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1-11  トリュン砦の崩壊

シャルの視点です。

 テントから出てきたママは元気そうだった。

 パパと二人でゆっくりと歩いて来ると、

「ヨナ。洗浄を頼みたいのだが、魔力は大丈夫か?」

 と声を掛ける。

 ヨナ姉が承諾したら、

「食事が終わったらベネとテントに行ってくれ。

 “彼”の荷物を出すので、できるだけでいいから、奇麗にしてやってくれ。」

「エッ、何をするの?」

 と身を乗り出すと、ママは私が膝に抱えている靴を見て、

「それさっきの靴か!奇麗になるもんだな。これなら効果がありそうだ。」

 と言う。


「今晩、テントの中に出して並べておこうかなと思ってね。

 『肉体か持ち物に付く』と言ったが、この場所の別の何かに入り込んでいるとまずいと思ってな。

 これだけきれいになれば、懐かしがって出てくると思わないか?」


「一番可能性の高いのはその靴だと思うんだけど。」とバグ兄。

「それはそうだが、少なくても可能性があることは確かめておかないとな。

 どうせ今晩はここにいるんだ。見たことのないものも多かったから、鑑賞しながら一晩過ごすのも一興だろう。」


「私たちもご一緒していいですか?」

 ヨナ姉、よだれ、よだれ!

「見るのはいいが、一晩中はやめておこう。

 静かにしていないと現れないかもしれないし。

 だいたい、出てきたところで“見える”のはシャルだけだと思うぞ。」


「へっ!わたし?」

 いきなり名指しされて声が裏返った。

「さっきも“彼”を視たのはシャルだけだし。

 『呪いがかかっているかも』と言っても、忌避感はなかったみたいだしな。

 『好意は魂を引き寄せる』っていうだろ。」

「今も、その靴にご執心だしね。」

 これはバグ兄。そんな目で見てたの?


「そうだな、今のシャルは、かつてヨナの姿をずっと目で追っていたバグみたいな・・・」

「とうさん!!!」「アラ!エヘ。」「そうなのか?」

 怒鳴る兄。照れる姉。気づいていなかったママ。カオスである。

 ・・・でも私はそれどころじゃない

「初恋だってまだなのに…」と呟くと

「「「「ヘェ~~~」」」」とみんなの声がハモった。


 パパとママが食事を済ませた後、パパとヨナ姉はテントに向かった。

 私やバグ兄もついていこうとしたのだが、ママに呼び止められた。


 2人がテントに入ったのを確認すると、ママが真面目な顔をしてバグ兄に問う。

「バグはトリュンのこと、何を覚えている?」

「トリュンの町に着いたのは4才のころかな。

 母さんが大怪我をして、ジョンがやってきて、シャルが生まれて、そのころから父さんと2人で狩りに行くようになったな。

 母さんが元気になったころ、俺は9才だったかな。

 トリュンの砦が崩壊して、町がめちゃくちゃになったので、みんなで旅を始めたんだっけ。」


「トリュンの砦が崩壊したことはどう聞いている。」

「あの時はみんなで -シャルはまだ小さかったから残ってたけど- ジョンと父さん、母さんと俺で、町の北に出来た魔素の噴出口の調査に行ってたじゃない。

 帰ってきたら大騒ぎで、シャルは泣くだけで何が起こったかわからないし。

 そうだ!そのうち、『こんなことができるのはウォルター一家しかいない』なんてうわさが広まったんで、嫌気がさして旅に出たんだ。」

 ウォルターは私たち家族の苗字だ。


「今のを聞いてお前はどう思う。」

 いきなり私に振られて、びっくりしたが、

「どうって言われても。何か嫌なことがあって、一人ぼっちでワンワン泣いていたら、ママが来て抱きしめてくれた。そのぐらいしか覚えていないよ。」

「そうか、ベーネンドはいい仕事をしてくれたんだな。」とママは呟く。

「ベーネンドさんって、教会の神父さんでしょ。やさしい人だったけど、何かしたの?あの人まだいるのかな。」

 バグ兄は懐かしむような顔で、ママに問いかけた。


 しばらくママは何も言わなかった。

 じっと考え事をしているように、時折唇をかみしめるような顔をしながら、それでも私やバグ兄から目を逸らさずに。

 そして決心がついたかのように、居住まいを正すと、話し出した。

「砦が崩壊したとき、シャルは砦の司令官だった男に攫われて、砦の地下に閉じ込められていたんだ。」

 !!!いきなり何!!!衝撃的すぎるでしょ!


