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[なんで知ってるんですか?]
リョウさんの事まで知っていた。身体が強張る。アンテナが鋭く震える。
[嫌でも入ってくるんだよ。情報は]
トオルも同じ事を言っていた。キャサの言葉も思い出す。ユダのネットワークは計り知れない。と。
[なんで私に?]
[君に興味があるからかな。僕はね。興味を惹かれた事には知らずにはおけない性分なんだ。特に本物はね]
[私は本物ではないです]
[それは自分が決める事じゃない。他人が決める事だ。ダイヤが高価なのかはダイヤが決てるのではなく人間だろ?]
[マーロンは?リョウさんは?]
[本物の条件が変わってくるね。僕の場合は知りたい。と思った人が本物と思ってる。とにかく誰も損はしてないから]
[私の何を知りたいんですか?]
話が全く分からない。えっちゃんは納得できない。
[えっちゃんの過去かな。コースケにも興味があるけどね]
[なんでコースケの事を]
アンテナの針が大きく揺れる。
[コースケがえっちゃんを探し回ってるのを教えてくれた人が居てね。そりゃ誰でも興味は湧くさ。知ってる?彼、偽名だよ]
[直接コースケに聞いたらいいじゃないですか]
えっちゃんは警戒心を隠せなかった。ユダは恐ろし過ぎる。どこまで知ってるのか?何を知ってるのか?
ユダはゆっくりと口を大きく開いた。笑ったのだ。
[怖がらせるつもりはなかったんだ。ごめんよ。でも少し安心したよ。うん。えっちゃんも普通の人間だった]
ユダは大きくため息をついて、椅子に座った。
[僕はね。その人間の底を知りたいんだよ。どこが底かをね]
ユダはえっちゃんにも座るように手を椅子に向けた。えっちゃんは座らない。
[やっとえっちゃんの恐怖の気持ちを見たよ。ありがとう]
話はこれで終わり。と言うようにユダは深く頭を下げて感謝の言葉を言った。
最後までユダのペース。
[なんでこんな回りくどい事をしたんですか?]
[人脈作りだよ]
[それで誰が得をするの?]
[えっちゃんは何の為にマーロンに渡したの?]
[私の質問にまず答えて]
えっちゃんは自分でも分かってた。恐怖を誤魔化す為に質問している事を。でも口は止まらない。
[そもそも得とか損とかそんな話じゃないんだ]
[もし得するとしたら誰が?]
えっちゃんは譲らない。なんでこんな意固地になってるのか。自分の感情が抑えられない。納得するまでは。
ユダは目元を緩めてクスリと笑った。
しょうがない駄々っ子を相手に笑った。それはえっちゃんにも伝わる。どんどん自分の手綱が掴めなくなる。
[得するとしたら関わった人全員かな。えっちゃんにマーロン。その姉に仲間。桜井にその仲間、僕と僕の仲間。それからその兄弟に家族]
[全く分からないです。誰が得を]
えっちゃんの声が大きくなる矢先に、ユダが突然椅子から立ち上がりえっちゃんの目の前でパン。と合わせ手を鳴らした。
えっちゃんはよろけて椅子に座る。
[ごめんよ。君は今、理性を失ってる。嬉しくてついやり過ぎた。本当ごめんなさい]
立ったままユダは深くお辞儀をした。




