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人見知りの異世界冒険記  作者: 慎作
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森と跳躍と鬼

 今度は意識を失うことはなかったが、さっきまでいた洞窟とは明らかに違う場所に一瞬で移動していた。

 木で作られた小屋のような建物だ。これまた木でできたテーブルと椅子があり、テーブルの上には洞窟にあったものと同じような水晶が置かれていた。

 小屋には窓があり、窓の外には木々が生い茂っているのが見える。

 指輪と水晶が青く光っていたので、もしかしたらもう一度水晶に触れるとさっきの洞窟に戻ることができるかもしれない。

 しかし、見渡す限りの草原より森の中の方が面白そうだと思った俺は、その小屋から出ることにした。


 現実世界、少なくとも日本ではあまり見かけないような大きな木が立ち並んでいる。

 木が影になり地面にはあまり草が生えておらず、ダニやら毛虫やらに刺される心配はなさそうだ。

 俺はとりあえず小屋の出入り口から出てまっすぐ進んだ。


 どれくらい歩いただろうか。

 疲れは感じないが、ひたすら森が続いていて、いい加減飽きてきた。日も陰り始め、もともと高い木に遮られ影になっていた森の中が更に薄暗くなってくる。

 そこでようやく気づいた。

 背の高い木に登って辺りの様子を確認すればよかったのだ。

 今の俺の身体なら恐らく簡単に登ることができるはずだ。

 しかし、登っている最中にムカデなどの虫に出くわさないとも限らない。

 虫は人並みに嫌いだ。夢だとしても、触ってしまったり飛びつかれたりしたらと考えると背筋が凍る。


 あれだけ速く走ることができるなら、ジャンプすれば木の上の方まで跳ぶことができて、木にしがみ付いている時間を短くできるはずだと考えた俺は、膝を曲げ両足に力を込めて、思い切り上に跳んでみた。


 まるで映画の中のスーパーヒーローが空に飛び立つ時のように地面が揺らぎ、俺の身体は勢いよく宙に浮かび上がった。

 複雑に交差した木の枝をへし折りながら、木の高さよりもさらに高いところまで到達してしまった。

 次第に上方向に進む速度が遅くなり、一瞬空中で静止した後すぐさま落下し始め、嫌な浮遊感が俺を襲う。


『うわぁああ!!!!』


 高いところは得意とは言えないが、高所恐怖症と言うほどでもない。

 しかし、バンジージャンプはしたことがなかったので、生身でこんな高さから落下するのは初めての体験だった。

 恐怖で硬直した手足をなんとか動かし、ギリギリ木の枝を掴むことができた。


 俺は脈打つ鼓動が収まるのを待ち、木のてっぺんまで登った。

 木の上に出ると思ったより明るかったが、徐々に日が沈み夕方にさしかかる時間帯のようだった。

 森はかなり広大で遥か先まで続いているが、俺が進んでいた方向に向かって徐々に木が小さく、まばらにいっているのが確認できる。

 目を凝らしさらに先の方を見ると砦のような建物が見えた。

 とりあえずそこを目指して歩くことに決めた。

 降りる時の事を考えていなかった俺は、飛び降りてまたあの浮遊感を感じる事を恐れ、結局木にしがみついて降りる事にした。


 幸いにも虫の類いを見かけることはなかったが、もうすぐ地上に着くというところで、木のすぐそばに人が立っているのに気がついた。

 不審に思いながらも木から降りてそちらに振り返ると、俺は息を呑んだ。


 鬼だ。

 頭に角をはやした人型の生物がそこにいた。


 上半身は裸で、下半身には胴着のようなものを身につけている。

 筋骨隆々で身長は恐らく二メートルは超えているような化け物が腕組みしながら俺のことを見下ろしていた。


 逃げなければと頭では考えながらも、身体は動いてくれない。

 微動だにできずにいると、その化け物が口を開いた。


「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎」


「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎」


 聞き取れない。

 日本語でも英語でもない言語だ。

 しかし言葉が話せるということは、高度な知能があるはずだ。


「あ、あの…」


 怯えながらも言葉が通じていないことを伝えようとしたその瞬間、その化け物は突然目をカッと見開き、丸太のような右腕を振り上げ、俺の肩目掛けて振り下ろしてきた。


「うわっ!?」


 驚いた俺はとっさに腕を前に出し、その化け物を突き飛ばしてしまった。

 化け物の身体は突風に吹かれた木葉のようにものすごい速度で後ろに吹っ飛び、太い木の根本に衝突した。

 木の表面が衝撃でバキバキに砕け、化け物の身体は少しめり込んでしまっていた。

 殺してしまったかと思い、恐る恐る近づいてみたが、どうやら生きているようだ。


「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎」


 何かを呟きながら動きだそうとしている。

 俺は化け物が生きていたことに安堵しつつも、このままではまずいとすぐさまその場から逃げ出した。

 さっき確認した砦の方向は覚えている。

 

 俺は出せる限りの速度で風のように森の中を走った。

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