セブンス×アナザーワン Ⅲ ‐ 法力と暴力 4‐
続き
式場の参列者は、会場外の莫大な魔力の放出を誰もが感じた。
「何、今の…」
「賊…でも学園に侵入したのでしょうか」
「それはないんじゃない?ここは学問だけでなく、世界一の戦闘能力が集まってもいるのよ?」
「何にしろオモシロそう!!」
エリザ、マール、ベル、の三人は式場となっている巨大スタジアムの入学者用受付が済んだところだったため入口の大扉から魔力の出どころに向けて目が届く範囲にいた。
既に、遠視の魔法を発動していた学園理事長は状況を理解し、魔法を解除。立ち上がり全員に向けて拡声魔法の上で大声で宣言した。
「「諸君!!少々早いが開式の宣言をさせてもらう!学園理事長ルーファスじゃ!」」
「「わしの祝辞は後程、述べさせてもらうが、各、父兄、保護者含めこの学び舎によくぞ集まってくれた!!これから開会式として我が学園のさまざまな活動をご覧に入れよう!!」」
ルーファスが司会者に目配せと手を挙げることで合図を送ると、司会者はさらに別の者に目配せした。
その瞬間。
スタジアムの外周部から突如、光の奔流が空へ、次々と打ち上がる。観客席とグラウンドの境に当たる部分からは色とりどりの紙吹雪や花弁、金銀に光る細長い巻き紙が噴き上がり華々しさを増す。
学園長がいるステージと逆に位置するスタジアムの中央玄関口から行進曲ともに音楽隊が現れた。先ほどの司会者の目配せの視線の先は音楽隊の先頭で指揮する音楽教諭だったようだ。
(さて、開式が終わるまでに会場にたどり着けるか?ハジメ)
ルーファスは心の中で一人呟いた。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
2人駆け出したハジメとホーニーはスタジアムで演出が始まったことに驚いていた。
「な…」
「オイオイ…もう始まっちまったぞ」
「まだ開会まで時間はあったはず…なぜ…」
駆けながら視点を下に向け考えるホーニー。
「いえ!開会式が終わるまでは受付が開いているはず!急ぎますわよ!」
「受付が終わるとマズイのか?」
素朴な疑問をぶつけるハジメだったが、
「不味いも何も…受付が終了してしまうと会場には一旦入れなくなりますのよ。」
「魔法的にも異能的にも、会場は独立した安全圏にはなりますが、入るには裏口に回って教師の誰かに申請しなくてはなりませんの。やはりあなた案内書には目を通してないですわね?」
「…それにしても」
ホーニーは後ろに目線を向ける。
「彼がそれを許してくれると思って?」
飛び上がったディストナーグがこちらに向かって炎弾の雨を打ち込んできていた。
「『厄災-降炎球-』!!!」
咄嗟にチカラを使おうとしたハジメだったが、
「待ちなさい。」
「急ぐと言ったでしょう?私が無効化いたしますわ?」
それを遮り、駆けたままホーニーが全身から黄金の光を伴い、左手で相手の魔法に向けて光を投射した。
「『黄金の輝き -威光-』!」
投射された光は炎弾を一つ残らず包み込み、黄金色の光る粒子へと変えた。
「やるな」
「あの程度の魔法は問題ありませんわ。しかし彼の高位魔術ではこうはいきません。」
空を駆けながらそれを見たディストナーグもうすら笑みを浮かべながら、
「この程度じゃ、なぬハジメくんも対処できそうな感じだったなァ?」
「なら!!!」
「こいつはどうよ!?」
言うが否や、さらに高く舞い上がるディストナーグ。
両手の魔力を握り合わせ天に向かって祈るような体勢で全力でチカラを込め始める。
「おいおい…」
「な!?」
「アレはやばいんじゃないか?」
魔力など感知できずとも肌で感じてわかるほどの莫大な熱量の炎球が出来上がっていく。
ホーニーも目を見張りながら、声を荒げる。
「あんなものを会場の近くで放つ気でして?!スタジアムにどれほどの一般市民がいるとおもってますの?!」
それを聞いてか聞かずか、ディストナーグは言う。
「ハハハ!オジョーサマは気づいてねぇかも知れねぇけど、隣のそいつは俺のカンじゃ、コイツ程度の破壊力じゃ物足りないくらいのチカラは持ってるハズだぜ!」
「さぁ!ハジメくんよォ!コイツを止めて見せてくれよ!入学式にはお前の【異常さ】を感じ取ってるやつは五万といたぜ?だが、学園の強者どもはそれだけじゃねぇ!お前の底知れぬ実力に気づいてる奴もいるぜ!そのお前を使って試す実験だ!お前の力を!見せてみろ!」
散々、膨らみ続けていた炎球は収縮し、それでも民家一つ丸ごと飲み込んでしまえるサイズへと圧縮された。
「(なっ!?あの規模の魔術なのにもう完成したと?!)」
「『大厄災-炎魔封玉-』!!!」
握り込んだ両手を目の前に突き出し、炎球が放たれた。
「(対抗魔術が間に合わない!!!)」
