セブンス×アナザーワン Ⅱ ‐ 焦り、閃き ‐
続き
急ぎに急いで走ったハジメはしかし来いと言われた時間に間に合わず、十分以上遅れて学園長室に到着した。
「結局遅れちまった・・・ん?」
ハジメが目を向けると黒いローブを身に纏い、ほとんど顔が見えないほどフードを目深にかぶった人物がちょうど学園長室から出てくるところだった。
「それではまた・・・」
背格好から男と断定できるその人物はこちらに気づくと一瞬動きを止めこちらを見つめた後そのまますれ違うようにしてハジメが来た方向へと歩いて行った。
「何だアイツ・・・まぁ、いいか」
ハジメは人物を見ていた方向から向き直りつつ、ノックをしようと右手を胸元まで挙げたが、目の前を見て硬直する。先ほどの人物が閉めたはずのドアは全開になっており、中では軽い書庫ほどあるのではという本が本棚へずらりと並べてあるのが見える。
ドアから一直線上には本棚はなく、その先には少し開けたスペースと学園長の机があった。ただそれだけではなく怒りに身を震わせる学園長付きで。
魔力で本棚に並べられている本がガタガタと揺れているのを見てハジメは嫌な思い出を思い出し焦りきりだした。
「ちょっと言い訳させ・・・」
「遅いわッッッッ!!!何をしておったんじゃ、ハジメ!!」
うだうだと何かを言おうとしたハジメに一喝が飛ぶ。その拍子に魔力で揺らされていた本のいくつかがスッ飛びハジメにぶつかった。その重量もさることながら本からは七色の光が迸り火花や静電気のようなものがまるで狙いすましたかのようにハジメの手や頬などの肌目掛けて飛んできた。
「ッ・・・!アチッ・・・!」
「いい気味じゃ、まあここに座れ。」
逃げるようにして示された椅子に座るハジメ。そう言いつつも椅子に座るまで攻撃が止まないことにジジイのこういうところがマジムカつくんだよなといった愚痴を心の中でつくハジメ。
「何じゃまだお仕置きが必要か?」
顔に出ていたのか見抜かれていたようだった。
「冗談じゃ、それじゃあ話が一向に進まんしの。」
慌てて弁解しようとするハジメに学園長はそう言った。
ハジメはアンタならやりかねんだろと思いながら辺りを見渡し賞状やらなんやらを見つつ、
「以外にちゃんと学園長やってんだな。」
と呟く。
学園長は机の中の物をごそごそと弄くりながら、
「当たり前じゃろ、お前さんの目にはワシにビシビシしごかれた記憶が先行してそうは映ってないようじゃが、ワシこと、アルファス・ローグといえば選定王国衛士の中でも特に優れた十三名を意味する衛国十三極で代表格の一人で、その上世界三大魔導士の一人じゃぞ?そのワシにしてみればいくらデカい学園とはいえ学園長の仕事など容易い容易い。」
アルファス・ローグも所属する選定王国衛士とはその名の通り数いる魔法士の中から王国が選んだ特別な兵士の総称であり、主に普通の兵士では遂行不可能な任務に着く。そんな選定王国衛士の中でもトップ十三の実力を持つ『衛国十三極』には、議員・国王・貴族などこの国の運営に関わるものが集い行われる『聖議会』と呼ばれる議会を招集し自らの立場から見た王国の危機について報告する権限が与えられている。というのも、先の戦争においてのちに『衛国十三極』と呼ばれるようになる過去の王国選定衛士が国の危機を何度も救ったことが称えられできた要職だからだ。
さらにアルファスは様々な新魔法式を組み、新たな魔法体系を生み出したことにより世界三大魔導士の一人に数えられている。
「大体そんな下らんことを考えるくらいなら、そのワシに師事してもらったことを感謝して欲しいくらいじゃわ。久しぶりに会えると思ったら遅れて来おってからに・・・」
流石にハジメもこれは正論だと思い反論できない。
「・・・ん?おお、あったあったこれじゃ。」
しばらく何かを探していたアルファスだったが遂に見つけたと手渡してきたのは三冊の魔導書だった。
「コイツは・・・」
「そうじゃよ、例の魔導書じゃ」
特別な装丁が施された魔導書は魔導書というだけはあり不思議な存在感を放っている。
「ハジメお前さんは普通の人間にもかかわらず膨大な魔力を内に秘めておる。」
「魔導種族ならば生来、お前さんほどではなくとも多くの魔力を秘めておるため本能的にそれに振り回されんよう魔力を制御して幼い頃から魔法の制御技術を高めていくものじゃが、人間のお前さんはその技術もない」
その歪さの理由も気になるところじゃがーー
アルファスは続ける。
「じゃからワシは、お前さんを鍛える時様々な修行の中でもそのあたりにはかなり力を入れたんじゃが…」
そう、東堂ハジメは大魔導士アルファス・ローグの弟子である。
ハジメがアルファスに対し持っている苦い思い出はーーー修行中は寝食をともにしていたため奔放ながら妥協を好まないアルファスにこき使われたと言うこともあるがーー主に修行での厳しさに寄るところが大きい。
ハジメには修行の意味などは端的にしか伝えられていなかったため、あのキツい修行の中でも精神を鍛える修行の多さを思い出した。
「無論それだけのための修行ではなかったにしろ精神はだいぶ鍛え込んで魔法制御技術の根本でもある基礎は叩き込んだはずだったが…」
お前さんのおよそ人間の身体に持ち得ない膨大な魔力か、はたまた、その歪な状態でも耐えうる身体に影響されているのか。仮定をいくつか挙げつつアルファスは言う。
「…お前さんには色々あって魔力制御の肝心なところを伝えおらなんだ。」
ハジメは基礎修行期間の最後で行われた教本たる魔道書を楔にして暴走を抑えつつ魔力を自在に制御する修行で楔たる魔道書が魔力を一身に受け使い物にならなくなってしまった光景を思い出す。
「お前さんにあった教本たる魔道書がないと気づいたワシはそこでこの魔道書を作ったのじゃ。」
アルファスは言う。
「所謂…決定版魔道教本!世に出すつもりはないが
『A:B=C』《インクルード・スタート》
とでも呼ぶが良いぞ。」
机の上に重ねて置かれた三冊の魔本。
その1番上に置かれた魔本は装丁に施された輝くその題名を閃かせたのであった。
とりあえず。