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えっちゃんは丁寧にお礼を言いユダの店を後にした。三時間以上もユダの店に居た事に驚いた。ほんの三十分くらいかと思ってた。夜の七時。悩んだがリョウさんのホテルへ。一千万円を早く返したかった。札束を隠すようにマフラーを紙袋に入れる。
警戒するアンテナを張る。警察やスリ。そしてユダの誰かが見てるかもしれない。
ホテルに着きリョウさんに電話。出なかった。ホテルのボーイにリョウさんを呼んでもらうも、出掛けた。との事。
電話してからホテルへ行くべきだった。リョウさんが居ないとは思わなかった。
まだどこか気持ちが落ち着いてない。歯噛みするも、紙袋をリョウさんに渡すようボーイにお願いした。
ホテルから出る。やる事がなくなった。
コースケに電話するも出ない。
このままアパートへ帰る気には何故かならなかった。
答えが出てしまったからだ。
このままずっとは難しい。いやほぼ確実に無理。と。
皆と幸せになりたいと考えて動いてきた。でもあの子達をきちんとした人生に戻すには離れ離れにならざるおえない。
再会の喜び?それまで待てない。ずっと一緒にいた方が喜びは大きいに決まってる。
ユダに見透かされた事。恐怖を感じた事で弱気になってる。
それもあるが、自分でなんとかできる。と思ってた根拠のない自信が崩れたからだ。
リョウさんのホテルに行ったのに居ない。少し空回りしてる。
こういう時は大人しくしていた方がいい。そう経験が告げる。分かってる。だが身体が動かない。
えっちゃんは思ってたよりも打ちのめされていた。
ユダと居た時にはどんな事でもやる。と覚悟は決めたはずなのに。
寒さ。ミゾレ混じりの雨。
小さな公園の屋根があるベンチに座る。
思考が帰れ。と告げてるを心が拒否してる。何も考えたくない。
マーロンのお姉さん。一千万円あれば完治するのか?おそらく難しいだろう。闇医者の値段は正規の倍か、ふっかけても三倍だと聞いている。
正規の値段でも三百万円かかる病気。
結局は無理なのだ。マーロンもえっちゃんも破綻を先延ばしにしているだけ。
二人組の警察官の姿が視野に入る。一人がえっちゃんに気付く。えっちゃんは立ち上がって走り出した。
後ろから、ちょっと君。と声が聞こえた。
えっちゃんは足任せに走り続ける。追ってこないのが分かっても足を止めなかった。
何も考えたくなかった。




