1-1 僕は二度死ぬ・・・の?
初投稿です。本日は3話投稿します。
「天気、読みそこなったか~。」
急に暗くなった空を見上げて嘆くが、難所はあと一つだ。そこを抜ければ身を隠す岩棚もあるので、一雨ぐらいならしのげるだろう。
涼は高校1年生、信州の山育ちで、地元の高校の山岳部に所属している。
来週からテスト期間なので部活動は休止。今日は試験前の土曜日。本当なら家で勉強するところだが、高1・5月の中間試験なんて、高校受験の範囲内で十分!と言える程度に成績は良い。
部活がまだ基礎体力作り中心で物足りなかったので、いつもの裏山に登ることにして、小さな方のリュックを肩に家を出た。
裏山と言っても2000mを若干下回るほどはあり、山頂付近の尾根筋は大岩の露出する、初心者には厳しい山だ。
小学校の時先生に連れられてきてから、中学時代は友達とよく日帰りしていた。今日も誘いに行ったが、用事があるとかなので、一人でのんびりやって来た。
山頂で持ってきたパンを飲み込んで、帰り始めたら空模様が怪しくなってきた。趣味でやっている気象予報では、気圧は安定して雷雨や突風の気配はなかったのだが。
尾根筋の岩場を下っている途中で、急に風が強くなった。
雨の降る気配は無いが、眼下の森に風波が見える。
その風に乗るように、黒く渦巻く雲が谷あいから湧きだしている。
『変な雲だな』と思った。まるで昔の怪獣映画で、大怪獣登場シーンで見たようなおどろおどろしい雰囲気がある。
大岩の横の細道でそいつに追いつかれた。
突風を受けて身体が谷側に持っていかれる。
踏ん張ったが耐え切れず、100mほどの急斜面を滑落だ。
途中で足が引っかかって空中に投げ出された。
右肩から首筋にとんでもない痛みがあって
・・・意識を失った。
爽やかだけど少し焦げ臭い。そんな風を感じる。
気が付くとうつ伏せに寝ていて、顔に当たる土が冷たい。
ゆっくりと体を起こして周りをうかがう。
「なにこれ? ここはどこ?」
広場の真ん中にいる。
広場の周りは2mほどの高さの密生した草の壁
・・・なのだが、僕のいる場所を中心に50mほどの円形の空き地がある。
中心付近はむき出しの地面、10mほど先からは白い灰、もう少し先は黒い灰から黒く焼け焦げた草、が同心円状に広がっていて、風に流された白い灰、黒い灰がすじ状の模様を描いている。
揺れる草の隙間から、遠くに山なみが見えるが、近くには山もなければ崖もない。
さっきぶつけたはずの肩や首の痛みが無いし、崖を滑り落ちたときについたはずの擦り傷や衣服の破れもない。
夢だったのかと思ってみるが、山に登った記憶というか、滑落するときの恐怖や痛みはとても鮮明だし・・・と考えながら見まわすと、違和感が湧き出してくる。
周囲の草は見たことが無い種類だ。
地面の土も赤褐色で、まるでアフリカ。
なにより、草から顔をのぞかせた鱗に覆われた小さなネズミ?いやトカゲか?
あんなもん図鑑でもビデオでも見たこと無いぞ!
“異世界転生”という言葉が浮かんできた。
ライトノベルでは当たり前だし、友達とあんな世界ならどんなことをする、なんて真面目に言い合ったことだってある。
まあ、元の体のままだから”転生”じゃなくて”転移”かな。でも神様は現れなかったなぁ。
・・・などと馬鹿なことを考えながらしばらく呆然と突っ立っていた。
ガサリ、、、音に驚いて、音のした方向を見る。
草をとおして大きな黒い影があった。
草の間からゆっくりと顔をのぞかせたもの。
怪獣だ!!!!
体が硬直して声も出ない。
顔は最初、ティラノザウルスに見えた。
爬虫類っぽい皮膚に大きな口、少し開いた口からは鋭い牙をのぞかせている。
だが頭の後半分には襟のような分厚い張り出しと太く長い角がついている。
ティラノザウルスとトリケラトプスのハーフかな?角は2本だけど。
・・・まあ、ティラノでいいか。
全身を草むらからのぞかせ、僕をにらみつける。
僕は最初4足歩行だと思っていた。
全体の形状はティラノザウルスに近い。だがティラノザウルスと違って前足は後ろ足ほどに太く長く、歩き方も前足をついていた。
恐竜のような質感の肌、長く伸びた尾はしなやかに揺れながらも水平に伸びている。
体高は2m弱、体長は尾を除いて3m強、尾は2m程か。
ゆっくりと周りながら草むらから半分ほどにまで近づくと止まり、前足を上げる。
前足を上げると、たたまれていた腕を伸ばす。長い!
『確か鳥型恐竜に似たようなのがいたな』と思う。
あかんやつやんけ~!
最強の肉食獣! 狩りの天才! なんかそんな感じのフレーズが浮かんだ。
すぐにとびかかってこない。こちらをかなり警戒しているようだ。
逃げ道はない。あってもそぶりを見せたら一瞬で追いつかれる。
武器は牙か、前足の先に出現した鋭い爪か。どっちが来ても瞬殺だな。
なんて考えていたら、パニクッていた気持ちがだんだん落ち着いてきた。
こちらに武器はない。・・・・か?
山歩きの時必ず持っているもの。右の腰には熊除けスプレー、左の腰には蜂除けスプレー、いずれも引き金タイプの強力なやつである。
『効くかな~?』。
相手は哺乳類でも昆虫でもない。
いや、異世界の生物にこんなのが効くのか!
自問自答というか、一人”乗り突っ込み”をしているうちに、ティラノは手の届きそうな距離まで近づいてきた。フン!フン!と僕のにおいをかぐ。
ままよ!!!
右手に持った熊除けスプレーをティラノの顔に向けて突き出すと思いきり引き金を引く。
吹き出す主体はカプサイシン!唐辛子かハバネロかは知らないが、その粉末と催涙系薬剤が赤い煙となってティラノの顔を覆う。
ティラノが目をつむり、苦悶の表情を浮かべる。
「ヤッタか!」と思った瞬間、横殴りにたたきつけられた長い爪で切り裂かれ、僕はいくつかの塊に分かれて切り飛ばされていた。