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真面目で重くなりつつある空気をどかすように、
[ご飯食べましょ]
とリョウさんは言い、フロントに電話した。
パンも、卵もウィンナーもサラダもスープ。先程飲んだダージリンティーもあった。どれもこれも全て美味しかった。
リョウさんは食べながら自分の話をしだす。
四人兄弟の末っ子。兄が三人。韓国の高校、アメリカで大学で生活。一流企業先の就職先の事。
えっちゃんは聞き役。携帯電話二台が同時になって話は中断になった。
時計は十時を過ぎていた。二時間以上もリョウさんは身の上話を話ししてた事になる。
リョウさんは片方の電話を耳で抑えながら、パソコンの前に陣取る。どのパソコン画面にもグラフや数字の羅列が表示されている。
仮想通貨の話をしている。
たまに、もう一台の携帯電話をいじってる。
リョウさんは、えっちゃんが居ないかのように、ノートパソコン見つめながら電話で会話。
ほとんど空になった食器を洗おうとも考えたが、ここには洗う場所も洗剤も無い。
リョウさんの忙しない動きを眺めるしかなかった。
電話をしながら、違う電話で違う相手に電話してる。
何かお手伝いは?と聞く事すらためらう。
リョウさんの声が渇いた声質になったのに気付き、お水を入れたコップを持ってく。リョウさんは笑ってコップを受け取り一息に飲んだ。それから、声に出さずに、美味しっ。と笑って答えた。
楽しそうに仕事をしているように見える。
三台のパソコンを次々とクリックしてる。
電話相手は分からないが、向こうもパソコンを見ながら電話してるように思える。
[それじゃあ、よろしく頼むわね]
の声が聞き取れてようやくひと段落ついた雰囲気。満足感のある表情。上手くやったみたいだ。
[さて、次はえっちゃんの身長とか計るわよ]
リョウさんは言いながらもまだパソコンのマウスを握ってグラフを眺めてる。が、やがてパソコンから身を離して、脱ぎ始めた。
光沢のある黒いシルクのブラジャーとパンツ。モデルのようなくびれ。
えっちゃんが居ないかのように目の前を通り、ドレッサーを開け、着る服を選び始める。
ピチッとした黒のスーツ。オーダーメイド。小さな腕時計をはめ、一台のパソコンと書類をカバンに詰める。
携帯電話をポケットに入れる。鏡で少し髪の毛を整え、
[行くわよ]
サラリと言ってドアに向かう。
えっちゃんはリョウさんの後をついて行くだけ。