襲いくる焔の塊に対し、ホーニーは魔法を使おうとするが、間に合わないと悟り、目を瞑る。
だが、そんなホーニーをよそに、ハジメは。
既にキレていた。
「「『起動』!!!!!!」」
ハジメの一声により、彼を中心として全身から光の筋のようなものが辺りに眩く。
その光景に驚くディストナーグだったが、再び笑みを浮かべる。
「なんだそりゃあ?!魔力も異能も感じねぇ!!見たことねぇよ!面白ぇ!どう止める!?」
興奮するディストナーグだったが、
「……」
ハジメは目前に迫る炎塊を。
「オレを…使うってどういう意味だ…?」
拳で殴り、消し飛ばした。
「は…?!」
ディストナーグは驚いていたが、ハジメの隣でホーニーも驚いていた。
「どうやって…?!」
「(私の魔法には対抗魔法の効果があり、相手の魔法に対し適切な魔法で返せば打ち消すことができる…)」
「(しかし、この男は魔法どころか異能の力すら使わず…拳で消し飛ばした?!)」
自身の魔法を相殺する破壊力のナニカを期待していたであろうディストナーグに戸惑い、そして怒りが滲む。
「オイオイ…今のはなんだよ?!ありえねぇ!今のは地獄の炎魔を魔力で閉じ込めてぶつける魔術だ!ただの炎塊と違って、間違ってもただの殴りなんかじゃ消し飛ばせねぇ!」
説明を受けてホーニーは心の中でその答え合わせに納得していた。
「(なるほど、ただの炎塊にしては術式難度が高すぎるし、高精度で操られた炎でもないのにアレほどの炎を即座にコントロールできていたのは炎魔の存在故だったわけですわね…)」
「(しかし、彼の言う通りこれを拳で消しとばすとは一体…?)」
2人はハジメに目を向けていたが、ハジメはディストナーグの疑問を無視して言った。
「オレの話なんざどうでもいいんだよ…答えを聞いてねぇぞ?」
「生き物に対して、普通…使うって言葉は言わねぇよなぁ?」
「テメェがオレの何に興味あるかはどうでもいいがよ…!」
「オレに話しかける以上対等な人間として喋ってもらいてェなぁ?火だるま男。」
一言一言話すたびハジメはディストナーグに歩み寄っていく。
「対等ゥ〜!?!?」
その発言に対しディストナーグもキレる。
「オイオイ、あんまり調子に乗るなよ?確かにテメェのチカラは訳わかんねぇ…すげぇのかもな!!だがこのオレと対等だと!?ふざけんじゃねぇ!」
ディストナーグは腕を捲り、両腕に力を集める。
腕はどんどん変色していき真っ赤な禍々しい悪魔の腕のように変現した。
「魔法が通じねぇ、異能も通じねぇのかもしれねぇ、が!拳で殴ったってことは少なくともその一撃は物理的なナニカって訳だ!!じゃあ今度はお前の土俵、殴り合いで勝負してやるよ!!」
変化した右腕で地面を殴ると、ハジメに向かって放射状にヒビが入り、その中から炎が迸る。
「さあ!これで逃げれねぇぜ!」
「来季は俺の時代が来る!テメェを踏み台にして使ってやる!感謝しろよ東堂ハジメェ!!!!」
だが。
「オイ、“もういっぺん”言ってみな…?????!!!!!!」
ホーニーはその形相の変化をとらえ、腰を抜かしてしまった。
恐ろしい形相でもう一度言ってみろと人差し指と中指だけを立て、指をクイクイ動かし挑発するハジメ。
「さっきから何にキレてやがんだ?!死に晒せ!踏み台野郎!」
「『炎魔神の両椀』!」
ディストナーグが吠える。
それに対し、もはや数メートルもない距離まで縮まっていたハジメは、そんなもの些細なことだと言わんばかりに地面に広がるヒビごと、マグマのように煮えたぎる大地、そしてその熱の源である炎を踏み潰しながら最後の距離を詰める。
「!?」
それをみて驚きつつも殴りかかるディストナーグに対し、
「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!」
大気が割れるような大声で叫んだハジメは仰反るほどに拳を振り絞り、
「「『破壊不能』!!!!」」
音を置いていくほどのスピードで殴り抜けた。
ハジメは、クロスカウンターの要領で避けつつもディストナーグの右拳に自身の右拳を合わせて打ち砕き、そのままの勢いで顔面を捉えて殴り飛ばしたのだ。
ディストナーグは殴られた勢いで縦に回転しながら、スタジアムに続く長い歩道の先にある学園の正門をひしゃげさせて止まるまで、地面で何度もバウンドして吹き飛んでいった。
「ヒトをモノ扱いする言葉使うやつは許せねぇ。1番嫌いなタイプの人間だよ。」
「オレをモノ扱いするやつは、誰であろうがブチのめす!!」
「そう決めてんだ。」
「…っ!あのごめんなさい…こ、腰に力が…」
「ん?」
ハジメは彼方へ吹き飛んだディストナーグを一瞥すると、腰を抜かしたホーニーを背負ってスタジアムへ向かうのであった。
続きます。