第二話:どうちゅう
赤ちゃんのころ山で拾われたももたろうは、六歳になった冬のある日、おじいさんのぼやきを聞いてしまいます。
鬼たいじを決意するももたろう。
おじいさんとおばあさんに見送られて、いざ、鬼たいじの旅へ。
おじいさんの描いてくれた地図を頼りに進んでいくと、顔なじみの犬井が現れます。
おじいさんとおばあさんの家によく来る犬井。ももたろうも大好きです。
「あ、犬井ー」
「おう、ももたろう、今日はどうした? お散歩かい?」
気さくな犬井に、おじいさんの言葉を教えてあげます。
「だから、ぼくが鬼たいじにいくのです!」
えへんと胸を張るももたろう。
犬井は頭を抱えています。
「なに考えてんだよ桃園のじいさん……」
「ねー、犬井ー。鬼たいじに一緒にいくなら、おだんごあげるー」
たくさん作ってもらったから、おすそわけー。
にこにこしながらお団子を差し出すももたろう。
犬井は、思わずごくりとつばを飲みます。
『桃園の匠の作ったお団子……。仕方ない。一緒に行ってやる』
成功報酬だ。
犬井はキメ顔で言いますが、ももたろうはよく分からず、いつも首をかしげます。
でも、犬井がいっしょに来てくれることは分かりました。
「わーい。いこー」
(迷子になったりしたら、大変だからな……)
ももたろうのことが心配な様子の犬井。
けれど、仕方ないというものの、お団子につられたのは、誰の目にも明らかでした。
犬井を仲間に加えたももたろう。
おじいさんの地図を頼りに、道をそれてしまいます。
どこへいくのかと犬井が聞けば、
「ちかみちー」
と、くすくす笑っています。
不安になった犬井は、おじいさんの地図を見てみれば、なるほどとうなずきます。
道をそれて進むと、浅い小川があります。
小川を渡るにはまだ体の小さいももたろうには、ちょっと不安です。
そこで、犬井は考えました。
「もしもし? おう、俺。暇ならちょっと来い」
『すまほ』とかいう板に向かって、なにやらぶつぶつひとりごと。
ももたろうは、いつも首をかしげます。
ももたろうの住む家の電話は、懐かしの黒電話。
おじいさんとおばあさんは、『すまほ』を持っていないので、葉書くらいの大きさの板にひとりごとを言う犬井は、へんなやつとしか思えません。
「犬井ー、なにしてるのー?」
ひとりごとが終わった犬井に聞いてみれば、
「仲間を呼んだ」
キメ顔で言う犬井は、やっぱりへんなやつでした。
「よう、ももたろう。今日も元気そうだな」
犬井といっしょに待っていると、猿みたいな顔をした猿藤が軽トラに乗って現れました。
「なあ、ももたろう。おれ、ちょっと小腹が空いてるんだよな」
ももたろうが背負うリュックをチラチラ見ながら、猿藤が言います。
ちょっと意味がよく分からないももたろう。
こしょこしょと犬井に教えてもらって、元気にお返事します。
「猿藤ー。鬼たいじに一緒にいくなら、おだんごあげるー」
「任せとけ」
グッと親指たてて歯を見せる猿藤。
その歯には、青のりがくっついてました。
お昼ごはんは、きっとお好み焼きです。
おばあさんの作るお好み焼きは、ももたろうも好物です。
というか、おばあさんの作るごはんなら、なんでも大好きなももたろうです。
「あおのりー」
歯に付いた青のりを指させば、
「ちょっ? おま、見んな」
猿藤は、恥ずかしそうに顔を隠すのでした。
「うし、まあ、こんなもんだろ」
軽トラに積んできた木の板を使って、小さな橋をあっという間に作った猿藤。
すごいすごいと、ももたろうは手を叩いてほめます。
小川を渡れば、鬼の住む家はもうすぐです。
犬井、猿藤の二人を従えたももたろうは、あと少しの道のりを、元気に歩きます。
すると、下を向いて歩いてくる烏丸を見つけました。
いつも、びじねすすーつを着ておじいさんとおばあさんの家に来る烏丸は、ももたろうの頭をなでなでしてくれるから大好きです。
「とりまるー。どうしたのー?」
まだ上手く漢字を読めないももたろうは、烏丸のことをとりまると呼んでしまいます。
「ああ、今日も鬼塚のじいさんに追い出されたんだ……」
悩みがある様子の烏丸。
イケメンは、沈んだ様子でもイケメンです。
「それより、ももたろうはどうしてここへ?」
ももたろうは、おじいさんのぼやきを烏丸に教えてあげます。
「そうか……うちの、鬼塚のじいさんのことで、すまないな」
そういって、烏丸は微笑みながらももたろうの頭をなでてくれます。
イケメンは行動からしてちがいます。
「とりまるー。鬼たいじに一緒にいくなら、おだんごあげるー」
リュックから、おばあさんが作ってくれたお団子の包みを出して、烏丸に差し出します。
それを見た烏丸は、より一層の笑顔になって、頭をなでてくれます。
「桃園のお団子は、鬼塚のじいさんも好きなんだ。一緒に行ってくれるか?」
「うんっ!」
ももたろうは元気にお返事します。
犬井、猿藤、烏丸の三人を従えたももたろうは、ついに鬼の住む家にたどり着いたのでした。