察し
「お前らが時たま、立ち入り禁止の屋上で飯を食ってることぐらい知ってるさ。目を凝らせば職員室からでもわかる」
そう言ってフェンスにもたれてタバコを吸っていたのは、担任の麻乃早紀だった。
普段から素っ気ない雰囲気の先生で言葉遣いはお世辞にも丁寧とは言えない。
「先生が私達に何か用ですか?」
そんな担任に、少し嫌悪感の滲んだ声で涼葉がつっかかっていく。
「いや、アタシもこうしてたまにここでタバコ吸ってんのよ。なかなかタバコ吸ってるとお偉いさんの目が厳しいからな」
そういうと女性用のスーツから携帯灰皿を出して吸い終わったタバコをその中へと雑に入れた。
「そう言えば、さっき何か用かと質問したよな?」
スーツに付いたタバコの匂いを消したいのか、スーツを手で叩きながら早紀先生がこちらを見やった。
「えぇ、言いましたけど……」
その視線に若干だじろぐ涼葉。
「先週の土曜日の午後五時、どこで何してたんだ?答えたくなければ答えなくてもいいが」
犯人に自供を迫るようなトーンで涼葉を問いただす。
「……えぇ……っと……」
涼葉は、答えに窮してしまったがそれだけで俺が察するには十分だった。
「生徒の恋愛には口出しする気はないが、せめて人目につく時間にラブホなんて行くな」
おそらくは、恭弥とのことだろう。
「あれは、恋愛でもなんでもないです」
「なら、お遊びか? なら余計に感心できないなぁ」
「それも違くて……」
そう言ったところで言い淀んでしまうと涼葉は、俺をチラッと見た。
その視線の意味するところは、よく分からなかったのでスルーした。
早紀先生は、涼葉が恭弥と店に入っていくところを見ていたから知っているのだろうが、見ていた先生が早紀先生で心底良かったなと俺は、思った。
素っ気ないということは、必要以外にあまり関心を抱かないということだ。
そういう先生でなければ涼葉は、もっとしつこくいろいろ言われただろうな。
「それと、凌空」
早紀先生が突然、俺に話を振ってきたからビックリした。
「お前ももう少し、涼葉の気持ちを察してやれよ」
そう一言、言い残して早紀先生は、屋上から去っていった。
「察してやれって言われても……」
何を察するのか……それすらもどういう意味なのかを図りかねて、涼葉の方を見るが
「ほんとお節介な教師。別に気にしなくていいから」
そう言われたので、それ以上は気にしないことにした。
でもだいぶ後になってから、察しておけば良かったと後悔することになるのを俺は、知る由もなかった。