第3話 屋上で
高一のときから既にクラスに馴染めずトラブルメーカーと化していた涼葉は、あっという間に学年中にその性格が知れ渡り案の定、二年生になってクラスが変わったばかりと言うのに既に孤立気味だった。
人間嫌い(特に同性)というその性格、いや人格か……に加えて男に必要とされることで承認欲求を満たそうとする人格。
小学生から一緒だった俺や詩乃にとっては当たり前となった彼女の人格も高校に上がるまで見ず知らずだった周りの人間からすれば、受け入れ難いのだろう。
「人格ってどういうときに変わるの?」
ある時、全く人が変わったようになる涼葉を見ていて疑問に思って、まだ小学生だった頃に訊いてみたこともあったけど
「んーわからないっ。でも凌空だけは一緒にいて嫌いなもならないんだよね」
と言ったような曖昧な答えだった。
中学校にあがった時も同じような質問をして同じような答えだったからきっと今も変わらないのだろう。
非常に曖昧模糊としたもので、それは涼葉にとっても同じはずだった。
だから対策のとりようがなくて厄介。
「周りの人に話した方がいいんじゃない?」
と、詩乃が涼葉に提案することもあったが、その度に涼葉は、これを拒否した。
「それだけは絶対に、嫌!」
そう本人に言われてしまえば、俺たちはどうすることも出来なかった。
それにかなり踏み込んだ問題でもあるからとも思って俺も詩乃も一切、口外にはしなかった。
今になって思えば、私は多重人格ですなんて面と向かって人に言うことってかなり難しいだろう。
俺だって仮に涼葉と同じ状況にあったら、周りには言えないに違いない。
「お昼、一緒にいい?」
そういうわけで涼葉は孤立しているわけで、お昼は一人で食べるか俺と食べるかの二択だった。
「いいよ」
断る理由もないから承諾する。
俺と一緒に弁当を食べようとしていた男子二人に涼葉は、ちらりと一瞥くれただけだったが二人は
「お、俺ちょっと職員室行かなきゃいけないんだった。淕空、わりぃっ!」
「俺もちょっとトイレ行ってくる」
開いた弁当をさっさと閉じてどこかに行ってしまった。
「なぁ涼葉、ちょっと別のところ行かないか?」
さすがに教室だと他のクラスメイトの態度もよそよそしく居心地が悪い。
それに俺と涼葉に注がれる目線も正直言って邪魔だ。
おおかた、何で人嫌いの涼葉が俺と一緒にいて何も問題を起こさないんだ?といったところだろう。
「ん、そうする」
涼葉がそう言ってくれたので、開きかけた弁当をしまって移動することにした。
「どこがいい?」
どこへ行くかと言えばいつも大抵は、静かな物理室や屋上にこっそり行くか、校舎の端の人気のない空き教室とかだ。
「屋上にしたい」
それが涼葉の希望らしかった!
「なら階段が面倒だけど行くか」
屋上は、昼休みの時間帯に流れる放送も聞こえないし無論、教室のように賑やかなわけでもない静かな場所だ。
階段を昇って最上階である3回のフロアに出る。
で、そのフロアの端にある階段を昇って屋上へ出た。
「お、二人とも来たか」
いつもなら俺たちに屋上で声をかける人なんていないはずなのに今日は、声をかけられた。
誰だ?と思い見上げると煙草を吸う一人の教師がいた。