第一話:しゅっぱつ
町のはずれに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。
おじいさんは、春は畑を耕し、夏は野菜を育て、秋は作物を収穫し、冬はなわを編んで、休まず働いていました。
おばあさんは、毎日ご飯を作り、そうじに洗濯をして、幸せに暮らしていました。
ある日、おじいさんが山でくり拾いをしていると、布にくるまれた赤ちゃんを見つけました。
すやすやと眠る赤ちゃんをくるむ布には、紙がはさまっています。
その内容は……。
『どうか、この子を助けてください』
と書かれていました。
かわいそうに。この赤ちゃんは捨て子だったのです。
あわれに思ったおじいさんは、赤ちゃんを家につれて帰り、おばあさんと相談した上で、二人で育てることにしました。
その子の名は、ももたろう。
桃のように可愛らしいお尻を見て、おじいさんが決めてしまいました。
おばあさんは、これくらいならいつものことと、どこ吹く風です。
むしろ、おかしな名前でなくてよかったと、隠れてほっと一息です。
それからというもの、ももたろうはすくすくと育ち、六歳になった今では元気で優しい男の子です。
節分を過ぎた、まだ寒い冬のある日、ももたろうはおじいさんのぼやきを聞いてしまいます。
「あの鬼ヤロウ、話を聞きやしねぇ……」
いつもニコニコ笑顔のおじいさんの、初めて見る悩ましげな顔です。
これは大変と、おばあさんに相談すれば、
「そうかい、そうかい。なら、ももたろうはどうするんだい?」
と、聞き返されてしまいます。
ももたろうは困ります。
うんうんうなって、出した答えは、
「おばあちゃん、ぼくが、鬼をやっつけにいく!」
というものでした。
おじいさんを困らす鬼は、きっと悪いやつ。ぼくがこらしめてやらなくちゃ。
鼻息を荒くするももたろう。
言い出したら聞かないのは、誰に似たのでしょう?
「そうかい。なら、おばあちゃんがおやつにおだんご作ってあげるから、もってお行き」
おばあさんは、ため息ひとつ。
可愛い子には、旅をさせろという気持ちで、支度をしてくれます。
その間、おじいさんは、鬼の住むところへの地図を描いてくれました。
「では、おじいちゃん、おばあちゃん。いってまいります」
ももたろうは、胸を張って一礼。
背中のリュックには、水筒と、おばあさんの作ったたくさんのお団子。
「寄り道するんじゃないぞ」
「夕飯までには帰ってくるのよ」
おじいさんとおばあさんは、笑顔で手をふり見送ってくれます。
ももたろうも、いってきますと笑顔で手をふり返します。
いざ、鬼たいじの旅へ……!