ライリーの心境
訓練所を後にした頼は、苛々を隠さずに自室へと向かっていた。
頼とすれ違った他学年の学生たちは、その黒々しいオーラに怯えている。
突然ライリーの身体へ転生した形となった頼だったが、既にこの事実は受け入れていた。
頼としての前世の記憶はもちろんあるし、向こうの両親や友人達と今後一切会えなくなるかもしれないのは、正直悲しい。
だがライリーとしての記憶も、言うならば頼自身だ。
意識はなかったとはいえ、記憶としてすんなり頼に溶け込んでいる。
頼はライリーとして、もう一度授かった命を懸命に生きようと考えていた。
だからこそ、先程のレイモンドのライリーへの暴挙に怒り、苛立っていた。
最終的に足払いしたとはいえ、あの発言、あの身振り、全てが此れまでのライリーを否定していたのだ。
今日の出来事の事を決してライリーは、忘れないだろう。
てか絶対あいつより強くなってやる!
あいつより上の立場になって、あの男に恥をかかせてやる!
それであいつがなにか一度でも失敗したら、男の癖にこんなことも出来ないの?って馬鹿に…いやいやライリーならそんな事しないな、もっと圧倒的屈辱を与えて…
「…ライリー先輩!聞こえてますか!」
黒い思考をぶったぎったのは、変声期前の少年の声だった。
「もう、ライリー先輩たら!何度声かけても無視するんだから!」
『…悪い』
プリプリと怒り顔の少年、名はルクス・カーチス。
歳は確か14歳で、長いまつ毛の向こうにエメラルドグリーンの瞳を持つ美少年。
淡い栗色のふわふわとした髪が触り心地良さそうだ。確かたまたまライリーが立ち会わせたところで、この少年が襲われており、それをライリーが助けたのが知り合った筈だ。
その日からルクスに懐かれている。
…襲っていた相手は聞かないでくれ……まぁ男子校だしな…
「どうしたんですか?確か今日は入団試験の筈でしたよね?」
「それはもう済ませた」
「そうなんですね!ライリー先輩なら騎士団入団は当たり前ですけど、もしかしたらさっそく役職とかつくかもしれないですね!楽しみだなぁ!」
流石にあの試験内容じゃ役職はおろか、もしかしたら入団すら危ういだとか、何でお前が楽しそうなんだとか、言いたいことは色々あったが、一先ず彼の用件を聞くことにした。
「何言ってるんですか!明日は先輩たちの卒業記念祭ですよ!今日はその衣装併せだって約束してたじゃないですか!」
卒業記念祭?
そういえば、入団試験の翌日に各学年揃っての卒パーティーの様な催しがあるらしい。
余りにもライリーの記憶ではどうでも良い話だったらしくて、すっかり抜け落ちていた。
更にルクスの強い要望で、服飾を営むカーチス家直々に、ライリーのドレスを用意してもらっていた。
採寸はルクスの目測だという…それで大丈夫なのか。
まぁライリーが採寸依頼ををことごとく無視していたからなのだが。
ライリーはルクスの自室へと連行されていった。
「はい、ライリー先輩。次はこれです」
「ルクス…少し休憩を…」
「だーめーです。もうパーティまで24時間切ってますよ?ドレスに合う靴や飾りも考えないといけないし…先輩が僕の誘いを無視したせいで、もう時間は無いんですよ!」
「…」
あーでもないこーでもないと、着せ替え人形状態のライリー。
現代で平凡な女として過ごしてきた彼女は、それはもうげっそりと疲れきっていた、
ドレスなんてどれがいいかなんて全くわからない。
そして何が凄いって、目測の筈なのにサイズ全てぴったりだったこと。
普通に怖い。
終わらない着せ替えは、等々深夜まで続いた。
そして、卒業記念祭当日。