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レイモンド•アーロン視点





俺と彼女、ライリー・クロードは同い年であり、学園の同期である。

入学早々から彼女は、王族と色眼鏡で見られてきた俺とはまた違った意味で注目の的だった。

其れもその筈、学園始まって以来の女子学生であり、入学試験を満点で合格し主席になり、更に13歳の時の彼女の容姿は、天使が舞い降りたのかと見まごうような、線の細い可憐な美少女だった。


初めて彼女と相見えた時のことは、今でもよく覚えている。


入学して早々模擬戦の授業をした。

、共に成長していく仲間の実力を確認するという名目で。

最初は彼女も、男子学生の中ではひ弱そうな者とばかり組まされていた。

女性である彼女への、教官からのせめてもの気遣いからだろう。

しかし彼女は力ではなく、体術を駆使した剣術で、あっさりとその男子学生に勝利してしまった。

哀れなことに、女子に負けたと囃し立てられる男子学生は、真っ赤になり悔しそうな顔をしていた。


しかし彼女はその男子学生の前にたつと、悠然と周囲で囃し立てている者たちに言い放った。




次はどいつだ、と…




彼女は余裕綽々で挑む者も、逆に騎士道を志し真面目に訓練してきた者も、すべて、地に伏せさせてしまった。

最後に残されたのは、俺だった。






「あの女、おかしいって」


「あいつの剣先、見えなかった」


「女に負けるなんて…」





いつまでも愚痴る周囲を無視して、俺は彼女に近づいた。

その頃から他の男子学生より一回りはでかい俺を見ても、彼女は物怖じせずこちらを見据えていた。

だから、油断していた訳ではない。

対等、いやそれ以上の力が彼女にはあると確信し、全ての力を出し切った。

だが、気付いた時には、俺は床に転がされていた。


今となってはあの場に居たほとんどが忘れているだろうが、俺は忘れられる訳がなかった。

俺たちは最初からずっと互角だった訳じゃない、五年前のあの模擬戦で、彼女に一度負けている。




舞い散る砂ほこりも、悠然と俺を見下ろす彼女の瞳も、全てが美しく見えて


俺はあの日、ライリー・クロードに、恋に落ちてしまったのだ。







それからの俺は、今まで以上の努力をし、鍛錬に励んだ。

彼女の横に並べるように、彼女といずれ、共に闘えるようにと。

学業も剣術も常に学年一位を保ち、優秀な彼女の模擬戦には、立候補したり、果てや教官に頼みこんだりして無理やり相手になっていた。



学生生活の間、彼女への嫌がらせややっかみが絶えず起こっていたことには大変腹立たしかったが、俺が手を出すまでもなく、ライリーが自ら解決していくのには流石と言わざるをえなかった。





そうして学園で五年の月日がたった。

可憐な少女だったライリーも、いつしか大人びていき、冷静に装いつつも彼女を眺めているだけで、俺の心は揺れ動いていた。


もし、入団試験で俺か彼女か、どちらかが落ちてしまったら。

この先、ライリーと二度と会えなくなってしまうかもしれない。

いっそのこと、この想いを彼女に伝えようか…

大の男が悩みに悩んだ挙句、想いは伝えないが、せめてこれからも共に闘う友人として挨拶をしようと決意した。


そして入団試験の前夜、何時ものように一人で鍛錬に励んでいた彼女の所に出向いた。





「ライリー」


「…お前か」




何時ものように仏頂面で返され、苦笑が出る。

彼女を呼びかけるときはいつもこうだ、酷い時には無視されたりする。

だが気にはしなかった。

恋は盲目とはよく言ったものだ。



「伝えたいことがあってな。


明日はいよいよ入団試験だ、お互い悔いの無い戦いをしよう。」



「…お前はそんなことを言いに来たのか。」



呆れ顔で返されてしまった。



「いや、まだあるぞ。

これからも俺たちは二人でペアを組み、共に戦っていくんだろうとおもってな」



「…」


「今後も友人として、ライバルとして、よろしく頼む」




本当に言いたいことは押し殺し、何とか友人としての地位を保つために言葉を選んだ。

きっとライリーのことだ、いつもの仏頂面で「あぁ」の一言で終わらすだろう。

それでも良い、いつかきっと彼女に…




「何故今後もお前と組まなければならないんだ」



ライリーの冷たい言葉が、俺の胸に突き刺さる。



「…この5年間共に過ごして来た仲間だろう?」



「私はいつも一人だ」



「そんなことないぞ、俺はいつでもお前と共に…




「…一つ、忠告しておこう」



ライリーは俺の言葉を遮って言い放った。






「…私は、お前のことなど眼中にない」





そして彼女はこちらに一瞥もくれずに、去っていった。



あいつは今なんて言った?


『…私は、お前のことなど眼中にない』


頭の中で彼女の台詞を復唱する。



この身は自由に出来ず、いずれは国を背負わなければいけない。

学園での生活も騎士団への入団も、いわばこの先に立ちはだかる王族として責務の一部に過ぎない。

俺はその全てを放り出したくなるほど彼女を想い、学園生活を捧げてきた。


彼女の中に一部でも俺という存在を刻みたい一心で。



それもこれも、全て無意味だったことを知ってしまった。



「…ははッ」



あぁ、そうだったのか。

ライリーは、あいつは、俺のことなんか毛程も見ちゃいない。

ただの煩わしい男、そんな評価しかなり得なかった程、俺の存在なんてちんけなものだったのだ。



少しでも期待した俺が馬鹿だった



明日はいよいよ入団試験か…


どうせあいつのことだ、今日の出来事なんか忘れ全力で俺に向かってくるのだろう。



とっくに気付いていたことがある。

俺たちは互角なんかじゃない。

月日が経ち、大きく開けてしまった男と女の体格差。

いつの日かの訓練で、たまたま彼女に覆いかぶさるような形でバランスを崩した時に、彼女は全力で俺の下から這い出ようとしたのだがそれは叶わなかった。

単純に力が足りなかったのだ。

それからは、彼女との訓練は無意識に力加減を覚えるようになってしまった。



明日の入団試験、全力で戦ってやろう。

俺が男で、お前は女なのだということを証明してやる。

そして、最高に屈辱的なやり方で、お前の澄ました顔を歪ませてやる。


恨めばいい。

恨んでくれれば、俺は、未来永劫ライリーの心の中で生き続けていくのだから。





やんでる

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