セブンス×アナザーワン Ⅲ ‐ 法力と暴力 3‐
そんなことがややあって、だ。
ハジメは、明らかに目立つカタチで講堂の前に着地したのだった。
魔法や異能がある世界で何をそんなに驚くのかと思われるかもしれないが、もちろん通常通り《・・・・》の方法でチカラが用いられていたのであれば、目立つだけでそこまで波風立てるほどのことではなかったかもしれない。
しかし、ハジメのチカラの異様さ《・・・》は少しでも魔術や異能に対する知識があればわかるのだ。
周りから見て、ハジメの不可思議な点は二つある。
一つ、異能を使った形跡がないこと。
二つ、魔術に必要なものと思しき道具を一切身につけていないこと、だ。
高度な魔術を使えば、ほぼ必ず余波が生まれる。
魔法による世界への干渉は事象が起こるのに必要だったエネルギーを魔力などで補うことで成立させる因果の逆転であり、その際必要なエネルギーが事象を独立保持させるまでのエネルギー経路が露出したり、複数事象の解決エネルギーが混線して発火や放電、爆発などの非目的事象の成立を引き起こしたりなどが起きやすい。
それをゼロにできる技術を持つ魔術師は魔術界隈では高位の術者として特別待遇を受けるなどとても重用される存在で、そのレベルの技術をもつ人間が入学者にいるはずがないのである。
また、異能に関しても同様に不自然な点がある。
異能の力は大小変異問わず異能者以外が触れている世界の次元とは違う次元空間を伴っており、その力が具現化される際は必ず周辺一帯がその能力者の伴う空間が支配する次元に置き換わるように変遷していく。
これ故に、異能力者たちはどんな能力者でも統一して『拡張者』《エクステンド》と呼ばれており、世界の変遷は魔術異能問わずなんの力も持たない一般市民でも接している世界が書き変わるような感覚を覚えるために能力者はその力を使えばすぐに他人から認識されるのだ。
しかしそれすらもない。
これは明らかに異常なことだった。
「そこの貴方。」
ハジメの目の前に特異なオーラを纏った女生徒が勇み出る。
「貴方ですよ。今どうやってここに現れましたの?原則的に校内は限られた者…つまり私のような風紀委員会に属する者などの許可を得た人間しか魔術・異能問わず使ってはならないとまずパンフレットの最初のページにデカデカと書いてあったはずですわよ。ご覧になりまして?」
背後には同じく風紀委員なのであろう男女が2名こちらを見ている。
ハジメは呼びかけられた当初は自分のことを呼ばれているのだとは思わず周りに目を向けて呼ばれたであろう人物を目で探そうとしたが、呼び止めてきた人物が歩み寄り語りかけてきた時点で、その女生徒含め自分を中心に周りの生徒が奇異な目でこちらを見ていることに気が付き、会話を始めた。
「何って、こいつは見ての通り“超能力“だよ。」
「“超能力”って…貴方、私を馬鹿にしてますの?異能の力でないことくらい貴方が現れた途端この場の全員が認識しましたわ?それとも何か?貴方のその力はかの七識聖天だとでもいうつもりですの?」
「セブンスってのがどういう理屈で動いてるかは知らないけど魔術ではないってことは世界中の誰でも知ってるだろ。もちろん個人の異能を指して言うものでもないってこともな?なら、分類としちゃ異能を超えた異能…“超能力”ってのが妥当なんじゃないか?少なくともオレはそう思ってるがな。」
要領を得ない返答に、その上、隠すつもりもなく自身の能力が特別であるかのような発言をするハジメに女生徒は苛立ちを覚えた。
「魔術や異能ならいざ知らず、正体不明の人物が正体不明の力を使って現れて警戒しない人間がこの学園にいると思いますの?」
そう言って既に特異なオーラで包まれていた女生徒は更に臨戦態勢と言ったスタイルで一歩下がり、宣言した。
「私は、高貴なるベルンシュタイン家長女、ホーニー=マナ・ベルンシュタイン!貴方は何者ですの?!名を名乗りなさい!!」
「おいおい落ち着けよ、ただここまで異能の力を使って移動してきただけだろう。」
「いいから質問に答えなさい!わたしには校内風紀、治安維持のためにチカラを使う権限があることをお忘れずに!」
「わかったわかった、とりあえずその不穏なオーラは消してくれよ。答えるからさ。」
従順な様子を見せたことで少しオーラが萎むのを見て初めは続ける。
