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屈辱を受けた日






思えば私の記憶は、最悪な場面で蘇った。









背後には硬い大理石の壁、前には眩く輝くプラチナブロンドの髪を揺らしながら、私を壁に押し付ける男。

その男は私の両腕を、体格に見合った大きな左の手でまとめて押さえつけている。

もう片方の手は顔が逃れられないよう、顎をグッと掴みホールドしていた。

ブロンドの男、基、《レイモンド・アーロン》学生は、その美しい美貌をまるで滑稽なものを見るかの様に歪めている。

暫くにらみ合いが続くと、彼は私を脅す様な声色で囁いてきた。




「…これで分かっただろう、ライリー・クロード。


お前は只の”女”だ。


男の俺には勝てない。」






ライリー・クロード?


其れは、この世界で生を受けて17年。

女騎士学生として生きてきたわたし、

黒瀬 頼くろせ らいのものだ。


なら黒瀬 頼とは誰だ?


侍大国ジャパニーズ出身!最後の記憶は確か今と同じく17歳!

剣道の大会の帰りに、トラック事故に巻き込まれあっさりとお亡くなりになった私の名前だ!



簡単に整理しよう。

どうやら死んで転生してしまった私は現世の私の屈辱的かつ最悪のタイミングで、前世の記憶を思い出してしまったらしい。

更に現世の私の待遇は、王国騎士団養成学園に通う唯一の女子学生という、乙女ゲームみたいなシナリオだった。


ライリー・クロードという女子の人物像は、自分の記憶上ではあるが何となく把握している。

冷静沈着、清廉潔白、文武両道、彼女を表すのに相応しい四文字だ。

実はしがない庶民の出身であったが、幼い時に野盗に両親を殺され、引き取られた貴族階級の家がたまたま騎士家庭であったが為に、この道に足を踏み入れた。

殺された両親の無念を晴らすため、日夜修行に励んだお陰か、若干12歳の若さにして入学試験を易々とクリアし、王国騎士団養成学園に入学。(本来貴族しか入学できない為、殆どの貴族家庭は、自宅学習が落ち着く13〜15歳で入学し、全員5年間で卒業する)

学園始まって以来の女子学生となった。


無論彼女はいつでも好奇の目に晒されていたので、時には男子学生から告白されたり、レ◯プ未遂だったり、男女のいざこざはあった。

しかし、一人で入学してからの5年間、女としての屈辱を受けてきたが、何か起きた時は実力でねじ伏せてきた。



そして目の前で先ほどから傍若無人に振る舞う男レイモンド・アーロン


この男、ライリーより一つ歳上で学園の同期である。

二人がいる国《アーロン王国》の王位継承権第一位であり、実は正真正銘の王太子なのだ。

正に王子様、といった容姿の彼は190の長身に加え引き締まった体躯、勉学での成績は目覚ましく、武術や剣術の腕前も天才的な才能を発揮し、更に努力家という目に見えた一流である。


入学してからの二人は常に比較の対象であり、これまでに何百回と模擬戦で組まされてきた。

レイモンドは卓越した剣術でライリーを翻弄しようとし、

ライリーはレイモンドの剣術を完全に見切っており、するりと交わしカウンターを狙う。

実力はほぼ互角。



…の筈だった。







ライリー達は現在、卒業試験の真っ最中である。

今日は試験管として現役騎士団長がおり、対戦相手との模擬戦で実力を見て、騎士団への入団を決定するという重要な日。

いつもの訓練場には卒業試験を受ける50人程の学生と各教科の教師に校長、更に騎士団長とギャラリーがひしめき合い、二人の試合に注目していた。

二人はいつものように剣技を出し合い、激しい戦闘を繰り広げた。

決着がつかない試合にやはり互角か、と周囲は納得しかけたその時だった。


五年に渡る二人の戦いに終止符を打ったのは、レイモンドだった。




レイモンドの突きをするりと受け流したライリーは、

上体を低くし、一瞬の隙をついて足払いを仕掛けた。

常のレイモンドなら軽々と避け次の一撃を仕掛けてくる筈なのだが、彼は簡単にバランスを崩し、身体が倒れそうになる。

ライリーは倒れた側とは逆の脇腹に更に蹴りを食らわせ完全に体勢を崩しにかかった。

しかし、フッと姿を消したレイモンドに蹴りは見事に外れてしまった。


気付いた時には遅かった。

蹴った足で見えない視界にレイモンドは屈むと、右手を伸ばし、剣を持っているライリーの右手を捕らえた。

掴まれた手の強さに、思わずライリーは剣を手放してしまう。

そして彼は力ずくでライリーを壁際まで引きずり、もう片方の手を掴むと、左手で一纏めにし壁に押さえつけた。


そして冒頭の場面は完成したのであった。


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