くたびれた中年探偵
長雨の続く梅雨のある時、
イリスタニアという中世ヨーロッパのような小国の首都にして港町のレッド・ラグーン、その路地裏の片隅で、古ぼけたレンガのアパートから、無精ひげを生やしたくたびれた薄緑色のトレンチコートを着た中年男性が、疲れた表情で2階からどんよりとした雨雲を見上げていた。
小さな入口の木扉には、「レオナール探偵事務所」という、小さな木片に黒いペンキでこれまた小さく
書かれた看板がかかっている。
「すみません、ジョン=レオナールさんですよね。私、数日前に依頼の電話をした、リオン村のチェルシー・ルノといいます。」
まだ、20代前半の村娘という感じだろか、やや古めかしい薄桜色のコートと大きめの帽子を身に着けていた。
イリスタニアは、広大な島国でたいてい、どこも発展しているが、リオン村は、かなりの山奥で知る人ぞ知る秘境で文明から取り残された感のある村である、「詳細は後日会ってから」という事だったが、どういう事なのだろうか?
「実は、私の村で、未解決の難事件があって、その事件の真相を明かしてほしいのです。この首都に友人がおり、人づてに聞いたのですが、この探偵事務所は、他の探偵事務所よりかなり相場が、、良心的な値段と聞いていますので、お願いしようかな、と。」
手には、ジョンが半年前に作成した、近所に蒔いたチラシが握られていた。
ジョンは半年前、大手企業のサラリーマンの若者だった、今と違い精気に満ち溢れ、前途洋々の、しかし
今のような梅雨が続いたある日、とある神経系の難病に倒れ、高熱が続き生死の境を彷徨った挙句、一命を取り留めたものの、全身が痛み時折体を引きずって歩く状態になり、退職し、生きる糧を得るため、自分のペースでできそうな自営業の、小さな小さな探偵事務所を開業したのだった。
痛み止めを飲んでいるとはいえ、今日みたいなジメジメした日は、あまり体調が良くない。
憂鬱した気分を払拭するため、発病以来、控えめにしていた煙草を吸いたくなる気持ちを依頼人を前にしてのこともあり、何とか抑え、依頼内容を聞いた。
「去年の冬、リオン村で、宴会があったんです。そこで、お酒に毒が盛られ、村人10人が亡くなりました。真犯人は未だに不明です。村はこの事件以降、恐怖に怯える疑心暗鬼な村人たちばかりになり、ひどく殺伐としている状態です。レオナールさんには、村で調査をして頂き、この真相を解き明かし村を救ってほしいんです。」
「わかった、事件に興味を持ったので成功報酬でいい、現地に調査にいったら、誰か案内してくれるのか?」
「はい、村の巡査の方が、案内してくれるはずです。その方は私の親戚なんです。話はしてあります。」
3日後に、村を訪問する約束をした後、いったん、村娘チェルシーは探偵事務所を後にした。