはずだ。

 私も興奮を押さえながら、今日ママに言われたことを考えたり、私の鑑定 -シャルルンって言ったっけ- に『聞こえてたら、ごめんね。覚醒したら教えてね。』などと語りかけているうちに眠ってしまった。


 探知が反応した。何かいる。

 目が覚めるが、身体は動かさない。力を抜いてゆったりと。

 目を開け、隣を見る。

「いた!」

 左の靴のあたりに薄明るく、やさしく光る何かが居る。

 緊張しないよう心を静めながら、眼の動きだけで、眺める。

 明かりの濃淡で子供ぐらいの大きさの人型が判別できる。

 手と思わしきものが、ゆっくりと右の靴を撫でまわしているようにみえる。

「はっ!」思わず息を飲み込んだ。

 その光が撫でている右の靴にあの‟屑”が流れ込んできていて、少しづつ靴の形が直されている。穴の開いた布地がほぐれ、やがて絡み合って修復されてゆく。

 靴底の欠けた所に屑が集まり、靴底がきれいに整えられてゆく。

 やがて、手のようなものが広がり、幾多の手となってそのほかの物も直されてゆく。


 その幻想的な風景をかたずをのんで見守っていたが、やがて手がス~と集まり、元の人型に戻ると、肩をすぼめて小さくため息をついたような気がした。

「あの~」小さく声を掛ける。

 ピクリ。光が私を見た。

 何か言わなくっちゃ。気は焦るが、言葉が出てこない。

 何を話したらいいの?

 彼とどうなりたいんだっけ?

「精霊さん。・・・友達になってくれませんか。」

 やっと絞り出した言葉がこれだ。

 恥ずかしくて顔は真っ赤になったはずだ。

 光は少し揺らめいたあと、静かに左の靴に吸い込まれていった。


「あ~あ、失敗しちゃった。」

 小さくつぶやいて泣きそうになるが、ママから言われた最小限の仕事、精霊の住み家を見つけたことに気づいた。

 気を取り直して起き上がり、ベッドに腰かけて、左の靴をそっと持ち上げる。

「ねぇ、何とか言いなさいよ。乙女に恥をかかせたらだめでしょ。」

 靴に向かってつぶやきながら、右の靴にも手を伸ばし持ち上げる。

 揃えて見ると、実に美しい。思わず履きたくなったが、理性がそれを止める。

 と、

『履いちゃいなさいよ。』と小さな声が心の中で響く。

『シャルルンちゃんだ!』そう思った。

 親に内緒で友達とするいたずら。共謀する喜びがこみあげてきて、私は靴を履いた。


3日ほどお休みします。

アドバイスいただきました。見にくいとのことなので、文体に修正をかけますが、内容は変えませんので、引き続きお楽しみください。

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