「オレは東堂ハジメだ、北東の出身の何者でもない一般市民さ。」
「お前が警戒するこの力ってのもオレ自身よくわかってないし、その研究のためにこの学園に入ったってわけ。ここは学術機関であるとともに研究機関でもあるだろ?オレも知りたいんだよこの力がなんなのか。」
ひとまず、自身の質問に回答したからか、ホーニーはオーラを完全に鎮め、さらに質問を続けた。
「まぁ、とりあえずその回答を今は信じるとします。私も力を伴う野蛮な行為は本意ではありませんし。」
「しかし、解せませんね、力がよくわかってないと言いながらそれを行使することはできているのですよね?事前の入学検査では分析者からは何と?」
「入学検査とやらがどう言うものかは知らないけどオレは研究機関の分析でこの学園に入るべきだって決まったんだよ、その時に確実に魔術ではない異能の類の何か《・・・・・・・・・・・・・・・》だってくらいしか聞かされてない」
そうして混み合った話になってきた段階で、周りの生徒たちはとりあえず何か起こるわけでもなさそうだ、と1人2人とその場を離れ始めていたが、遠巻きに腕を組んでこちらを見ていた男子生徒が戦闘の気配がなくなったのを見てこちらへとズカズカと歩いてきていた。
「とりあえず、貴方はパンフレットもろくに読んでなさそうなのはわかりましたので、後で風紀委員会に寄りなさいな。何かしら貴方が校内でチカラで不正なことをしないとも限りませんので監視器をつけさせていただきますわ。」
「この学園は生徒の個別の監視まだするのかよ…ん?」
ハジメはこちらに歩いてくるものを見るなり訝しげな目を向けた。
男子生徒は不敵な笑みを浮かべながらハジメに相対した。
「ちょっと離れたところから見させてもらってたぜ、東堂ハジメくん。」
「ちょっと貴方、何ですのこの方の処遇は風紀委員が担いますので一般生徒は…」
言い切る前に男子生徒は異能を展開した。
「きゃあ!?」
突如として強烈な空間制圧による世界の変遷が行われ、その男子生徒を中心に爆風のような突風が巻き起こる。
「…なんだ?アンタ。」
ハジメは当然の疑問をぶつける。
「俺か?俺はディストナーグ・アンリッチ。」
ディストナーグは素直に答え、続けた。
「突然だが、東堂ハジメくん、君にこの場での決闘を申し込むぜ?」
自身のそばで突風が吹いたことで怯んだホーニーがその名前を聞きすぐさま状況を把握する。
「貴方!!ここからすぐに式場へ向かいなさい!あの宣言は【試測演技】宣言!彼は学園総合成績ランキングで7位の成績を持つ【成績優秀者】ですわ!」
「【成績優秀者】は上位10人まで毎試験ごとに行われる評価で選ばれたものを指し、それらには次の試験期間までに1回まで同意さえあれば事前申請なし、方法不問の実験行為が許されているのです!」
「しかし、それは彼のような武闘派にとって己の実力を測る決闘の許可に他ならないのですわ!」
腕時計を見てホーニーはハジメへと促す。
「その性質ゆえ後日審議で意義ありとみなされた場合相手が拒否していたとしても決闘は認められてしまいます。貴方のような特異な存在ならおそらく認められてしまいますわ。ですから…」
「貴方が危険な存在でなさそうと判断した以上私の風紀委員として!貴方を式場まで護りますわ!」
明らかにすぐにでも仕掛けてくる様子のディストナーグを見てハジメはホーニーに言う。
「あいつの権限は認められてんだろ?その場合、正当な宣言に対してお前のチカラを行使するのは不当に当たったりしないのか?」
「式場へ入ってしまえばそう言った場では【試測演技】はできない規則ですので問題ないですし、教師陣にその場で自身が研究機関の預りであると申請すればその後の決闘も避けられるでしょう。」
「なるほどな。」
「式場まで残り20分これなら私の権限で式場へ向かう貴方と彼の仲裁として入ったと言うことでわたしも力が使えるはずです」
そのやりとりを聞いてか聞かずか、ディストナーグは両手に魔力を集めはじめた。
「何ごちゃごちゃ言ってんのか知らねーが、まずはこいつを食らってみな!」
ディストナーグが魔力から魔法を構築している間に、ホーニーがハジメの腕を掴んで駆け出した。
「あの魔法ならわたしが無効化できます。ここから式場へは走ればすぐです!急いで!」
2人が駆け出したのをみてディストナーグは両手の魔法を展開したまま、足に魔法をかけて飛び上がった。