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部屋の中を見られないように仕切りのカーテンを敷く。玄関の電気は付けない。あまり顔を見られたくない。
ちょうど仕事に出かけるとこだったし、えっちゃんはパーカーを羽織い、カバンを肩にかけた。長居されても困る。
覗き穴からは引っ越してきた男一人。えっちゃんは無言でドアを開ける。
男はえっちゃんを見てしばらく黙っていた。
おそらく外国人の私に驚いたのかも。と決めて、[はい。なんでしょうか?]とえっちゃんから口を開いた。
[え?いや、あの。隣に越してきたコースケいや、ヨネダと言います]
えっちゃんは、だから?という距離を置く顔をするも、悪い人柄でなさそうなので内心、安堵していた。
再び沈黙。破ったのはコースケという男。
[エク…スコ?]
小さな声でよく聞こえず、えっちゃんは首をかしげる。
[い、いや、なんでもないです。よろしくお願いします]
[こちらこそ]
と、えっちゃんはそれだけ言ってドアをゆっくり閉めた。閉めた後急いで覗き穴から覗く。
男はもう居なかった。向かいのドアの閉まる音も聞こえなかった。おそらく外に出たのだろう。
仕切りのカーテンを開けると皆がそこに居た。
[聞こえた?]
えっちゃんの言葉に皆うなづく。
[なんか間抜けっぽいね]
ケイナの言葉。えっちゃんがクスリと笑う。
[大丈夫そうだね]
皆の感じた事をミヤビが代表して言った。
[でもホント気をつけてね。仕事行くわ]
えっちゃんは時計を見て言った。
久しぶりにサイコロを振った。一の目。サイコロをポケットにしまう。
玄関から出て、気配を探る。コースケという男の住む部屋からは何の気配も感じなかった。えっちゃんは階段を降りた。
通りに出る前に辺りを伺う。コースケの姿はどこにも見なかった。