「その少し前、私たちが調査に出かけた後、シャルは“鑑定”に目覚めた。

 そして“鑑定”とおしゃべりをしたそうだ。

 それをお手伝いのおばさんに話した。

 4才の子が鑑定のギフトを得た、それも意思疎通ができるような“鑑定”を。

 これは驚異的なことなんだ。

 おばさんはそれを知り合いだった砦の司令官に話した。

 司令官はおそらく金儲けを考えたはずだ。

 『素性の判らない冒険者の娘、突然消えてもしばらくすれば忘れられる。

 4才なら教育すれば貴族の娘として通用する、それを貴族に売りつける。

 高度な鑑定を持つ者は、王族すらそれを求める。』

 そう考えて、おばさんと共謀してシャルを攫い、砦の地下に閉じ込めた。」

「あのおばさんが!気の良い人だったのに。」バグ兄が悔しがる。


「さて、ここからが本題だ。」

「「本題?」」私とバグ兄は、顔を見合わせる。

「普通、鑑定は人が主導権を取り、その質問に答えるだけだ。

 だが“シャルの鑑定”は泣くだけだった4才のお前の考えとは関係なく、怒り狂った。

 そいつは、強大な魔力を駆使して砦を砕き、人や物を押しつぶした。

 そしてお前を飛翔魔法で家まで飛ばした。

 それも隠蔽を使って周りに知られないようにしながらだ。

 砦はゆっくりと破壊されていった。

 シャルが家について隠蔽を解いた時、おばさんは道に出て砦が崩れるのを見ていたようだ。

 いきなり現れたシャルを見て、ヒステリックにわめき散らしたらしい。

 だが、すぐに近くの壁まで宙を舞い、叩きつけられて潰された。

 周りの人は何が起こったかは分からなかったが、砦を砕いた“何かの力”がここまで来たのだと思い、家に逃げ込んだ。


 “シャルの鑑定”が砦を壊し始めたあたりで“世界の知識”が気づき、私の鑑定に連絡が来た。

 当然こんなことは初めてだ。私は急いでジョンに跨り、家に戻った。」


「それであの時、俺と父さんは歩いて帰ることになったのか。」

 バグ兄、そんな情報要らない!


「家の玄関先で泣いているシャルを見つけて保護し、何があったか鑑定に調べるよう指示した。だが、シャルの鑑定と接触した私の鑑定は、そいつの激情に恐れをなして逃げ帰ってきた。

 もっとも、接触することで、それまでの経緯や状況は把握できたがね。


 ベネもいないし。途方に暮れた私は教会に出向き、ベーネンド神父と会った。

 ベーネンドは面白い男で“解析”という珍しいギフトを持っているんだが、本人は魔術が大好きで、というか魔素の使い方を研究するのが好きで、のんびり研究したいからという理由で地方の平神父をしているやつだ。


 ともかく幼いシャルに、人を殺す能力が有り、人を殺すことを躊躇しない“意思”が住んでいる。

 怖くて放っておけなかったので、放出系の魔法だけでも止められないか相談したかったんだ。

 だが、会うなり砦の崩壊がシャルに関係すると推測してな。


 解析能力を使ってシャルの鑑定と直接会話を始めたんだ。

 30分ほど話し合っていたと思うが、その間、私もシャルも置いてきぼりだ。

 まあ、シャルは攫われたのがよっぽど怖かったのか、私の胸にしがみついてずっとしゃくりあげていたけどな。


 話し合いが終わって、いきなりだ。

『シャルの鑑定は自我を持ってますね。単なる能力ではなく個性のあるものとして扱いましょう。とりあえずシャルルンと呼びますよ。』

 と言ったかと思うと、魔方陣を練り始めてな。

『シャルルンはシャルさんの悲しみに巻き込まれただけですよ。

 決して邪悪な存在ではありません。ただ、幼い子が持つ正義感には危ういものがありますので、シャルルンが魔素を使えないよう、身体に魔方陣を書き込みます。

 アッ、大丈夫ですよ、体内に魔法で書き込みますから、身体の表面からは判別つきません。

 ただ、この方法には欠点があります。

 シャルさんが魔法を使えなくなることとシャルルンが自分の意思を示すことができなくなることです。

 ですので、この封印、あえて封印と呼びますが、その封印が解けた時、シャルルンがどのような人格になるかは、賭けみたいなものになります。

 ある程度育っている人格が長期間孤独な環境に置かれるのですからね。ゆがんだ性格になってもおかしくないのですよ。

 この封印は10年と持たないでしょう。何かシャルさんに危機が迫ればすぐにでも解けるでしょうし、成人の儀で他の鑑定が問いかけをおこなえば確実に解けますね。』


 というわけで、シャルには“自我を持つ鑑定”が封印されているんだ。」


 ママ、最後のその言い方。軽すぎない?


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