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1-12  作戦挫折

シャルの視点です。

「母さん。自我を持つ鑑定って、すごいものなの?」

 聞きたいことは山ほどある。だけどどう聞いたらいいのかわからない。

 混乱して黙りこくった2人だったが、バグ兄が先に立ち直った。


「ウン、私の鑑定は知らなかったな。

 それで、3つほど異世界の鑑定に聞いてみたのだが、そんな存在は知らないようだ。」


「異、異世界!!! そ!、その方がもっとすごいじゃない!!!

 私の鑑定なんかより、そっちの方が問題でしょ!!!」

 びっくりして思わず突っ込んだ。

 ママがすごいのは知ってたが、まさかそれほどとは!

 さらっと言わないでほしい。


「ややこしくなるから、私の話はあとだ。

 とにかく、シャルの中にはまだ誰も知らない力を持った“意思”があって、目覚めようとしている。

 シャルに与えられたギフトだから、シャルに悪いことをするとは思えないが、凄い力を持っていると思うので、人間相手にちゃんと加減できるかどうかが不安だ。

 何せ、生まれたばかりで私の鑑定を威圧したのだからな。

 今も接触するのを嫌がっているぞ。」


「で、どうするの?」

 バグ兄は衝撃から抜け出して歩きだしたようだ。

 私も考えなくちゃ。


「シャルと鑑定が接触するとき、その様子を知りたい。

 できれば、そこに介入してシャルが鑑定と有効な関係を築くのを助けたい。

 今回トリュンに帰ってきたのは、その役割をベーネンドにしてもらおうと思ったからだが、マイペースなやつだから勝手に進めてしまいそうで、怖いものがある。

 そこに、この“落ち人”だ。

 彼は肉体を失ったことで精霊化している可能性がある。

 人と精霊の交流はおとぎ話として伝えられているが、知ってるな。」

「古代の大王ガルバギスを助けたチャッチとかエリソン姉妹の見えない友達とかでしょ。

 あれは作り話じゃないの?」

 私も大好きな話だけど、そんなにうまくいくのかな?


「話そのものは作られたものだろうが、世界の知識には古代の伝承として人と精霊の交流した記録がいくつかある。

 なら、なぜ現代にそれが無いのか。

 さっき、精霊界の鑑定に聞いたが、昔は精霊界に割れ目があり、たくさんの精霊が落ちていたことがあるそうだ。

 今は割れ目がふさがっているので、落ちることはない。

 “彼”のいた世界には今、割れ目があり、何人もの人が落ちている

 ここはその世界に近いので、この世界に落ちてきた人も多いのだろう。

 世界の知識が落ち人と判断しているのは7人。

 彼のように落ちてすぐ命をなくしたものもいるはずだが、そこまでは把握できていない。

 落ち人が精霊化した記録はない。だが、今回のことで判かった。鑑定が認識できないものは記録されない。


 彼のいた世界はこの世界に似ているようだ。

 彼のいた世界にも精霊が落ちて来ていた。

 そこでは、精霊は空中を漂ったり、物に憑いていたりする。

 なかには人と話をしたり、人を助けたりすることもあったようだ。


 もちろん、彼がどのような性格なのか、シャルを託せるのかはわからない。

 いずれにせよ、彼を呼び出し、意思疎通を図ることが必要だ。

 シャルの鑑定の封印が解ける前に、まずそれをしておきたい。」

「つ、ついて行けない。」

 バグ兄が喘ぎながら言葉を吐き出し、頭を抱えた。


 私も同じだ。

 だが、

「私が自分の鑑定と話するのに、他人の力を借りるのは嫌!

 ママの話を聞いて思い出したけど、あの時泣いてる私に話しかけてきた子がいた。

 乱暴だけど私には優しい、そんな感じがした。

 ママが来たら居なくなったようだけど、ずっと励まし続けてくれたような気がする。

 もし、封印されたことで怒っているなら謝るわ。

 これからずっと一緒に居るんだから、最初から警戒したくないの!」


 ア~ァ、言いきっちゃった。

 ママの心配も判るけど、私は鑑定にしたこと、封印して閉じ込めたことに対する怒りを抑えきれなかった。

 そんなの、私を閉じ込めた人と変わらないじゃない!


 しばらく、沈黙が続いた。私はママを睨みつけたまま。

 ママは途方に暮れた顔で私を見つめている。

 バグ兄は・・視界の端でもぞもぞしている。


「そ、そうか。

 ・・・そうだな、シャルはもう泣いているだけの子じゃないんだ。

 ・・・すまん。私のお節介だった。

 ・・・あの時、私の鑑定ばかりじゃなく、私も怖かったんだ。

 その気持ちをずっと引きずって来たんだな。

 そうだ、シャルは成人の儀を受けるんだ。

 私が言うのもなんだが、いい子に育った。

 大きくなったな。」


「それ、さっきパパにも言われたよ。」

 やっと、笑みがこぼせた。

 怒ってはいるけど、ママを嫌いになんかなれない。


「鑑定が目覚めたら、向き合ってみるね。

 もし耐えられなかったら・・・助けてね。」


 ママが目をすぼめ、口をへの字に曲げる。

 泣くのかな? いや、泣かない。

 そうか、これまでママはみんなを助けてきた。

 パパや私たち兄妹だけでなく、周りのいろんな人を助けてまわっていた。

 ヨナ姉もその一人だ。

 ママには‟力”がある。誰かが困っていたら自分が助けるのが当然だと思っているんだ。

 頼られることはあっても頼ったことなんてなかったんだ。

 パパには癒されてたし、知り合いに助言や助力を求めることはあったけど、決定は常に一人でしていた。

 “王者の孤独”。王様みたいに偉くはないけど、ママにはふさわしい。


「でもね。」

 私は無理やり話題を変える。

「彼を呼び出すのは賛成。

 ちょっとしか見てないけど、かわいい顔してたし、不安そうな顔は母性本能くすぐるし。

 弟ができるみたいでワクワクする。」

「どこに母性があるって?」

 バグ兄!突っ込みどころ間違ってる。


「うっとうしいだけの兄貴は間に合ってるの!

 かわいいかわいい弟が欲しい!」

 大声で叫んだら、

「エッ、リサ。妊娠したのか!」

 テントから出てきたパパが、びっくりした声で、叫ぶ。

「違うよ、シャルが“彼”を弟分にして、こき使いたいそうだよ。」

 バグ兄、ナイスフォロー。


 ママの真剣な話をうやむやにしつつ、パパとママの夕食を終え、みんなでテントを見に行った。

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