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二人心地良い無言のままダージリンを心ゆくまで堪能する。
最後の一口を飲み干したリョウさんが言う。
[ここのパンも美味しいのよ]
それで気付く。リョウさんの携帯四個がどれも色とりどりの点滅。メールかラインが届いてる。
[連絡きてますよ]
えっちゃんは伝える。リョウさんは、ありがとう。と言って携帯を開き出す。
リョウさんの指が動いてる、返信してる。
[朝ご飯は部屋で食べましょう]
とリョウさんは立ち上がる。リョウさんはタイトなジーンズに少し厚手の白いTシャツと軽装。ここに宿泊してると分かる服装だった。
携帯を持ち、エレベーターへ向かう。えっちゃんはその後をついていく。
60階。エレベーターが開くと廊下エントランスにカウンターがありそこにボーイがいた。
ボーイがリョウさんに鍵を渡す。
[スィートじゃないけど我慢してね]
とリョウさんが言った。
部屋は広かった。にもかかわらず入り口のドアまで朝日が差し込んでいた。窓は一面のガラス。電動カーテン。ダブルのベッドが二つ。ベッドの片方に衣服が散らばっている。
大型テレビ。スリッパの要らない絨毯。
空調も快適。
片隅の壁の机にノートパソコンが四台開いて置いてある。
パソコンの電源コードの他に携帯充電器のコードが何本も絡んでる。
その椅子の上や床に紙やノート。雑誌類。
その一角だけ散らかり不自然に感じる。
[ここが私のオフィスよ]
リョウさんは腰に腕をあてて言った。
ここに住む。いったいいくらかかるのか検討もつかない。それ以上稼げるのか。
[きちんとした仕事をするにはそれなりの生活レベルを維持しないとね。と言いたいところだけど…実は父のホテルなのよね]
[なんでそんな事を私に?]
[秘密でもなんでもないわ。私がここの娘だって事は調べたら誰でも分かる事よ。この部屋は身内が泊まる部屋なのよ。ほら]
と言って隣の部屋のドアを開けた。その部屋には使われてない机や椅子。ダンボールが積まれていた。ダンボールにはグラス、食器、壺と書かれてある。倉庫と化してる。
[ここはセキュリティが完璧なワイファイがあるのよ。それでここを使うのよ。当分の間ね]
[秘密なのは、私がこの部屋に寝泊まりしてる事。そしてこの事を知ってるのはえっちゃんとパパと数人の従業員]
リョウさんは、えっちゃんの顔を覗き込むように近づいて言った。
[なんで私だけ?]
えっちゃんの質問に、リョウさんは答える。
[貴方が今回の鍵だから。えっちゃんが居ないと全て意味ないからよ。だから出来るだけ隠し事はしたくないの]
それからリョウさんは少し間を空けて口を開く。
[えっちゃんも隠し事をしないで欲しい]
えっちゃんは首を縦に降った。分からない事はたくさんあるが隠す事は何もない。




