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リョウさんの頬がほんのり赤く火照ってきてる。アルコールは弱い。
[さて。どこから話そうかな]
リョウさんはしばし沈黙。考え込む。
[私はあと二カ月後に三十歳になるのよ。二月二十八日。うるう年産まれだから四年に一度しか歳を取らないんだけどね]
リョウさんは一人笑って言った。がすぐ真顔になる。
[三十歳までに十億円の資産を稼がないと父に結婚させられるのよ]
それで三ヶ月で稼ぐと言っていたのか。
えっちゃんは納得する。
[キッズ服のブランドもやっと軌道に乗ったとこなのよ。会社売れば数億にはなるけど。仮想通貨もビットコインさえ少し上がれば]
リョウさんはブランデーを一口呑んでコップの中の氷を回した。
[本当ならわけの分からない人となんか組まないわよ]
コップの氷を覗き込むように見ながら言う。
仕手集団の事。
[焦ってるのは分かる。でも焦るのよ。父にも兄達にもタンカを切ったからね]
リョウさんは話し続ける。えっちゃんは黙って話に耳を傾ける。
[ヨースケも頑固なんだから]
えっちゃんはコースケの事かな?と思うが口には出さない。
[海外に向けての宣伝が全く足りてないのよ。コネは全て父のだし]
リョウさんは爪を噛む。話題が飛ぶ。一杯のアルコールでこんなに早く酔うものなのか?とえっちゃんは思った。ひょっとしたら会うまでにも呑んでいたのかもしれない。
ブランデーのビンの中身は半分近い量。さりげなくゴミ箱を見るも中は空。封を切ったゴミは見当たらない。だがそれだけで判断はつかない。
[買う人が居なければこのままの値段。売れないなら下げてまでも売られていくわ]
リョウさんは手の平で目をこする。朝方まで起きてるのとアルコールのせいで眠いのが一目で分かる。リョウさんはコップを額に当てる。
[私、あまり男は好きじゃないんだ。えっちゃんはどう?こんなおばさん嫌い?]
フフッとリョウさんは笑った。
おそらく酒を借りての本心なのだろう。えっちゃんは首を横に振った。
[結婚かぁ]
リョウさんの言葉はいつしか独り言になった。完全に酔っ払ってる。目も充血し言葉に力がない。
独り言からの推測だと、あと四億円足りない。えっちゃんの顔を出す事をどうするか悩んでる。仕手集団の明確な情報はまだ無い。懇意のクリエイターとの連絡がつかない。ヨースケは頑固。
ついにリョウさんはソファに横たわり寝入った。
かすかなイビキを聞いてリョウさんを抱き上げる。軽くはないが重くもない。
ベッドに入れた。抱きしめられる。そのまま少しだけ動かず。それからゆっくりと首に巻かれた手をほどいた。
リョウさんも苦しんでるのが分かった。私だけが苦しんでるんじゃない。少しだけ救われた気がした。
えっちゃんはリョウさんの布団に潜り込んで目をつぶった。




