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再び目を瞑るものの、眠気は訪れず携帯電話を開く。インターネットの世界は時間を奪う。
ファンタスフィックを見ていたのが、知らない用語を調べていくうちに、何故か一世代前のギャル語の説明が載ってるサイトを観ていた。時間は七時半を示してる。外が明るくなってる事も気づかなかった。
銃の事も調べたかったが、起き出し朝ご飯の支度。売れ残りの食パンに砂糖を入れた溶き玉子を塗ってフライパンで焼く。これなら玉子は目玉焼きより少なく済む。安かったキュウリ。アボカド。マヨネーズで和えてサラダに。マヨネーズは誰もが喜ぶ魔法の調味料。
お菓子の空き箱が増えてる。今まではほとんど無かった。あったとしても業務用煎餅が大半。腹持ちはいいし、しょっぱいから水も飲むし、なにより飽きる。
だがお金がはいった。
お金が無いものだと思い込もうとしても、どうしても買ってしまう。
買い溜めの食材も増えた。ホットケーキミックスの粉や、シリアル。
起きたのはケイナ。ケイナと朝ご飯を食べてえっちゃんは出かける。
電車でリョウさんのホテルへ。通勤ラッシュ。朝からよほどの事がない限り職務質問は受けない。それでも目立たないようにマフラーと帽子。
電車内。ほとんどの人が携帯電話を観ている。えっちゃんはその人達を眺める。誰もがそれぞれの世界の中で生きている。
ここは平和なんだ。と思った。夢の中の汚水と火薬が混じった匂いを思い出す。その匂いを嗅いだ人はここには誰も居ないだろう。汚水の中に顔をうずめた人も居ないだろう。
自分も嗅いだ事もうずめた事もないのに。と思い直しマフラーに顔をうずめて笑った。
リョウさんはロビーで新聞を読んでいた。昨日と同じ席。えっちゃんが座ると共にウェイトレスがすぐに来てダージリンを注ぐ。
[今日は夜にマトン達と会うけど大丈夫?]
リョウさんは新聞に目を向けながら言う。
[大丈夫です]
[遅くなるかもよ]
[大丈夫です。連絡しときます]
連絡さえしとけば、あの子達は安心する。
リョウさんは満足気な笑顔を見せた。
買い物に出掛ける。買い物というよりはウィンドウショッピング。リョウさんは買う気配は無いし、実際に一つも買ってない。早めのランチ。カフェ。少し寒いのにテラス席にリョウさんは座る。その辺りでえっちゃんは誰かに尾行されてる。もしくは見られてる事に気付く。
[誰かに見られてませんか?]
えっちゃんは小声で言う。
[え?気のせいじゃないかしら?]
と意外な顔をしてリョウさんは言う。さりげなく通りや周りを見渡す。一人の男が視線を外す仕草。違和感。警察とは思えない。えっちゃんは気付かないフリをするも落ち着かない。




