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足が止まったのは三十分も過ぎてからだった。無意識に閑静な住宅街を走り回った。
息切れの吐く息が白い。膝に手をついて立ち止まる。立ち上がり大きく息を吐く。
[何やってるんだろう]
えっちゃんは小さく呟き歩き出す。
ミゾレ混じりの雨は雪になっていた。東京では珍しい雪。駅の方に向かう。辺りは静かだった。
ユダのように強固なコネがあるわけではない。リョウさんのように金稼ぎに長けてるわけでもない。わたしには何にもない。誰かに助けられている。アケミさんから始まり、ユダさんやキャサさん。コースケ、リョウさん。マトンさん達。
コースケを呼び捨てにするなんておこがましいにも程がある。
自分の無力さが。何様のつもりだったんだろうか。
自分より弱く小さな生き物を相手にして
ただけ。自分の小ささを見失っていた。
私には一千万円の価値もない。
駅の明かり。濡れてる私を皆が見ていくのだが誰もが素通り。
このままだと必ず駅員か警察に職質されてしまうのに気付く。駅にも入れない。
駅の裏通りにある小さなスーパーの日差し受けの下で雪をしのぐ。
ポケットから振動。携帯電話からの着信に気付く。
相手はコースケ。着信が切れる。数秒後にリョウさんから着信。心配してる。
でも電話に出なかった。出られなかった。甘えたばかりでさらに甘えてしまう。ここで甘えてしまったらさらに自分が無力になる。携帯電話が静かになる。
着信履歴が登録されてない電話からも何件か着ていて全部で八件もあった。おそらくマトンさん達。
背後で突然、羽音。スーパーの物置の裏から。覗き込む。カラスがもがいている。傷ついてる。命が小さく消えてくのが分かる。
えっちゃんはカラスを抱き抱えた。
おそらく車にぶつかったと思う。
カラスの口から血が。カラスが二、三回痙攣し動かなくなった。
無力感が増す。何も出来ない。何もしてあげられない。
えっちゃんはカラスを抱えたまま歩き出した。先程見た広い自然公園に埋めてあげようと思った。




