失望と変貌と草原
「おいブタ!お前汚ねぇんだよ!フロ入ってんのか?」
口汚く罵る声と笑い声が聞こえる。
それが自分に対する罵声でないことに、俺は非情にも安堵していた。
クラスの不良グループが、肥満体型の生徒をいじめている。
俺には全く理解できなかったが、彼ら不良グループにとってはそれが楽しいらしい。
「パン買ってこいよ!俺焼きそばパンな!みんなも好きなの頼んじゃえよー。」
ベタないじめっ子的セリフを滑稽に感じつつも、俺には関係無いと目をそらした。
今思えば間接的にでも助けてあげればよかったと後悔したりもするが、きっと時が巻き戻ってもう一度あの場面に出くわしたとしても、俺はまた無視をするのだろう。
今いじめられている彼も、パンを買ってくるという仕事がすめば、自分が所属するオタクグループに帰っていき、気の合う仲間と趣味の話をしたりするのだろう。
俺は1人でそんなことを考えながら母さんが作ってくれた弁当を食べていた。
「おーい!倉木!お前もこっちで一緒に弁当食べようぜー!」
同じクラスの友人が声をかけてくれた。
悪意の臭いは感じない。
純粋な気持ちで誘ってくれているのだ。
俺はその誘いを断る理由も思いつかなかったので、一緒に食べることにした。
俺はクラスで孤立しているわけではない。こうして昼食を一緒に食べてくれる友人もいるし、学校では1人でいる時間のほうが少ないくらいだ。
でも心は開けない。
心を開いて関係が深くなってしまうことが、なぜだかたまらなく恐ろしいのだ。
その日の昼休憩の時間も、いつものように上辺だけの楽しい会話をし、楽しい学校生活は続いていった。
俺はまた石の冷たい感触と共に目を覚ました。
気を失う前まで光る石を使わないと見えないほど真っ暗だったのに、何故かさっきよりも明るくなっていた。
今度はうつ伏せで倒れていたため、地面に手をつき立とうとする。
簡単に立つ事ができた。
何かがおかしい。
異常に身体が軽い。
恐る恐る身体に視線を移すと、先ほどまでガリガリだった自分の身体が、理想的な細マッチョ体型になっていた。
「?????」
頭の中が『?』でいっぱいになったが、もう細かい事は気にしないことにした。
ここで最初に目を覚ましてから、不思議なことしか起こっていない。
それらを全て理解しようとしても、俺の頭では不可能だということは理解できた。
とにかくここから出られるか確認することにした。
最初に居た部屋を出ると、岩肌が剥き出しの細い通路が続いていた。
そこをまっすぐ進んでいくと通路の途中に2つの扉があった。片方の部屋をのぞいてみると部屋の両端に棚があり、何に使うのか検討もつかないような道具が並んでいて、中には剣や槍、鎧など武具のようなものもある。どうやら倉庫のようだが、しばらく使われていなかったようで、どれも埃が被っている。
俺は自分が全裸であったことを思い出し、何か着られるものがないか探すことにした。
きれいに折り畳まれた、布でできた服を見つけた。
積もった埃を叩いて落とし、その服を身につけると、俺のために作られたかのようにピッタリとフィットした。
倉庫を出て、もう1つの扉を開け中を確認すると、部屋の中央に物々しい台座があり、その頂点に水晶のような丸い玉が置いてあった。
他に何かこの場所の手がかりになるようなものがないかと部屋を物色してみたが、特に何も見つからなかった。
通路に戻り、更に先に進むと、通路の奥に光が見えた。
「外だ!出られる!」
謎の洞窟からやっと抜け出せる喜びで、自然と歩みが速くなる。
ついに出口にたどり着き、そのままの勢いで洞窟から飛び出した俺の足は残念ながらすぐに止まることになった。
外には日本ではありえないほどの、見渡す限りの広大な草原が広がっていた。